おとうさんと一郎君は、むちゅうになって、白犬のぬいめをとき、なかのワタを、みんな取りだしてしらべましたが、黄金のトラは、どこにもないのです。
「オーイ、きみたち、あやしいやつを見なかったか。」
おとうさんは、みはりをしている、ふたりの青年に声をかけました。青年たちはおどろいて、かけこんできました。
ふたりのボクサーは、すこしも、もちばをはなれなかったのです。ドアも窓も、しまったままでした。それに、魔法博士は電話をかけていたのですから、ここへこられるはずはありません。
ふしぎな魔法をつかったのでしょうか。博士のからだが、ふたつになって、空気のような目に見えない姿で、この部屋へしのびこんだのでしょうか。
おとうさんと一郎君と、ふたりの青年とで、応接間のなかを、くまなくしらべましたが、どこにもあやしいところはありません。ぬけ穴はもちろん、人間のかくれるような場所もなく、黄金のトラも発見されませんでした。
一郎君はいそいで、小林団長に電話をかけましたが、どこかへ出かけて、るすでした。小林少年は、いったい、どこにいたのでしょうか。
うちじゅうが、おおさわぎになりましたが、ふつうのどろぼうではないので、警察にとどけるわけにはいきません。ただ、ふしぎだ、ふしぎだと、いいあうばかりでした。
六時ごろでした。みんなが応接間に集まっているところへ、一郎君が学校のカバンをさげて、はいってきました。そして、へんなことをいうのです。
「おとうさん、白犬は?」
おとうさんは、びっくりして、一郎君の顔を見つめました。
「おまえは、なにをいってるんだ、白犬は、さっき、こわしてしまったじゃないか。」
「えっ、こわした。それじゃあ、もしや、あれを、盗まれたんじゃありませんか。」
いよいよ、へんです。一郎君は気でもちがったのでしょうか。
「おまえ、学校のカバンをさげたりして、いったい、どこへいってたんだ?」
「ぼく、学校から帰るとちゅうで、むりに自動車にのせられ、さるぐつわをはめられて、へんなうちへつれていかれたのです。そして、いま、自動車で、うちの近くまできて、目かくしをはずされたんだけど、そのときには、もう自動車はどっかへいってしまって、かげも見えなかったのです。」
それから、午後四時には、一郎君とそっくりの少年が、白犬をだきしめて、応接間にいたのだと聞かされて、一郎君はびっくりしてしまいました。
「そいつは、ぼくのにせものです。魔法博士が、ぼくをへんなうちへ、とじこめておいて、そのまに、ぼくとよくにた子どもに、変装をさせて、ここへよこしたのです。
ぼくにばけた子どもが、白犬をだきしめているあいだに、ぬいめをといて、黄金のトラを盗んだのです。おとうさん、そのぼくとそっくりの子どもを、応接間に、ひとりぼっちにしておいたことはありませんか。」
「そういえば、わしが手洗いへいくあいだ、ひとりぼっちになっていた。さては、あのときに、盗みだしたんだな。」
おとうさんも、やっと、そこへ気がつきました。それなら、一郎のからだをしらべればよかったと思っても、もうあとのまつりでした。
そのとき、またチリリリ……と、電話がかかってきました。おとうさんが受話器をとると、さっきと同じしわがれ声で、
「どうです、魔法博士の手なみは? あんなによくにた子どもが、ほかにいるとは思わなかったでしょう……。」
魔法博士の電話の声が、つづきます。
「わしのおおぜいの少年の弟子のなかから、あんたのむすこさんと、よくにた子どもをさがしだし、その少年の顔を、わしのとくいの変装術で、一郎君とそっくりにばけさせた。それから、きょう、一郎君をわしのうちへつれてきて、一郎君の口のききかたや、みぶりを、その少年におぼえさせたのです。
ハハハ……、どうです。わしの魔法の力が、わかりましたか。さあ、こんどは少年探偵団が、黄金のトラを取りかえすのだ。一郎君に、そうおつたえください。」
そして、プッツリ電話がきれました。
さて、お話は、すこしまえにもどります。その日の、午後三時すぎから、井上さんのうちのまわりに、ふしぎなことが、おこっていました。
井上さんの門の前には、こじきのようなきたない少年が、へいにもたれていねむりをしていました。その横のポストのうしろには、酒屋の店員のような子どもが、身をひそめていました。裏門のそばの電柱のかげや、そのむこうのゴミ箱のかげにも、新聞配達とか、牛乳配達のような少年が、かくれていました。それらはみんな、少年探偵団員の変装なのです。