八人の少年が、いろいろの変装をして、井上さんのうちのまわりを、見はっていたのです。また、そこから百メートルほどの町かどに、一台の自動車がとまっていましたが、そのうしろの、荷物をいれるトランクのなかには、団長の小林少年が、やっぱり店員にばけて、身をひそめていたのです。運転手のゆだんを見すまして、そっとしのびこんだのでしょう。
自動車のとまっている近くに、公衆電話のボックスがありました。三十五―六に見える会社員らしい男が、ボックスのなかにはいって、電話をかけています。
その電話ボックスの外に、ひとりの少年が、小さくなってかくれていました。店員らしいふりをしていますが、顔は野呂一平君とそっくりです。あいきょうもののノロちゃんにちがいありません。
男は電話をかけおわると、ボックスを出て小林少年のかくれている自動車にのりこみました。
すると、うしろのトランクのふたが、五センチほど、そっと開いて、なかから、小林君の目がのぞきました。ボックスのかげにいるノロちゃんらしい少年が、それにむかって、しきりに手まねをして見せています。あやしい男が、自動車にのったことを、知らせているのでしょう。
そのあいずを見ると、トランクのふたは、そっとしまりました。しかし、自動車はまだ出発しません。だれかを待っているようです。
しばらくすると、井上さんのうちのほうから、一郎君とそっくりの少年が、いそぎ足にやってきて、キョロキョロと、あたりを見まわしながら、怪自動車に近づきました。
すると、さっき電話をかけた男が、自動車のドアを開き、ニューッと手をのばして、一郎君とそっくりの少年を、なかへ引っぱりこんでしまいました。
ふたたび、トランクのふたが、そっと開いて、小林君の目がのぞきました。ノロちゃんもまた、ボックスのかげから、手まねをして見せました。少年がのりこんだことを知らせているのです。
自動車は出発しました。それが、むこうの町かどに消えると、ノロちゃんは、電話ボックスのかげからとびだしてきました。そこへ、どこからともなく、いろいろの変装をした少年たちが集まってきて、口ぐちに、ささやきあうのでした。
「いまごろ、一郎君が自動車にのって、どっかへいくなんて、なんだか、おかしいね。」
「うん、あいつ、一郎君のにせものかもしれないぜ。」
電話をかけた男は、魔法博士が変装していたのです。あとから自動車にのりこんだのは、一郎君にばけた博士の弟子の少年でした。ですから、少年の服のどこかに、あの黄金のトラがかくされていたはずです。
博士と少年とは、宝物を取りかえして、秘密の場所へかくそうとしているのです。いったい、この自動車は、どこへいくのでしょうか。
小林君は、はやくも、それをさっして、トランクのなかへ、かくれたのですが、ノロちゃんの手まね信号で、いっそうはっきりしました。さすがの魔法博士も、じぶんの自動車に、敵の団長がしのびこんでいようとは、夢にもしりません。
小林君は、どこまでもあとをつけて、黄金のトラのかくし場所を、たしかめてやろうと決心しているのです。
自動車は一時間走っても、まだとまりません。小林君は、せまいトランクのなかで、からだをまげているので、だんだん、肩や腰がいたくなってきました。もう東京の町をはなれたらしく、道がわるくなってきたのが、わかります。そのうちに、のぼり坂になりました。右に左に、きゅうカーブを切りながらのぼっていきます。東京を遠くはなれた、山のなかを走っているらしいのです。
自動車がカーブを切るたびに、小林君のからだは、トランクのなかでゴロゴロところがり、どこかをうちつけるので、もうとても、がまんができないと思いましたが、そのうちに、やっと速度がにぶくなり、自動車はピッタリと、とまりました。腕時計の夜光の針を見ますと、もう七時に近いのでした。外は、まっ暗な夜になっているのでしょう。
自動車がユラユラとゆれて、だれかがおりていったようです。小林君は、トランクのふたをそっともちあげて、外をのぞきました。まっ暗です。そして、すがすがしい木の葉のにおいが吹きこんできました。やっぱり山のなかなのでしょう。
敵に見つかっては、たいへんですから、用心に用心をして、ふたを大きくひらき、あたりを見まわしました。
それから、そっとトランクを出て、暗やみをさいわいに、地の上をはうようにして、自動車のよこにまわり、なかをのぞいて見ますと、魔法博士も少年も運転手も、だれもいないことがわかりました。三人が、どこかへ、黄金のトラをかくしにいったのに、ちがいありません。
そこは、深い山のなかでした。自動車のヘッドライトが消してあるので、あたりはしんのやみです。
三人が、まだ、そのへんにいるのではないかと、やみをすかして見ましたが、なんのけはいもありません。
ふと気がつくと、むこうのほうに、人だまのような赤い火が、ボーっと見えていました。気味がわるいけれども、勇気をふるって近づいてみますと、それは小さな山小屋で、石油ランプのあかりが、窓のしょうじに、うつっているのでした。
あかりがついているからには、人間がすんでいるのだろうと、小林君はその小屋の前に立って、板の戸を、コツコツとたたきながら、声をかけました。
「おじさん、ちょっと、ここをあけてください。」
すると、ゴホンゴホンと、せきの音がして、「だれじゃ。」といいながら、ひとりのじいさんが、戸を開きました。
それは、もう六十ちかい、ひげむじゃのじいさんでした。木こりか炭焼きなのでしょう。
「ぼく、友だちと、はぐれてしまって、道がわからなくなったんです。ここは、いったい、どこですか?」
「ここかね、ここは西多摩郡のはずれの山のなかだよ。なだかい鍾乳洞の近くだ。昼間はバスも通るところだよ。」
その鍾乳洞のことは、小林君もきいていました。よく学生がおおぜいで、探検にいくところです。岩山にほら穴があって、そのなかは、八方に枝道が、わかれている、あの地底の迷路なのです。
「さては、魔法博士たちは、その迷路のなかへ、黄金のトラをかくしにいったんだな。」
小林君は、じいさんに、鍾乳洞への道をきいて、暗やみのなかを、そのほうへ、たどっていきました。けわしい坂道を三百メートルものぼると、やみの中に、やみよりも黒い大きな岩穴が、ポッカリと、口をひらいていました。鍾乳洞の入口です。そっとのぞいて見ると、ずっとおくのほうに、懐中電灯のひかりが、チロチロと動いていました。
「たしかに、そうだ。しかし、魔法博士たちが帰ってしまっても、ぼくひとりでは、迷路にまよって出られなくなるかもしれない。そうだ。つぎの日曜日に、いろいろな道具を用意して、団員たちと、鍾乳洞探検旅行にくることにしよう。そして、みんなのちからで、黄金のトラのかくし場所を、みつけ出すことにしよう。」
小林君は、そう心にきめました。