きょうは日曜日です。いよいよ少年探偵団が、奥多摩の鍾乳洞を探検に出かける日です。団長の小林君と、ノロちゃんと、井上一郎君のほかに、からだのじょうぶな団員ばかり七人、そうぜい十人の探検隊です。朝はやく新宿駅に集合して、電車にのり、べつの電車にのりかえ、それからバスにゆられて、十時ごろに、鍾乳洞のそばの山小屋につきました。
山小屋の戸が開いていたので、なかをのぞきますと、このあいだのじいさんが、火のないいろりの前に、あぐらをかいて、キセルのタバコを、スパスパすっていました。
「やあ、おめえら、鍾乳洞を見物にきただか。気いつけるがええだぞ。あんなかには、枝道があって、まよったら、出られなくなるだからな。」
「だいじょうぶですよ。ぼくたち、ちゃんと用意してきたんです。百メートルもある強いひもの玉を、三つも持ってるんです。このひもを、入口にくくりつけて、それをつたって、はいりますから、道にまよう心配はないのです。」
そのほかに、懐中電灯が六個、登山ようのピッケルが三本、そして、みんなが、おべんとうと、水筒と、呼び子の笛を持っているのでした。
「おじいさんは、猟師ですね。」
小林君が、小屋の壁にかけてある猟銃を見て、いいました。
「うん、猟師が本職だ。この山にはクマがいるでね。このあいだも、大きなやつを、一ぴき、しとめただよ。ときによると、クマのやつ、鍾乳洞の近くまで、のこのこ出てくるだ。」
じいさんは、そういって、にやにや笑いました。
少年たちは、びっくりして顔を見あわせました。
「ハハハ……、なあにしんぺえするこたあねえ、めったに出ねえだ。出ても人の通る道ばたにゃ近づかねえ。おめえら、そんなにおおぜいだから、クマのほうで逃げっちまうだよ。……まあ、気いつけていくがええ、クマよりゃ、穴のなかで、まよわねえようにな。」
そこから鍾乳洞までは、三百メートルほどの、けわしい山道です。このあいだの晩、小林君は魔法博士を見うしなっては、たいへんだと思って、むちゅうで登りましたが、クマが出るときくと、なんだか、気味がわるくなってきます。
十人の少年たちは、大きな木におおわれたうす暗い山道を、一列になって、少年探偵団の歌をうたいながら登っていきました。
「キャーッ!」
山のぼり用の道のまんなかから、とつぜん、びっくりするような悲鳴が、おこりました。みんなが、そこへ駆けよってみますと、ノロちゃんが、まっさおになっているのです。
「うすぐろいやつが、そこのササッパのなかから……。」
といって、道ばたのクマザサを指さしました。
「クマの子どもじゃない?」
「うん、そうかもしれない。ぼくにとびかかって、サッと、あっちのしげみに、かくれてしまったよ。」
それをきくと、ノロちゃんのあとにいた井上君が、ワハハハと笑いだしました。
「なんだい、弱虫だなあ。あれはウサギだよ。茶色のウサギが、道をよこぎったんだよ。」
「なあんだ、ウサギかあ!」
「ノロちゃんはクマが出やしないかと、ビクビクしてるもんだから、クマの子に見えたんだよ。ねえ、ノロちゃん、ぼくがついてるから、だいじょうぶだよ。クマが出たら、金太郎みたいに、ぼくがねじふせてやるからね。」
おとうさんがボクシング選手だけに、井上君は、腕にじしんがあるのでした。
いよいよ鍾乳洞の入口につきました。大きなほら穴が、ガッと、まっ黒な口を開いています。このなかへはいるのかと思うと、勇敢な少年団員たちも、すこしばかり、こわくなってきました。
「さあ、井上君、きみがいちばん力が強いんだから、このひもの玉を持つんだよ。まず、ひものはじを、その岩へ……。」
「よし、ここへ、しっかり結びつけるよ。」
井上少年は、ひものはじを、岩のでっぱったところへ、くくりつけました。
「さあ、出発だ。電池がきれるといけないから、懐中電灯は半分ずつ、つけることにしよう。きみと、きみと、三人だけ。」
そして、十人の少年は、小林団長をさきにたてて、どうくつへふみこんでいきました。
三つの懐中電灯のまるい光が、ゴツゴツした岩はだを、つぎつぎとてらしていきます。足の下もでこぼこの岩ですから、よほど気をつけないと、ころびそうです。井上少年は、ひもの玉を、だいじにかかえて、うしろからついていきます。
くねくねとまがった道を、すこしいきますと、岩穴のてんじょうに、まっ白なものが見えました。
「あっ、鍾乳石だ。ほら、上から白い鍾乳石が……。」
どうくつのてんじょうから、きれいなまっ白な石が、ツララのように、いくつもたれさがっていました。
「あっ、下にもあるよ。でっかいお菓子みたいだ。」
それは、上からたれた石灰分が、かたまってできた、まっ白な石じゅんでした。鍾乳石や石じゅんのことは、学校でおそわっていましたが、見るのは、これがはじめてです。
バタ、バタ……と、どこかで、へんな音がしました。「おやっ!」とおもって、みんなが、たちどまっていると、どうくつのおくのほうから、サーッと、まっ黒なものが、とび出してきました。
「ワーッ、怪物だあ……。」
例によって、ノロちゃんです。ノロちゃんは頭を、両手でかかえて、そこへ、うずくまってしまいました。
「ワーッ、怪物だあ……。」
「ワーッ、怪物だあ……。」
どうくつのおくから、おなじ声が、だんだん小さくなりながら、いくつも聞こえてくるのです。おくのほうにだれか人間がいて、まねをしているのでしょうか。みんなはゾッとして、おもわず、からだをくっつけあいました。
すると、小林団長が、
「おどろくことはないよ。あれは、こだまだよ。ノロちゃんの声が、どうくつに反響したんだ。」