← Library‹ 天空の魔人 小林少年の推理

「どこで見みつかった?」

波野なみのさんも、井上いのうえ君くんのおじさんも、思おもわず、いすから立たちあがりました。

「森もりの中なかです。ごぞんじのように、横目よこめ駅えきと、矢倉やくら駅えきの間あいだに、森野もりの製材せいざい株式かぶしき会社かいしゃのためにひいた、専用せんようの支線しせんがあります。材木ざいもくをつみだすことは、月つきに五ご―六ろく回かいしかありませんから、へいぜいは、つかわない線せんです。あの支線しせんの通とおり道みちに、ちょっとした森もりがありますね。その森もりのまん中なかに、貨車かしゃがとめてあったのです。横目よこめ駅えきの駅員えきいんが、つい今いましがた、それを発見はっけんしたんです。」

「で、中なかの美術びじゅつ品ひんは?」

「かさばるものは、そのまま、のこってますが、持もちはこびのできる目めぼしいものは、すっかりなくなっています。近ちかくの農家のうかから、聞ききこんだのですが、あの晩ばん、そのへんを、トラックの通とおる音おとがしたということです。犯人はんにんがトラックで、美術びじゅつ品ひんをはこんだらしいのです。」

「やっぱり、そうだったか、小林こばやし君くんが明察めいさつしたとおり、巨人きょじんの腕うでじゃなかった。やっぱり犯人はんにんは人間にんげんだったね、……よしっ、それじゃ、きみ、いそいで本署ほんしょへかけつけてくれたまえ。容疑ようぎ者しゃの手配てはいだっ。そいつの写真しゃしんがここにある。……ご主人しゅじん、ちょっと。」

波野なみのさんは、トキワ館かんの主人しゅじんを手てまねきして、警官けいかんと三さん人にんで、部屋へやを出でていきましたが、しばらくすると、主人しゅじんとふたりだけが、もどってきました。さっきの警官けいかんは、写真しゃしんを持もって、横目よこめ町まちの本署ほんしょへかけつけたのでしょう。

さすがに波野なみのさんは、てきぱきと、事ことをはこびました。こんどは小林こばやし君くんが、感心かんしんする番ばんでした。

波野なみのさんは、部屋へやにもどって、いすにかけると、すぐに話はなしはじめました。

「ところで小林こばやし君くん、いまの巡査じゅんさもいっていたが、進行しんこう中ちゅうの列車れっしゃから、どうして貨車かしゃをぬきとることができたか、これが、だれにもわからないのじゃ。横目よこめ駅えきでも、矢倉やくら駅えきでも、みんなが頭あたまをあつめて、研究けんきゅうしたが、このなぞは、どうしてもとけない。

妖怪ようかい変化へんかのしわざとでも考かんがえるほかはないというのじゃ。小林こばやし君くん、いくらきみでも、この秘密ひみつはわかるまいね。」

「いいえ、わかっているのです。ぼくの推理すいりは、この貨車かしゃの問題もんだいから出発しゅっぱつしたのです。貨車かしゃの秘密ひみつがとけたので、ほかのことも、みんなわかってしまったのです。」

波野なみのさんも、井上いのうえ君くんのおじさんも、こんどこそ、心こころのそこから、びっくりしてしまいました。いくら名めい探偵たんていの弟子でしでも、進行しんこう中ちゅうの列車れっしゃのまん中なかから、一両いちりょうだけ貨車かしゃをとりはずすなんて、そんな魔法まほうをとくことができるのでしょうか。

「それじゃ、説明せつめいしてごらん。いったい、どうしてあの貨車かしゃを、とりはずしたんだね。」

「ぼく、紙かみと鉛筆えんぴつを持もってきます。絵えを書かかないとうまく話はなせませんから。」

小林こばやし君くんは、そういって、応接おうせつ間かんをかけだしていきましたが、やがて、大おおきな白しろい紙かみと、鉛筆えんぴつとを持もって、もどってきました。

そして、その紙かみをテーブルの上うえにひろげ、絵えを書かきながら説明せつめいをはじめるのでした。

「わかりやすくするために、十じゅう五ご両りょうでなくて、五ご両りょう連結れんけつの貨物かもつ列車れっしゃとしますよ。そして、一番いちばんめから五ご番ばんめまで、番号ばんごうをつけておきます。

とりはずすのは、三さん番ばん目めの三さん号ごう車しゃときめます。いいですか。そこで、この魔術まじゅつをやるのには三さん人にんの人ひとが、ひつようです。ちょうど、ここに、ぼくたち子こどもが三さん人にんいますね。ですから、仮かりに、ぼくたち三さん人にんで貨車かしゃをぬきとるという、たとえ話ばなしで説明せつめいしますよ。まず、三さん人にんのうちで、いちばん力ちからの強つよい人ひと、ぼくたちでいえば井上いのうえ君くんですね。その井上いのうえ君くんが、この支線しせんのさいしょの駅えきで、列車れっしゃがとまっているときに、機関きかん士しも車掌しゃしょうもまだのりこまないうちに、この三さん号ごう車しゃの、駅えきの方ほうからは見みえない側がわの戸とをひらいて、中なかにしのびこむのです。

むろん夜よるですよ。あの列車れっしゃが、支線しせんのさいしょの駅えきを出発しゅっぱつしたのは午後ごご七しち時じですからね。

そのとき封印ふういんをきって、錠じょうをねじあけるのですが、たとえば、ぼくならぼくが、井上いのうえ君くんがしのびこんだあとで、貨車かしゃの戸とをしめ、錠じょうや封印ふういんの紙かみを、もとのようになおして、ちょっと見みたのではわからないようにしておくのです。

井上いのうえ君くんは、三さん号ごう車しゃにはいるときに、長ながい、じょうぶなワイヤロープのまるめたのを、かついではいるのです。太ふとさが三さんセンチもあるロープですから、子こどもでは持もてません。おとなでも、よっぽど力ちからがないとだめです。ここでは、仮かりに井上いのうえ君くんが、それを持もてたとしておくのですよ。

さて、列車れっしゃは、あの晩ばん七しち時じに出発しゅっぱつしました。そして四よんつか五いつつの駅えきをすぎて、横目よこめ駅えきにつきます。あれから登のぼり坂ざかになって、列車れっしゃの速度そくどがひどくにぶりますから、そのときを見みはからって井上いのうえ君くんは、ひじょうにむずかしい仕事しごとを、やらなければなりません。いくら力ちからが強つよくても井上いのうえ君くんにはとてもできませんが、そういうことになれた、がんじょうな犯人はんにんならば、できただろうと思おもうのです。

やっぱり井上いのうえ君くんがやることにして、お話はなしますが、井上いのうえ君くんは、さっき錠じょうをやぶっておいた、駅えきのはんたいがわの戸とをひらき、ロープのはしを、からだにくくりつけて、三さん号ごう車しゃの外そとがわに出でるのです。貨車かしゃの外そとがわには、足あしがかりになるような、でっぱりが、かならずありますから、それをつたって、前まえの二に号ごう車しゃとの、連結れんけつ器きのところまで、たどりつくのです。

そして、連結れんけつ器きの上うえにまたがって、二に号ごう車しゃの連結れんけつ器きの輪わになったところへ、ロープのはしをとおしてねじりあわせ、その上うえから、細ほそい針金はりがねでぐるぐるまきつけ、どんな力ちからで引ひっぱっても、とけないようにするのです。これで一ひとつ仕事しごとがすみました。しかしまだあるのです。井上いのうえ君くんはそこで、もとの三さん号ごう車しゃの中なかへもどって、こんどは、ロープのべつのはしをからだにくくりつけ、もう一いち度ど戸この外そとへ出でて、うしろの四よん号ごう車しゃとの、連結れんけつ器きのところまでたどりつき、まえと同おなじように、四よん号ごう車しゃの連結れんけつ器きにロープのはしをくくりつけるのです。そうするとこんなふうになります。

つまり、二に号ごう車しゃと、四よん号ごう車しゃが、強つよいワイヤロープでつながれたことになるのです。そのロープは、三さん号ごう車しゃの駅えきの方ほうから見みえない側がわをとおっているので、ことに夜よるのことですから、めったに見みつかる心配しんぱいはありません。

それから、また、井上いのうえ君くんは、両方りょうほうの連結れんけつ器きのところへ、いかなければなりません。こんどは、ロープはもう、くくりつけてしまったから、なんにも持もたないで、貨車かしゃの外そとをつたわっていくのです。そして、二に号ごう車しゃと三さん号ごう車しゃの間あいだの連結れんけつ器きと三さん号ごう車しゃと四よん号ごう車しゃの間あいだの連結れんけつ器きをとりはずしてしまうのです。国鉄こくてつの連結れんけつ器きは、そんなにかってにはずせませんが、いなかの私鉄してつには、いまでも旧式きゅうしきな連結れんけつ器きが、ついているので、はずそうと思おもえば、はずれるのです。

これで三さん号ごう車しゃが、宙ちゅうに浮ういてしまいました。前まえの貨車かしゃにも、うしろの貨車かしゃにも、つながっていないのです。でも、うしろの四よん号ごう車しゃは、二に号ごう車しゃからのロープで引ひっぱられているので、間まにはさまっている三さん号ごう車しゃも、うしろからおされて、進すすむのです。」

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