← Library‹ 仮面の恐怖王 黄金仮面

それから一いち月がつほどは、なにごともなく過すぎさりました。そして、ある日ひのことです。京都きょうと市しの三十さんじゅう三さん間堂げんどうに、ふしぎな事件じけんがおこりました。

三十さんじゅう三さん間けん堂どうの細長ほそながいお堂どうの中なかには、おまいりの人ひとの通路つうろを残のこしてお堂どういっぱいに、ピカピカひかる金色きんいろの、人間にんげんとおなじぐらいの大おおきさの仏像ぶつぞうが何百なんびゃくというほど、びっしりならんでいます。

その夕方ゆうがた、小しょう学校がっこう六ろく年ねん生せいのふたりの少年しょうねん、高橋たかはし君くんと丸山まるやま君くんとが、お堂どうの中なかの通路つうろを歩あるいていました。もう、うすぐらくなっているので、おまいりの人ひともみんな帰かえってしまい、ガランとしたお堂どうの中なかには、ふたりの少年しょうねんのほかには人ひとの姿すがたもないのでした。

しかし、人間にんげんはいなくても、人間にんげんとおなじ大おおきさの金色きんいろの仏像ぶつぞうが、いくえにも、かさなりあって、かぞえきれないほど立たちならんでいるのです。

その何百なんびゃくという金色きんいろの仏像ぶつぞうが、だまりこんで、身動みうごきもしないで、夕ゆうやみの中なかにむらがっているようすは、なんともいえないぶきみさです。

「もう、帰かえろうよ。だれもいなくなってしまったじゃないか。」

丸山まるやま君くんが、心こころぼそそうにいいました。

すると高橋たかはし君くんは、ふっと立たちどまって、びっくりしたような顔かおで、むらがる仏像ぶつぞうのまんなかへんを見みつめました。

「高橋たかはし君くん、どうしたの? なにをそんなに見みつめているんだい?」

丸山まるやま君くんが聞ききますと、高橋たかはし君くんは、シーッというように口くちの前まえに指ゆびを立たてて、目めで、そのほうを、さししめしました。

丸山まるやま君くんは高橋たかはし君くんの目めを追おって、仏像ぶつぞうのむれの中なかを見みました。

おやっ! これはどうしたのでしょう。ウジャウジャ集あつまっている仏像ぶつぞうのまんなかに、一ひとつだけ、まったくちがったすがたの仏像ぶつぞうが立たっているではありませんか。

それは、ほかの仏像ぶつぞうよりもからだが大おおきいので、よく見みれば、すぐわかるのですが、頭あたまにはインド人にんのターバンのような金色きんいろの布ぬのをまきつけ、金色きんいろのダブダブのマントのようなものを着きています。顔かおはむろん金色きんいろですが、ほかの仏像ぶつぞうより大おおきな顔かおで、お能のうの面めんのように、うすきみがわるいのです。

気きのせいか、そのへんな仏像ぶつぞうは、黄金おうごんの顔かおで、じっとこちらを見みかえしているようです。二に少年しょうねんはその仏像ぶつぞうと、長ながい間あいだにらめっこをしていました。

すると、ゾーッとするようなことがおこったのです。へんな仏像ぶつぞうのからだがユラユラと動うごきました。そして、黄金おうごんの顔かおのくちびるがキューッと三日月みかつき形けいにめくれあがって、ほそい黒くろいすきまができました。笑わらったのです。黄金おうごんの顔かおが、ニヤニヤと笑わらったのです。

二に少年しょうねんは、あまりのおそろしさに、からだがすくんだようになってしまいましたが、高橋たかはし君くんは勇気ゆうきをだして、丸山まるやま君くんの手てをひっぱって、へんな仏像ぶつぞうの見みえないところまで、つれていきました。そして耳みみに口くちをあてるようにして、ささやくのでした。

「あいつ、見みたかい。仏像ぶつぞうじゃないよ。生いきているんだよ。身動みうごきしたじゃないか。そして、ぼくらのほうを見みて笑わらったじゃないか。」

「うん、そうだよ。あやしいやつだねえ。おばけかしら?」

「おばけなんて、この世よにいるはずないよ。あいつ、悪者わるものにちがいないよ。金色きんいろの姿すがたをして仏像ぶつぞうの中なかにかくれて、なにか、わるだくみをしているんだよ。ぼくたち、ここから、のぞいていよう。あいつ、もっと動うごくかもしれないからね。」

二に少年しょうねんは、ものかげに身みをかくして、そっと、のぞいて見みることにしました。

少年しょうねんたちの考かんがえは、あたりました。そのへんな仏像ぶつぞうみたいなやつは、動うごきだしたのです。

その怪人かいじんはむらがる仏像ぶつぞうをかきわけて、おまいりの人ひとの通路つうろへ出でて来きました。それで全身ぜんしんがあらわれたのですが、金色きんいろのマントの下したには、ぴったり身みについた金色きんいろのシャツと、金色きんいろのズボンをはき、くつまで金色きんいろでした。

怪人かいじんは、通路つうろのまんなかを、ゆうゆうと歩あるいていきます。二に少年しょうねんは遠とおくはなれて、そのあとをつけました。

「おい、あいつ、黄金おうごん仮面かめんだよ。」

高橋たかはし君くんは、尾行びこうをつづけながら、丸山まるやま君くんにささやきました。

「ぼく、いつか、『黄金おうごん仮面かめん』という本ほんを読よんだことがある。その本ほんについていた写真しゃしんが、あいつと、そっくりだったよ。その黄金おうごん仮面かめんは、フランスの大だいどろぼうのアルセーヌ=ルパンがばけていたんだが、ルパンはもう死しんじゃったから、あいつはルパンじゃないよ。きっと、むかしのルパンのまねをして、黄金おうごん仮面かめんにばけているんだよ。」

ああ、黄金おうごん仮面かめん。そのむかし、日本にっぽんじゅうをふるえあがらせた、あの怪人かいじん黄金おうごん仮面かめんが、もう一いち度どあらわれたのです。そして、いま、目前もくぜんをむこうへ歩あるいていくのです。

二に少年しょうねんは、なんだか、おそろしいゆめを見みているような気きがしました。

お堂どうの入口いりぐちには、番人ばんにんがいるのですが、黄金おうごん仮面かめんは平気へいきな顔かおで、その前まえをとおりすぎました。

番人ばんにんは、ギョッとして、立たちすくみ、あまりのことに口くちをきく力ちからもありません。

怪人かいじんはお堂どうを出でると、一いち度ども、ふりむかないで、ゆっくり歩あるいていましたが、二に少年しょうねんが、ついゆだんをしてそのうしろへ近ちかづいたとき、ヒョイとこちらをふりかえりました。

そして笑わらったのです。あのきみのわるい三み日か月形つきがたの口くちで、ニヤニヤと笑わらったのです。

二に少年しょうねんは、そこに立たちすくんだまま、身動みうごきもできません。まっさおになって、あいての金色きんいろの顔かおを見みつめているばかりです。

すると、みょうな、しわがれ声こえが聞きこえてきました。黄金おうごん仮面かめんが、ものをいったのです。

「ウフフフフ……、おい、きみたち、おれをつけてくるとは、なかなか、勇気ゆうきがあるねえ。だが、だめだよ。おれは人間にんげんじゃないんだからね。鳥とりのようにじゆうじざいに、空そらがとべるんだからね。きみたちにはどうすることもできないよ。ウフフフフ……。」

そういったかとおもうと、怪人かいじんは、クルッと、むこうをむいて、サーッとかけだしました。金色きんいろのマントを、うしろになびかせて、まるで魔物まもののような早はやさで走はしるのです。そして、あっとおもうまに、うすぐらい夕ゆうやみの中なかへ、姿すがたを消けしてしまいました。

あいてが見みえなくなると、二に少年しょうねんは、やっと正気しょうきをとりもどして、そのあとを追おいました。すこしいくと、高たかさ三十さんじゅうメートルもあるような、大おおきなシイの木きが立たっていました。

見みあげると、風かぜもないのに、シイのこずえがユラユラと、ゆらいでいます。

「へんだねえ。あいつ、この木きの上うえへ、のぼっていったんじゃないだろうか。」

高橋たかはし君くんがいいました。

すると、そのとき、お堂どうのほうから、白しろいきものに、腰こしごろもをつけた番人ばんにんの若わかいぼうさんが、いきせききってかけつけてきました。

「おい、きみたち、いまの金色きんいろのばけものは、どこへいった。おまわりさんをよんで、とっつかまえなけりゃあ……。」

高橋たかはし君くんはシイの木きのてっぺんをゆびさして、答こたえました。

「あれ、あんなに木きがゆれているでしょう。あいつが、あそこへのぼったのかもしれない。」

ぼうさんは手てをかざして、シイのこずえを見みあげましたが、夕ゆうやみにつつまれているので、はっきりはわかりません。

そのときです。木きのてっぺんが、ひときわはげしくざわめいたかと思おもうと、そこから空中くうちゅうに、サーッと金色きんいろのものが、とびだしたではありませんか。

ああ、あいつです。黄金おうごん仮面かめんが、空そらをとんでいくのです。

怪人かいじんは、高たかい空中くうちゅうを、からだをよこにして、両手りょうてをまっすぐに前まえにのばし、まるで水みずの中なかを泳およぐような形かたちで、とんでいます。金色きんいろのマントが、ヒラヒラとはためいて、映画えいがのスーパーマンと、そっくりです。金色きんいろのスーパーマンが夕ゆうやみの空そらを高たかく、高たかく、とんでいくのです。

二に少年しょうねんとぼうさんとは大おおきな口くちをあいて、あっけにとられて、それを見みあげていましたが、黄金おうごん仮面かめんはみるみる、遠とおざかっていき、だんだん、そのすがたが小ちいさくなり、ついには、一ひとつの金色きんいろの星ほしのようになって、そのままスーッと、夕ゆうやみの空そらに消きえていってしまいました。

あくる日ひの新聞しんぶんが、その怪かい事件じけんを大おおきく書かきたてたことは、いうまでもありません。

高橋たかはし、丸山まるやまの二に少年しょうねんは、学校がっこうでみんなにとりかこまれ、黄金おうごん仮面かめんの話はなしを、なんどとなく、せがまれるのでした。

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