← Library‹ 仮面の恐怖王 木の上の人

「ねえ、おまわりさん。恐怖きょうふ王おうは変装へんそうの名人めいじんですねえ。だから、ひょっとしたら……。」

「えっ、それじゃあ、いまの庭番にわばんのじいさんが、あやしいというのか。」

「ええ、ひょっとしたら、あいつ、恐怖きょうふ王おうが、ばけていたのかもしれませんよ。ああ、いいことがある。たしかめてみるんですよ。」

「えっ、たしかめてみるって?」

ふしぎそうな顔かおをしている警官けいかんには、かまわず、小林こばやし君くんは、いきなり戸とをひらいて、物ものおき小屋こやの中なかへはいっていきました。

そして、懐中かいちゅう電灯でんとうで、小屋こやの中なかをさがしましたが、すぐに、それが見みつかりました。

「あっ、やっぱりそうだ、おまわりさん、これをごらんなさい。」

その声こえに、ふたりの警官けいかんが、小屋こやの中なかにはいってきました。

「ほら、これですよ。」

小林こばやし君くんは金色きんいろの仮面かめんと、金色きんいろの衣ころもと、金色きんいろのシャツやズボン下かを、手てにもっていました。金色きんいろの仏像ぶつぞうにばけた変装へんそうの衣装いしょうです。

「あっ、それじゃあ、いまのじいさんが……。」

「そうですよ。ここに、じいさんのつけひげや服ふくをかくしておいて、きかえたのです。金色きんいろの仏像ぶつぞうから庭番にわばんのじいさんに、早はやがわりしてしまったのです。」

「しまった。それじゃあ、とうとう、逃にげられたか。」

「いや、だいじょうぶです。へいのまわりには少年しょうねん探偵たんてい団だんが見みはっています。もし逃にげだしたら、よびこの笛ふえをふきならすはずです。だから、あいつは外そとへは出でられないのですよ。まだ庭にわの中なかにいるにちがいありません。」

「よしっ、それじゃ、ほかのれんじゅうにもいって、もう一いち度ど、さがすんだっ。」

警官けいかんのひとりが、かけだしていきました。ほかの人ひとたちに、このことを知しらせるためです。

それから、またしても、まっくらな庭にわのあちこちを、大おおきなホタルのような懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりが、いそがしく、とびちがいました。

「あっ、あそこだっ、あそこにいる。」

それをみつけたのも小林こばやし少年しょうねんでした。

懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりがかすかにてらす、むこうの木この間まを、さっきのじいさんが走はしっていました。

ピリピリピリリ……と、よびこの笛ふえが、ひびきわたりました。

どこからともなく、「ワーッ。」という声こえがして、庭にわをさがしていたみんなが集あつまってきました。片桐かたぎりさん、ふたりの書生しょせい、三さん人にんの警官けいかん、それに七なな―八はち人にんの少年しょうねんたちです。

みんなは、なにか口々くちぐちにわめきながら、じいさんのあとを追おいかけました。

「あっ、いけない。あの高たかいシイの木きにのぼりはじめたぞっ。」

ああ、ごらんなさい。庭番にわばんのじいさんは、十じゅうメートルもある高たかい木きの、ふとい幹みきにしがみついて、まるでサルのように、のぼっていくではありませんか。

みんなはその木きの下したに集あつまって、たくさんの懐中かいちゅう電灯でんとうでじいさんの姿すがたをてらしましたが、まもなく、その姿すがたはしげった葉はの中なかにかくれて、見みえなくなってしまいました。

「ここで見みはってれば、だいじょうぶだよ。木きのてっぺんまで、のぼったって、どこへもいけやしないんだから、そのうちに、つかれて、おりてくるにきまっているよ。こっちは、気きながに待まっていればいいんだ。」

おまわりさんが、のんきらしく、そんなことをいいました。

しかし、あいては魔法まほう使つかいの恐怖きょうふ王おうです。ほんとうにだいじょうぶなのでしょうか。

そのとき、少年しょうねんたちのうちにまじっていた、あのちっちゃなポケット小僧こぞうが小林こばやし少年しょうねんのそばによって、なにかささやきました。

「あっ、そうだ、そうかもしれない。」

小林こばやし君くんもすぐにそれに気きづいて、おまわりさんに話はなしかけました。

「たいへんです。あいつは、空そらがとべるんですよ。ほら、あいつは、いつか京都きょうとの三十さんじゅう三さん間けん堂どうのそばの木きのてっぺんから、空そらへとんでいったじゃありませんか。それから、ついこのあいだは、クイーン映画えいが館かんの屋根やねから、夜よるの空そらへ、とんでいきました。あいつは、空そらをとべるのですよ。」

小林こばやし君くんにいわれて、警官けいかんたちも、やっと、そこに気きがつきました。ああ、空そらをとぶあいてにかかっては、どうすることもできません。

それなら、あいつが、とびたたないまえに、木きのぼりをして、つかまえればいいようなものですが、とても恐怖きょうふ王おうみたいに、木きのぼりができるものではありません。枝えだもなにもない太ふとい幹みきを、あんなにスルスルのぼるなんて思おもいもよらないことです。

警官けいかんたちは、「ちくしょうっ。」といって、くやしがりましたが、どうすることもできません。

こちらは、木きの上うえのできごとです。

庭番にわばんのじいさんにばけた恐怖きょうふ王おうは、かるわざ師しのような身みがるさで、枝えだや葉はのしげった中なかをグングンのぼっていきました。もう、てっぺんの近ちかくまできたのです。

そのとき上じょうのほうで、なにかゴソゴソと動うごいているような音おとが聞きこえました。この木きのてっぺんには、鳥とりでもいるのでしょうか。いや、鳥とりの羽音はおとではなかったようです。なにか、もっと大おおきなものの動うごく音おとでした。

恐怖きょうふ王おうははっとしてのぼるのをやめると、きき耳みみをたてました。

あいては、まだゴソゴソ動うごいています。

「だれだっ、そこにいるのは、だれだっ。」

恐怖きょうふ王おうはおもわず、どなりつけました。

すると、ああ、これはどうしたというのでしょう。いきなり、上うえのほうから、

「ワハハハ……。」

という人間にんげんの笑わらい声ごえが、ひびいてきたではありませんか。

恐怖きょうふ王おうはギョッとして、身みをすくめました。

「ワハハハ、おい、そこのやつ、おまえの道具どうぐは、こわしてしまったよ。もう、とぶことはできないぜ。」

恐怖きょうふ王おうは、いよいよ、おどろいて、しばらく、だまっていましたが、木きのてっぺんで待まちぶせているやつがあるなんて、くやしくてしかたがありませんので、思おもわずどなりかえしました。

「き、きさま、いったい、なにものだっ。」

すると、上うえのほうから、また、笑わらい声ごえがして、

「きみのいちばん、おそれている人間にんげんさ。ハハハ……、わからないかね。ぼくは明智あけち小五郎こごろうだよ。」

「えっ、明智あけちだって……。」

ああ、なんという、いがいなことでしょう。片桐かたぎりさんの庭にわのシイの木きのてっぺんに、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうがかくれていたのです。それは小林こばやし君くんさえもすこしも知しらないことでした。

「ハハハ……、さすがの恐怖きょうふ王おうも、びっくりしているね。きみが魔法まほう使つかいなら、ぼくだって魔法まほう使つかいだよ。

きみは、ぼくが福井ふくい県けんから帰かえったといって、ぼくにばけて小林こばやしをだました。そして少年しょうねんたちを屋根裏やねうらにとじこめたね。ところが、きみよりすこしあとで、ぼくはほんとうに帰かえってきたんだよ。

それから事務じむ所しょに帰かえって、るす番ばんのマユミからこんどのことを聞きき、すぐに片桐かたぎりさんに電話でんわをかけて、いっさいのいきさつがわかったのだ。

そこで、片桐かたぎりさんに、ぼくの帰かえったことは、だれにもいわないように口くちどめしておいて、夜よるになるのを待まってこの庭にわにしのびこみ、高たかい木きのてっぺんを、つぎつぎと、さがしてみたのだ。

なにをさがしたとおもうね。ヘリコプターを小ちいさくしたような背中せなかにとりつけるプロペラだよ。ハハハ……。ぼくはそれを知しっていたのさ。いまから五ご年ねんほど前まえに、あるどろぼうが、フランスで発明はつめいされた小型こがたプロペラを手てにいれて、つかったことがある。機械きかいを背中せなかにくくりつけて、空そらをとぶことができるんだ。ぼくはその機械きかいを見みたことがあるので、きみが空そらをとぶと聞きいたときに、すぐそれを思おもいだしたんだ。

そして、このシイの木きのてっぺんに、その機械きかいがかくしてあるのをみつけたんだよ。

ハハハ、これだけいえば、もうわかるだろう。

きみは、いざというときの用意よういにそのプロペラを、ここの木きの上うえにかくしておいたのだ。それを、ぼくがさきまわりをして、動うごかないように、こわしてしまったというわけだよ。」

明智あけちのながい説明せつめいがおわると、恐怖きょうふ王おうはくやしそうに、「ちくしょう……。」といって、逃にげだしそうにしました。

しかし、下したにおりれば、木きの幹みきのまわりを、おおぜいの人ひとが取とりかこんでいるのです。といって、上うえにのぼって、たとえ明智あけちをつきおとすことができても、かんじんのプロペラがこわれているのでは、どうすることもできません。

さすがの恐怖きょうふ王おうも、にっちもさっちも、いかなくなってしまいました。

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