← Library‹ 仮面の恐怖王 落盤

とつぜん、ザーッという音おとが、どこからか聞きこえてきたかと思おもうと、ふたりの頭あたまの上うえから、やわらかくなった土つちが、バラバラと夕立ゆうだちのようにふりそそいできました。

とっさに、小林こばやし君くんは、ゴリラが手てで土つちをすくって、ふたりにぶっかけているのではないかと思おもいましたが、そうではありません。もっとおそろしいことだったのです。そのとき、あなの中なかに大だい異変いへんがおこったのです。

ゴーッと、地じひびきのような音おとが聞きこえてきました。そして、やにわに、頭あたまの上うえから、大おおきな岩いわや土つちのかたまりが、ダダーッとおちてきて、あっというまに、洞どうくつをすっかりふさいでしまいました。

落盤らくばんです。鉱山こうざんのあなをほっているときに、よくおこる、あの大おおきな土つちくずれです。鉱山こうざんでは、落盤らくばんのために、何なん人にんも、何十なんじゅう人にんも、生いきうめになることがあります。そういう新聞しんぶん記事きじが、よく出でているのをごぞんじでしょう。

天地てんちもひっくりかえるような、おそろしい音おとと、地じひびきがつづいたあとに、きゅうに、あたりはシーンとしずまりかえってしまいました。

ああ、小林こばやし君くんたちは、とうとう土つちくずれの下したじきになって、おしつぶされてしまったのでしょうか。

いや、そうではなさそうです。すくなくとも、すばしっこいポケット小僧こぞうだけは生いきていました。かれは、おそろしいもの音おとがおこると、パッと、あなのおくへ身みをかわして、たすかったのです。

ポケット小僧こぞうも、小林こばやし団長だんちょうのことがしんぱいでした。さっき、土つちくずれの音おとにまじって、なんともいえない、ものすごいさけび声ごえが聞きこえました。それは人間にんげんとも動物どうぶつともわけのわからない、ギャーッというようなさけび声ごえでした。もし、あれが小林こばやし団長だんちょうのさいごのさけびだったとしたら……。

ポケット小僧こぞうはいそいで懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、そのへんをてらしてみました。ああ、よかった。小林こばやし団長だんちょうは土つちの下したじきにならないで、ただたおれているだけでした。あぶないところでした。もう五十ごじゅうセンチむこうにいたら、おしつぶされているところでした。

しかし、たおれたまま身動みうごきもしません。ポケット小僧こぞうは、また、しんぱいになってきました。もしや、おちてくる岩いわで頭あたまをうって、死しんでしまったのではないでしょうか。

小僧こぞうは、小林こばやし君くんのそばへいって、口くちに手てをあててみました。たしかに、息いきをしています。だいじょうぶ、命いのちはたすかったのです。でも、ひどいけがをしているのではないでしょうか。

小僧こぞうは、小林こばやし君くんをだきおこそうとしました。しかし、ポケットにはいるような小ちいさな子こどもですから、なかなか、だきおこせません。苦心くしんをして、いろいろやっているうちに、小林こばやし君くんが目めをひらきました。

「あっ、ぼく、気きをうしなっていたのかい。」

「うん、そうだよ。けがはしなかった?」

小林こばやし君くんは、からだじゅうを、さすってみました。

「なんともないよ。なにかで頭あたまをうったのかな。」

「おやっ、ひたいから血ちが出でているよ。」

「うん、そうだ。ここをうったんだ。それで、気きがとおくなったんだよ。」

小林こばやし君くんはハンカチを出だして、きずをおさえていましたが、ふと、しんぱいそうな顔かおになって、

「ぼく、どのくらい気きをうしなっていた?」

「ちょっとだよ。一いち分ふんぐらいだよ。」

「それじゃあ、落盤らくばんがあってから、時間じかんはたっていないのだね。で、あいつはどうしたんだい。」

「あいつって?」

「きまってるじゃあないか。ゴリラだよ。」

「ああ、あいつかあ。あいつね、土つちがおちたとき、すごいさけび声ごえをたてたよ。でも、ぼくたちのかくれていた土つちの山やまより、ずっとむこうにいたから、うまく逃にげたかもしれないよ。あっ、小林こばやしさん、ぼくたち、たすかったね。土つちがくずれて、道みちがとまってしまって、あいつ、こっちへこられなくなったからね。」

ポケット小僧こぞうは、よろこびましたが、ふたりは、ほんとうにたすかったのでしょうか。ゴリラより、もっとおそろしいことが、待まちかまえているのではないでしょうか。

「とにかく、こっちからは出でられないのだから、おくへはいっていくほかはない。おくへいけば、どっかで道みちがもとにもどって、あなの外そとへ出でられるかもしれない。」

そこで、ふたりとも懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、それをふりてらしながら、あなのおくへすすんでいきました。そして二十にじゅうメートルも歩あるいたときです。

「あっ、いけないっ。こっちも土つちがくずれている。」

小林こばやし君くんがさけびました。

あながいきどまりのように、土つちでふさがれていました。ふるい落盤らくばんらしく土つちがかわいています。柱はしらや横木おうぼくがくさっているので、ほうぼうに、こんな落盤らくばんがあるのかもしれません。

洞どうくつの両方りょうほうがふさがっているのですから、二に少年しょうねんは二十にじゅうメートルほどの長ながさのあなの中なかに、とじこめられてしまったわけです。

もう、たすかるみこみはありません。

「おれたち、そのうちに、息いきができなくなるんじゃないだろうか。」

ポケット小僧こぞうは、はやくも、そこに気きがついて、心こころぼそそうにいいました。

そうです。二十にじゅうメートルあるといっても、せまいあなの中なかです。やがて空気くうきの中なかの酸素さんそがなくなってしまったら、ふたりは、このまっくらな地ちの底そこで死しななければなりません。

「だいじょうぶだよ。懐中かいちゅう電灯でんとうの電池でんちがきれるよりは、ながくもつよ。そのあいだに、ぼくたちは頭あたまをしぼって考かんがえるんだ。」

小林こばやし君くんが、ポケット小僧こぞうを安心あんしんさせるようにいいました。

「おれたち、この土つちをほって、外そとへもぐりでるよりないね。」

「うん、だが、いまの落盤らくばんは、だめだよ。水みずでグショグショになっているから、いくらほっても、上うえから土つちがおちてくるばかりだからね。うっかりすると、第だい二にの落盤らくばんがおこるかもしれない。そして、こんどこそ、ぼくたち、うずまってしまうかもしれないんだぜ。」

「そうだなあ。こまったなあ。」

ポケット小僧こぞうは小ちいさな腕うでをくんで、さもこまったように、首くびをふるのでした。

ああ、いったい、ふたりの運命うんめいはどうなるのでしょう。小林こばやし君くんの頭あたまに、なにかうまい考かんがえがうかぶでしょうか。(もし、うかばなかったら……。)

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%