← Library‹ 仮面の恐怖王 ふしぎな部屋

おはなしかわって、ここは明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの一室いっしつです。

「ハハハハ……、おもしろくなってきたぞ。てごわいどろぼうが、あらわれたぞ。小林こばやし君くん、有馬ありまさんの有名ゆうめいな『星ほしの宝冠ほうかん』がぬすまれてしまった。そいつから、いま電話でんわがかかったのだ。ぼくに来きちゃいけないって、いったよ。やっぱり、ぼくがこわいんだね。だから、すぐいくことにする。自動じどう車しゃをよんでくれたまえ。」

明智あけち探偵たんていが、そばにいる助手じょしゅの小林こばやし少年しょうねんにいいつけました。

「先生せんせいひとりですか。ぼくは、いかなくていいのですか。」

小林こばやし少年しょうねんが、ふふくそうにいいます。

「きみは、留守るす番ばんだ。ぼくに万一まんいちのことがあったとき、ぼくをたすけるのが、きみの役やくだからね。きみとぼくとは、なるべく、はなれているほうがいい。」

そういわれると、小林こばやし少年しょうねんも、かえすことばがありません。すなおにハイヤーの会社かいしゃへ電話でんわをかけました。

しばらくすると、明智あけちの事務じむ所しょのある高級こうきゅうアパートの入口いりぐちで、自動じどう車しゃのクラクションがなりました。「おむかえにきました。」というあいずです。明智あけち探偵たんていは小林こばやし少年しょうねんに留守るすをたのんで、ひとりで玄関げんかんから出でてきました。そして、そこの大通おおどおりにとまっている自動じどう車しゃのほうへ歩あるいていきます。すると、そのとき、へんなことがおこったのです。アパートの前まえのくらやみの中なかから、ひとりの男おとこが、とびだしてきました。三十さんじゅうぐらいの、よたもののようなやつです。その男おとこが明智あけち探偵たんていのうしろへ、そっと近寄ちかよっていくのです。自動じどう車しゃのドアはあいていました。明智あけちはその中なかへはいろうとしましたが、なにを感かんじたのか、はっとしたように身みをひきました。いつもの自動じどう車しゃとちがっていることがわかったからです。運転うんてん手しゅもへんなやつだし、うしろの席せきに、見みかけたことのない男おとこが腰こしかけていたのです。

身みをひこうとすると、うしろから、どんと、ぶつかってくるものがありました。さっき、やみの中なかからあらわれた、よたものみたいなやつです。

そいつは、明智あけちのからだをグングン自動じどう車しゃの中なかへ、おしこもうとします。すると、中なかにいたやつも腰こしをあげて、明智あけちの首くびに腕うでをまきつけ、ちからいっぱい、車くるまの中なかにひっぱりこむのです。

あいてはふたりのうえ、ふいをつかれたので、さすがの名めい探偵たんていもどうすることもできません。もう十じゅう二に時じに近ちかい夜よふけですから、人ひとどおりもなく、だれもたすけにきてくれるものはありません。

しかたがないので、大おおきな声こえでさけぼうとしました。すると悪者わるものは、はやくも、それをさっして、白しろいハンカチのようなもので、明智あけち探偵たんていの口くちと鼻はなをふさいでしまいました。

ツーンと頭あたまにひびくような、いやなにおいがしました。麻酔ますい薬やくです。……まもなく、名めい探偵たんていは、自動じどう車しゃの中なかで気きをうしなっていました。

×  ×  ×  ×

明智あけち探偵たんていは、ゆめからさめたように、ふと目めをひらきました。

見みまわすと、なかなか、いごこちのいい部屋へやです。せまい部屋へやですが、一いち世紀せいきもまえのフランスの客間きゃくまを思おもいだすような、ぜいたくな、うつくしい部屋へやでした。

てんじょうからは水晶すいしょう玉たまでかざったシャンデリアがさがり、白しろくぬった、きゃしゃなテーブル、ふかぶかとしたクッションの、りっぱな長ながいす。

明智あけちは、やっと思おもいだしました。

「ああ、ぼくは、悪者わるものにつかまえられたのだ。そして、麻酔ますい薬やくをかがされて、気きをうしなってしまったのだ。」

まだしばられているのではないかと、手足てあしを動うごかしてみましたが、まったく自由じゆうでした。ただ長ながいすの上うえによこになって、グッスリねむっていたらしいのです。

そのとき、明智あけちが目めをさますのを待まちかねていたように、ドアがあいて、ひとりのうつくしい少女しょうじょがはいってきました。高校こうこう生せいぐらいの年としごろです。手てにはコーヒーをのせた銀ぎんのぼんをささげています。

「お目めざめになりまして?」

少女しょうじょは銀ぎんのぼんをテーブルの上うえにおいて、やさしく明智あけち探偵たんていに話はなしかけました。

「ほんとうに、たいへんでしたわね。でも、どこもおいたみになりません。」

明智あけち探偵たんていは、ゆめみたいな気持きもちで、しばらくぼんやりしていましたが、どうもわけがわかりません。

「ここは、いったいどこの、おうちなんでしょう? そして、あなたは?」

と、たずねてみました。

「あなたを、おたすけしたひとのうちですわ。あたしは、そのうちのむすめです。」

「そうでしたか。ぼくは悪者わるもののために自動じどう車しゃにおしこまれ、麻酔ますい薬やくをかがされて気きをうしなってしまったのですが、あれから、どのくらい時間じかんがたったのでしょう。そして、ここは、やっぱり東京とうきょうなのでしょうか。」

「ええ、まあ、そうですの。でも、あなたは、まだ、いろいろなこと、お考かんがえにならないほうがよろしいですわ。」

「なあに、もう、だいじょうぶですよ。どこも、なんともありません。すこし、頭あたまがフラフラするぐらいのものです。」

明智あけちはそういって、長ながいすの上うえに、おきなおってみせました。しかし、そうして身みをおこしてみると、やっぱり、からだがほんとうでないのか、部屋へやぜんたいがグラグラゆれているように感かんじて、おもわずいすの上うえに手てをつきました。

「まだ、だめです。めまいがします。なんだか、この部屋へやがフワフワと、宙ちゅうにういているような気持きもちです。」

「ほら、ごらんなさい。むりをしてはいけませんわ。」

「しかし気分きぶんはなんともないのです。どうか、ご主人しゅじんにあわせてください。おれいをいわなければなりません。」

「そんなことはいいんですの。それに、いま主人しゅじんはおりませんし……。」

そのとき、明智あけちは、この小こ部屋へやのつくりかたが、どうも、ふつうでないことに、やっと気きがつきました。

「おやっ、この部屋へやには窓まどがひとつもありませんね。だから、昼間ひるまでも、こうして電灯でんとうをつけておくのですか。みょうな部屋へやですね。いったい、いまは昼ひるですか、夜よるですか。」

「夜よるですの。いま八はち時じですわ。」

「いく日かの?」

「十じゅう六ろく日にち。」

少女しょうじょはそう答こたえて、口くちに手てをあててクスクス笑わらいました。

「ぼくが自動じどう車しゃにおしこめられたのは、十じゅう五ご日にちのばんだから、あれから、まる一いち日にちたっているわけだな。」

と、ひとりごとをいったものの、なんだかへんな感かんじです。この少女しょうじょの、みょうになれなれしい口くちのききかた、窓まどのひとつもない部屋へや、それに、いつまでたっても、部屋へやがユラユラゆれているような感かんじ。

「この部屋へやは、いったい、何なん階かいにあるのです。なんだか、いつもユラユラしていて、高たかい塔とうの上うえにでも、いるような気持きもちですね。」

「そうかもしれませんわ。」

少女しょうじょは、心こころの中なかで笑わらっているような口くちぶりです。

「でも、いごこちは、わるくないでしょう。しばらく、おとまりになる間ま、できるだけ、お心持こころもちのいいようにと、いいつけられていますのよ。お気きにめさないことがありましたら、なんでも、おっしゃってくださいまし。」

少女しょうじょはなかなか、おせじがいいのです。

「しばらく、おとまりですって? じょうだんじゃありません。ぼくは、だいじな用件ようけんがあるんですよ。」

明智あけち探偵たんていは、あきれかえってしまいました。まるでキツネにつままれたような気持きもちです。

「いいえ、そんなにおあせりになっては、だめですわ。なにもお考かんがえなさらないほうがいいわ。」

少女しょうじょは、まるで、きのどくなきちがいでもなぐさめるような調子ちょうしで、

「では、のちほど、またまいりますわ。さめないうちにコーヒーを、めしあがってくださいまし。」

少女しょうじょはそういいすてて、逃にげるようにドアのほうへいきますので、明智あけちは、「まってください、まってください。」と、よびかけながら、いすから立たちあがって少女しょうじょのあとをおいかけようとしましたが、二に―三さん歩ほあるくと、なにかに足あしをとられて、バッタリたおれてしまいました。

「ホホホホ……、ほらごらんなさい。ですから、じっとしていらっしゃるほうがいいのよ。」

少女しょうじょはあざけるようにいって、ドアのほうへ歩あるいていきました。

気きがつくと、明智あけち探偵たんていの足あしくびに、鉄てつの輪わがはめてあって、それについた鉄てつのくさりが、長ながいすのあしに、くくりつけてあることがわかりました。まるで動物どうぶつ園えんのクマのように、そのくさりののびるだけしか、動うごけないのです。

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