← Library‹ 電人M 動く床

はてしもない長ながさです。もう、たしかに二百にひゃくメートルは、歩あるいたでしょう。しかし、まだトンネルは終おわらないのです。

こんな長ながいトンネルを、世間せけんに知しられないように、よく造つくったものだと、いまさら、二十にじゅう面相めんそうの力ちからに、驚おどろくばかりです。

五百ごひゃくメートルも、歩あるいたでしょうか。いや、六百ろっぴゃくメートル、ことによると七百ななひゃくメートルもあったかもしれません。とうとう、行いき止どまりにつきました。

途中とちゅうでは、さいわい、だれにも出会であいませんでしたが、しかし、たとえ、出会であっても、ポケット小僧こぞうは、大丈夫だいじょうぶだと、思おもっていました。

黒くろいシャツ、黒くろいふくめん、黒くろい手袋てぶくろ、黒くろい靴くつで、頭あたまから足あしの先さきまで、まっ黒くろなものですから、もし、だれかがきたら、かべにぴったり、くっついてしまえばいいのです。暗くらいところですから、相手あいては、気きがつかないで、通とおり過すぎるでしょう。

ポケット小僧こぞうは、これまでに、いくども、そうして、相手あいてをごまかしたことがあるのです。

しかし、もうトンネルはおしまいです。前まえには、コンクリートのかべが、立たちふさがっていて、どこへも行いけないのです。

でも、ほんとうに行いき止どまりのはずはありません。どこかに、かくし戸とがあるにちがいないのです。ポケット小僧こぞうは、懐中かいちゅう電灯でんとうで、正面しょうめんのかべを照てらしてみました。

「あっ、あった。あれだっ。」

ちょっと見みたのでは、わからないけれども、ガレージの入口いりぐちと同おなじような、かくしボタンがあったのです。

ポケット小僧こぞうは、また、さっきの魔法まほうの杖つえをとりだして、そのボタンを押おすと、コンクリートのかべが、静しずかに動うごいて、通とおり道みちができました。

中なかにはいると、そこはまっくらな部屋へやでした。なにがいるかわからないので、うっかり懐中かいちゅう電灯でんとうはつけられません。かべをつたって、手てさぐりで、進すすんで行いきました。

じきに、曲まがりかどに、きました。また、そのかべをつたって行いきますと、つぎも曲まがりかどです。そして、また、つぎのかど。また、つぎのかど。かどは八ようつありました。

「おや、この部屋へやは、八角はっかく形けいだな。それに、おそろしく、広ひろい部屋へやだ。」

ポケット小僧こぞうは、びっくりして、つぶやきました。

なおも、進すすんで行いきますと、まだ、つぎのかどがあります。九ここのつ、十じゅう、十じゅう一いち、十じゅう二に……いつまでいっても、きりがありません。なんという、広ひろい部屋へやでしょう。

あんまりふしぎなので、ポケット小僧こぞうは、チラッと懐中かいちゅう電灯でんとうをつけてみました。

「なあんだ、四角しかくな小ちいさな部屋へやじゃないか。」

思おもわず、クスクスと笑わらいました。まったくの暗闇くらやみなので、手てざわりで、かどにくるたびに、一角いっかくとかんじょうしたので、八角はっかくも十角じっかくもある、べらぼうに広ひろい部屋へやと、勘違かんちがいしてしまったのです。

この部屋へやには、ドアはついていませんが、コンクリートのかべに、四角しかくな線せんがあらわれていましたので、押おしてみますと、スーッと、むこうへ開ひらきました。

その外そとは、廊下ろうかのようなところでした。どちらへ行いっていいのかわからないので、ともかく、右みぎの方ほうへ、進すすんで行いきました。

廊下ろうかは、ぐるぐる曲まがっていて、ところどころに、かくし戸とらしいものが、ついていました。押おしてみると、あくのもあり、あかないのもあります。あいたときには、中なかをのぞいて、耳みみをすましてから、パッと懐中かいちゅう電灯でんとうを照てらしてみましたが、どの部屋へやも、みんなからっぽでした。

ところが、ぐるぐるまわって、五ごつめのかくし戸とを開ひらくと、中なかのようすが、いままでとちがうのです。だれか人間にんげんがいるようなけはいがします。

ポケット小僧こぞうは、その部屋へやに、しのびこむと、よつんばいになって、ときどき、手てを前まえにのばして、探さぐりながら、進すすんで行いきました。

すると、あっ! なんだか、やわらかいものが手てにさわったではありませんか。びっくりして、手てをひっこめましたが、どうやら、そこにいるのは人間にんげんらしいのです。

しばらく、闇やみの中なかで、にらみあうようにしていましたが、相手あいては、逃にげもしなければ、手向てむかってくるようすもありません。

ポケット小僧こぞうは、思おもいきって、パッと懐中かいちゅう電灯でんとうをつけ、すぐに消けしました。しかし、その一瞬いっしゅん間かんに、相手あいてをすっかり見みてしまったのです。遠藤えんどう治郎じろう君くんでした。元気げんきなく、ぐったり横よこたわっているのです。

「ぼく、ポケット小僧こぞうだよ。安心あんしんしな。いまに、みんなが、きみを助たすけにくるからね。ぼくは、ひとりで、ようすを、さぐりにきたのさ。」

それを聞きくと、治郎じろう君くんは安心あんしんしたようですが、なにも言いいません。口くちをきく元気げんきもないのでしょう。

しばらくすると、やっと、かすかな声こえで、言いいました。

「きみ、ここは、お化ばけ屋敷やしきだよ。タコのような火星かせい人にんが、うじゃうじゃいるんだ。ぼくは、そいつらに、とり巻まかれて、ひどいめにあった。でも、さっき、みんなどっかへ、消きえてしまったがね。」

そして、ぼつぼつと、さきほどの、恐おそろしいありさまを、話はなして聞きかせるのでした。だが、そのうち、なんだか、みょうなことが起おこりました。

べつに、自分じぶんでは動うごかないのに、からだが動うごいているような気きがするのです。前まえの方ほうへ、ぐんぐん進すすんで行いくような気持きもちです。

そのとき、どこからか、恐おそろしい声こえが、聞きこえてきました。低ひくいけれども、部屋へやじゅうに、ひびきわたるような、へんな声こえです。

「アハハハ……驚おどろいたか。きみはいま、動うごいているんだぜ。ここでは床ゆかが動うごいて、歩あるかないでも、どこへでも行いけるのだ。きみを、おもしろいところへ、連つれて行いってやる。」

あとでわかったのですが、それは、ベルト・コンベヤーを大おおきくしたような仕掛しかけで、厚あついリノリウムの床ゆかそのものが、動うごくのです。

部屋へやの出口でぐちのドアのところにくると、その向むこうの床ゆかも、同おなじように動うごいていて、ふたりは、スーッと、その方ほうへ、送おくりこまれました。

じつは、ポケット小僧こぞうの歩あるいてきた廊下ろうかも、同おなじ仕掛しかけになっていたのですが、まだ動うごいていなかったので、気きがつかなかったのです。

いつか、都会とかいの道路どうろがこんなふうになるときがくるかもしれません。人間にんげんはその動うごく道みちの上うえに、ただ立たっていればよいのです。電車でんしゃも自動じどう車しゃもいりません。その道みちにさえ乗のれば、どこへでも、行いけるのです。さすがは電人Mです。その仕掛しかけを、早はやくも自分じぶんのすみかにとりいれていたのです。

ポケット小僧こぞうは、用心ようじんをしました。どこへ連つれて行いかれるのか、わかりませんが、もし明あかるい部屋へやに出でたら、たちまち、見みつかってしまいます。みつからないようにしなければなりません。そう思おもったので、治郎じろう君くんから離はなれて、ずっとうしろの方ほうに、うつぶせになって、床ゆかと見分みわけがつかぬくらい、ひらべったくなっていました。

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