章太郎君は小学校の六年生でしたが、その日、学校へ行くと、竹内君というクラスの友だちに、透明人間のことを、そっと話しました。竹内君は少年探偵団にはいっている賢い少年だったからです。
「うーん、そいつが二十面相なんだね。それじゃ、ぼくらの団長の小林さんに話してみるといい。二十面相とは、長いあいだ戦ってきたんだから、ぼくらにとっては、憎むべき敵なんだ。小林さんはきっと助けてくれるよ。」
竹内君がそう言うものですから、章太郎君は、学校がひけると、竹内君といっしょに、小林少年のいる明智探偵事務所へ行ってみることにしました。
「ぼく、おうちへ、おそくなるって、電話をかけておくよ。」
町の赤電話の前にきたとき、章太郎君がポケットから十円玉を出して、電話をかけようとしますと竹内君は、
「探偵事務所へ行くなんて言っちゃいけないよ。透明人間はどこで聞いているかわからないからね。ぼくのうちへ、遊びにいくと言っておけばいい。」
とささやき声で、言いました。章太郎君は、言われたとおり、電話をかけて、それからバスに乗って、麹町の明智探偵事務所へ、急ぐのでした。
さいわい、小林少年は事務所にいて、すぐにふたりを、自分の部屋へ通してくれました。
少年探偵団長の小林芳雄君は、新聞によく写真が出るので、章太郎君も、その顔を知っていました。中学三年生ぐらいの年でしょうか。思ったより子どもらしい顔で、ニコニコした、かわいらしい少年です。
こんな子どもが、どうして、あの恐ろしい二十面相と戦えるのかと、ふしぎに思われるほどです。
「ぼくの友だちの恩田章太郎君です。恩田君のおとうさんの宝物を、二十面相が盗み出そうとしているのです。今晩があぶないのです。」
竹内君が紹介してくれましたので、章太郎君は、あいさつをしてから、いままでのことを、くわしく話して聞かせました。
「そうですか、あいつ透明人間にばけたんですね。わかりました。ぼく、ちょっと、明智先生に相談してきますからね、待ってください。」
小林少年は、そう言って、部屋を出ていきましたが、しばらくすると、ニコニコして、もどってきました。そして、こんなことを言うのです。
「やっぱり、先生は偉いなあ。ちゃんと、二十面相のやりかたを見ぬいてしまいましたよ。そして、先生とふたりで、ある計略を考えたのです。
それにはね、恩田君、きみのおとうさんに、明智先生から電話をかけて、打ち合わせをしなければならない。番号を教えてください。」
そこで、電話番号をききますと、小林少年は、また、部屋を出ていきました。
先生というのは、名探偵明智小五郎のことです。明智探偵は、これまでに、いくどとなく、二十面相を捕えたことがあります。しかし、二十面相のやつは、いくら刑務所へいれられても、まるで魔法つかいのように、ろうやぶりをして、逃げだしてしまうのです。
ですから、明智探偵と二十面相とは、お互いに許すことのできない、かたきどうしでした。それだけに、明智探偵は、二十面相のやりかたが、すっかりわかっているのです。そして、いつも、そのうらをかいて、相手をびっくりさせるのです。こんどはいったい、どんな計略を立てたのでしょうか。
章太郎君たちは、二十分ほども待たされました。明智探偵はおとうさんと、何を話しているのかしらと、思っていますと、入口のドアがスーッとあいて、ひとりのかわいらしい少女がはいってきました。
「いらっしゃいませ。」
少女がそう言って、ていねいに、おじぎをしました。女中さんでしょうか。
ところが、そのつぎには、少女が「わかる?」と、首をかしげて、目で笑ってみせました。
なんだか、変です。章太郎君も竹内君も目をパチクリやっています。
「ハハハハ……、ぼくだよ。小林だよ。ちょっと変装してみたのさ。」
こんどは聞きおぼえのある小林少年の声でした。なんという、うまい変装でしょう。これが小林君だなんて、とても見わけられません。まったく女の子です。
それにしても、小林少年は、なんのために、こんな変装をしたのでしょう。
「じつはね、いま明智先生と、恩田君のおとうさんと、電話で打ち合わせてね、ぼくが女の子にばけて、きみのうちの女中さんになることになったんだよ。どうです。だれが見たって、男の子がばけているとは思わないでしょう。」
「それで、ぼくのうちの女中さんになって、二十面相をつかまえるんですか。」
「そうです。たぶん、うまくいくだろうと思います。先生がきみのおとうさんと話したことは、きみのうちの人はだれも知らないのですよ。電話口へ呼びだすときには、明智だなんて言わなかったのですからね。ぼくが女中さんになることは、おとうさんと、おかあさんのほかは、知らないのです。まえから、頼んであった女中さんが、きょう来たということにするんです。きみもそのつもりでいてください。」
「どうして、女中さんなんかに、ばけるのですか。」
章太郎君は、まだふにおちないという顔つきです。
「それには、わけがあるのです。いまは、まだ秘密だけれど、そのうちに、わかるときが来ますよ。」
そんな話をしているところへ、ドアがあいて、すらっと背の高いおとなの人が、はいってきました。章太郎君は、はじめてですが、これも新聞の写真でよく知っていました。名探偵明智小五郎です。
「あ、先生、この人が恩田君です。」
小林少年が言いました。章太郎君は、有名な私立探偵に、はじめて会ったので、赤くなって、おじぎをしました。
「心配ですね。しかし、小林君が行けば、だいじょうぶですよ。小林君は、まだ子どもだけれど、頭がよくて、勇気があって、これまでに数えきれないほど、てがらを立てています。小林君ひとりの力で二十面相を捕えたこともあるほどです。
おとうさんにも、そう言っておきましたが、いざというときには、ぼくが助けにいきますからね。もうなにも、心配することはありませんよ。」
章太郎君に、そう言っておいて、明智探偵は、少女にばけた小林少年を、ふり向きました。
「よくできたね。それなら、だれも見破れないよ。それに、きみは女の子のことばもじょうずだからね。恩田さんのうちへいったら、ぬかりなく、しっかりやるんだよ。」
小林少年は明智先生に励まされて、章太郎君とは別に、恩田家へいそぎ、章太郎君は道で竹内君と別れて、自分のうちへ帰りました。
さて、その晩です。怪人二十面相は、はたして、真珠のゾウを盗みだすために、恩田家へ忍び込んできました。やっぱり、目に見えない透明人間としてやってきたのです。
少女にばけた小林少年は、いったい、どんな方法で、二十面相を捕えようというのでしょうか。いよいよ、少年探偵と怪人との知恵くらべが始まるのです。
ふたたび透明人間になって、忍び込んできた二十面相の正体を、小林少年が、見破るときがいよいよ近づいてきました。
しかし、二十面相は、そう簡単に正体をあらわすでしょうか。