恩田さんの家の地下室では、金庫の前に、いすを並べて、ご主人の恩田さんと、家庭教師の山口青年と、松波博士の三人が、がんばっていました。
金庫の中には、二十面相が、今夜十時に、ぬすんでみせるという真珠のゾウが、しまってあります。十時にまもないので、その見はりをしているのです。
松波博士は、二十面相のために、エジプトの古い巻き物をとられたうらみがあるので、恩田さんを助けて、金庫を守ってくれるのです。
この地下室への入口は、たったひとつしかありません。その入口の板戸にかぎをかけ、その外に、五人の刑事がスクラムを組むようにしてがんばっています。
これでは、いかな怪物の二十面相でも、地下室へしのびこめるわけがありません。
宝物のゾウはだいじょうぶです。しかも金庫には、ちゃんと暗号錠がおろしてあって、その暗号は、恩田さんのほかには、だれも知らないのです。それを、十時きっかりに、ぬすみだすなんて、思いもよらぬことです。
金庫の前の三人は、いすにかけて金庫のとびらをみつめたまま、だまりこんでいました。だいじょうぶとは思っても、やっぱり、なんだか気がかりです。敵には、どんな計略があるかわかりません。
時間のたつのが、ひどくのろいように、感じられます。
「もう、あと三十分で十時ですね。」
松波博士が、腕時計を見ながらつぶやきました。
「そうです。わたしの時計も、ちょうど九時三十分です。」
恩田さんが、青ざめた顔で答えました。
みんな、胸をドキドキさせているのです。
「ところで、金庫の中には、たしかに真珠のゾウが、はいっているのでしょうね?」
松波博士が、そう言いだしました。
「まちがいありません。わたしがここへ入れて、暗号錠をかけたのですからね。」
「それはいつのことです。」
「ゆうべです。きのうは、わたしの誕生日だったので、友だちをよんで、真珠のゾウを見せていると、透明怪人があらわれたので、いそいで、ここへしまったのです。」
「それでは、そのときから一日たっていますね。一日の間、ぶじにここにおさまっていたでしょうか。わたしは、あいつにはひどいめにあっているので、なんだか心配なのですよ。あいつは魔法つかいですからね。」
それを聞くと、恩田さんは、にわかに心配になってきました。
「それじゃあ、ちょっと金庫をあけて、たしかめてみましょうか。」
すると、山口青年が、あわてていすから立ち上がりました。
「用心してください。あいつは、もう、この地下室へしのびこんでいるかもしれません。さっきから、なんだか、そんな気がするのです。目には見えないけれど、わたしたちのほかに、だれか部屋の中にいるような気がします。」
「えっ、なんだって? きみは、あいつがここにいると言うのか。」
恩田さんがさけびました。
「いや、はっきりはわかりません。なんだかそんな気がするのです。ですから、お調べになるにしても、金庫のとびらをぜんぶ開かないで、細めにあけて、そこから、のぞいてごらんになるほうがいいでしょう。そうすれば、だれも、あれを取り出すことはできませんからね。」
山口青年の考えは、もっともでした。すきまからのぞくだけなら、だいじょうぶでしょう。
そこで、恩田さんは用心深く身がまえしながら、暗号錠をまわし、重いとびらを、わずか二センチほど開いて、そっと中をのぞいてみました。
「あります。もとのままです。」
そういって、とびらをしめ、暗号錠をかけてしまいました。
「たしかにありますね。」
松波博士が、ねんをおすように言いました。
「まちがいありません。二十面相だって、この暗号錠をあけるわけがありませんよ。」
恩田さんは、やっと安心して、にこにこするのでした。
「もう十五分たった。あと十五分ですよ。」
博士が、また腕時計を見て言いました。三人は、自分の腕時計と金庫のとびらを見くらべながら、だまりこんでいました。五分たつのが、まるで一時間もかかるような気がします。