← Library‹ おれは二十面相だ 消えたゾウ

しかし、時ときはたっていきました。あと、もう五ご分ふんで十じゅう時じです。

四よん分ふん、三さん分ふん、二に分ふん……。ああ、その長ながかったこと!

とうとう一いち分ふん前まえになりました。

チクタク、チクタク、腕うで時計とけいの秒びょうをきざむ音おとが耳みみにつきます。あと、六十ろくじゅう秒びょうで十じゅう時じなのです。

三さん人にんとも、まっさおになっていました。まるで、死刑しけいの時ときがせまってくるような恐おそろしさです。

二十にじゅう秒びょう、十じゅう秒びょう……。

「あっ、あと五ご秒びょうです。」

山口やまぐち青年せいねんが、気きでもちがったような、とんきょうな声こえをたてました。

そういううちに、ああ、ついに、十じゅう時じきっかりになりました。

「十じゅう時じです。……あいつは、とうとう、やってこなかったですね。」

恩田おんださんが、ほっと、ためいきをついて、ひとりごとのように言いいました。

「もう、十じゅう時じ一いち分ふんすぎました。あいつは、約束やくそくを守まもらなかった。恩田おんださん、われわれの勝かちですね。」

松波まつなみ博士はかせもうれしそうです。

「ワハハ……。ざまあみろ。二十にじゅう面相めんそうのやつ、とうとう、手ても足あしも出でなかったじゃないか。あいつの負まけですよ。ワハハハ、こいつはおかしい。」

山口やまぐち青年せいねんが、またもや、気きちがいのように、わめくのでした。

すると、その時ときです。

「おれは、負まけなかったよ。」

どこからか、気味きみのわるい声こえがひびいてきました。

思おもわず、三さん人にんは顔かおを見合みあわせました。

ああ、あいつは、やっぱり、部屋へやの中なかへしのびこんでいたのでしょうか。

「きさま、どこにいるんだっ! なんといったって、きさまの負まけだぞっ。金庫きんこは、一いち度ども開ひらかなかったじゃないか。とびらを開ひらかないで、どうして中なかのものが、取とりだせるのだ。

真珠しんじゅのゾウは、金庫きんこの中なかに、ちゃんとはいっている。きさまの負まけだっ!」

山口やまぐち青年せいねんが、空中くうちゅうを見みすえながらさけびました。

「ウフフ……、とびらを開ひらかないでも、とりだせるかもしれないよ。おれは、魔法まほうつかいだからな。とにかく、金庫きんこの中なかを調しらべてみるがいい。ゾウがまだあるかどうかね。」

恩田おんださんは、それを聞きくと、心配しんぱいのあまり金庫きんこの前まえにとんでいって、暗号あんごう錠じょうをまわそうとしました。

「あっ、待まってください。あいつの手てかもしれません。あけないほうがいいと思おもいます。」

山口やまぐち青年せいねんが、恩田おんださんの手てをひっぱって、とめました。

「おい、おい、なにを言いっているんだ。今いま、なん時じだと思おもうね。もう十じゅう時じ十じゅう分ふんすぎだぜ。おれは十じゅう時じと言いったら、十じゅう時じかっきりだ。十分じゅうぶんもすぎてからぬすむなんて、そんなまぬけなことはしないよ。まあ、ためしに金庫きんこをあけてみたまえ。ゾウがはいっていたら、おなぐさみだよ。」

また、あやしい声こえです。さっきは、部屋へやの右みぎのすみから聞きこえてきたのが、こんどは、左ひだりのすみからです。目めに見みえないやつは、かってに部屋へやの中なかを歩あるきまわっているらしいのです。

そうまで言いわれては、開ひらいてみないわけにはいきません。

「よし、それじゃあ、金庫きんこをあけますよ。ふたりとも、わたしのそばによって、ゾウを守まもってください。あいつが、横よこから手てだしができないようにね。」

恩田おんださんが金庫きんこに近ちかづくと、松波まつなみ博士はかせも、山口やまぐち青年せいねんも、そのうしろからついていきました。

暗号あんごう錠じょうのダイヤルがまわされ、とびらがゆっくり開ひらかれていきます。

あっ、なんでしょう? へんな音おとがしました。プスッというような音おとです。鉄てつのとびらが、きしんだのでしょうか……。

恩田おんださんが、あやしんで、開ひらく手てをとめました。

「あけてごらんなさい。ためらっていても、しかたがありません。」

博士はかせが口くちぞえをしたので、恩田おんださんは、ぜんぶとびらを開ひらきました。

「やっ、ないっ。ゾウがなくなっているぞっ。」

恩田おんださんが、さけびました。

さっきまであったゾウが、かき消けすように、なくなっているのです。

松波まつなみ博士はかせも山口やまぐち青年せいねんも、からっぽの金庫きんこの中なかをのぞきこみました。なにもないのです。

博士はかせは、キョロキョロと、部屋へやの中なかを見みまわしました。

「ふしぎだ、今いまの間あいだに、透明とうめい人間にんげんが持もっていったとしても、ゾウの姿すがたは見みえるはずです。自分じぶんのからだでない物ものまで消けすことはできないはずです。エジプトの巻まき物ものの時ときでも、巻まき物ものだけは目めに見みえた。それが、人間にんげんの手首てくびといっしょに、空中くうちゅうを飛とんでいった。ところが、今いまはなにも飛とばなかった。ゾウは、まったく消きえてしまったのです。」

これは、いったいどうしたことでしょう。一いち度ども開ひらかなかった金庫きんこの中なかから、三さん人にんが見みはっている前まえで、あの真珠しんじゅのゾウが、なくなってしまったのです。

「アハハ……、おどろいたか。おれは、どんなふしぎでも、やってみせるのだ。魔法まほうつかいだからな。真珠しんじゅのゾウは、たしかにちょうだいした。おれの美術びじゅつ館かんに、またひとつ宝物ほうもつがふえたのだ。」

そして、目めに見みえないやつは、どこにも出入でいり口くちのない地下ちか室しつから、ゆうれいのように、外そとへ出でていったらしく思おもわれました。

「ちくしょうめっ。」

山口やまぐち青年せいねんは、くやしまぎれに、階段かいだんをかけあがって、その上うえにしまっている板戸いたどに、ぶつかっていきました。

しかし、そこには、だれもいません。どこか、部屋へやの外そとの遠とおくのほうから、かすかに、笑わらい声ごえが聞きこえてくるばかりです。

山口やまぐち青年せいねんは、すごすごともどってきました。そして、三さん人にんは、ぼんやりと顔かおを見合みあわせて、つっ立たっているばかりです。

その時とき、階段かいだんの上うえの板戸いたどを、コツコツと、たたく音おとが聞きこえてきました。

だれでしょう。刑事けいじが、あいずをしているのかもしれません。

「なんのご用ようですか? あやしいやつが出でていくのを見みませんでしたか?」

恩田おんださんは、板戸いたどの下したまでのぼって、大声おおごえに聞ききかえしました。

板戸いたどの上うえから、かすかな声こえがします。

「なにも見みません。宝物たからものは、だいじょうぶですか?」

もう、とられてしまったのですから、板戸いたどをしめておくことはありません。

五ご人にんの刑事けいじが、どやどやと、下したへおりてきました。そして、恩田おんださんから、ゾウが消きえてしまったと聞きくと、みんな、あっけにとられるばかりでした。

「おや、きみはどうして、ここへはいってきたのだ。あっちへ行いっていなさい。」

刑事けいじのひとりが、しかるように言いいました。みんなのうしろに、かわいい女中じょちゅうさんが立たっていたからです。

「この子こはいいんですよ。きみ、なにか、わたしに言いいたいことがあるのかね。」

恩田おんださんは、この女中じょちゅうさんが、小林こばやし少年しょうねんの変装へんそうだということを、知しっていたからです。

「ええ、ちょっと、お話はなしがありますの。」

ああ、小林こばやし君くんは、これから、なにを言いいだすのでしょうか?

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