小林君の女中さんが、恩田さんのそばに寄ってなにかささやきますと、恩田さんはうなずいて、みんなに小林少年を紹介しました。
「これは、きょうきたばかりのうちの女中ですが、ほんとうは女ではありません。男の子が変装しているのです。これは明智探偵の少年助手の、有名な小林芳雄君です。
女中にばけていたのは、探偵をするためだったのですが、そのしごともすんだそうです。そこで小林君は、この金庫を調べてみたいというのですが、むろん、さしつかえないと思うので、これから調べてもらうことにします。」
それを聞くと、みんなはびっくりして、かわいい女中さんの顔を見つめました。よくもばけたものだと、かんじいっているのです。
小林君は、ひらいたままになっている金庫のそばへよると、金庫の中へ首をつっこむようにして調べていましたが、それがすむと、向こうのすみに立っていた山口青年の前に近づいて、へんなことを言いました。
「パチンコ、見せてください。」
「えっ、パチンコだって?」
山口青年は、めんくらったように、聞きかえします。
すると小林君は、いきなりパッと山口君にとびかかって、その右のポケットからなにかをつかみ出しました。
「やっぱりそうだ、きみはパチンコを持っていたんだね。」
それは、小型のピストルでした。
みんなは、アッと驚きました。家庭教師の山口青年が、どうしてピストルなんか持っていたのでしょう。
「これは、おもちゃのピストルだね。……でも、空気銃のしかけで、たまはとび出すんだね。」
女中さんの小林君が、ピストルをひねくりまわしながら、山口青年の顔をじろじろ見るのです。
「そうだ、おもちゃだよ。章ちゃんにあげようと思って、友だちからもらってきたのさ。」
山口青年が答えました。章ちゃんというのは恩田章太郎君のことです。
「ところで、山口さん。これ、きみの部屋のカバンの中にはいっていたんだけど、みょうなおもちゃだね。きみは、よっぽどおもちゃが好きなんだね。」
そう言って、女中さんの小林君が取り出したのは、なるほど、奇妙なものでした。
十センチほどの黒い針金が、何十本も、ゴチャゴチャかたまっているようなものです。
小林君が、その針金のうちの二本を、両手でつまんで、グッと押さえますと、いままでひとかたまりになっていた針金がサーッと伸びて、二メートルほどの長さになりました。
むかし、こういうおもちゃがありました。たいていは木でできていて、縮めるとこんなふうになり、伸ばすとこんなふうになるのです。その先に人形の顔などがついていて、サーッと伸ばしてびっくり箱のように、相手を驚かすおもちゃでした。また、アーム型電話器というのに、このしかけが使われています。それは、幅のひろい金属でできていて、電話器をどちらへでも動かせるようになっているのです。
いま小林君が持ち出したのは、それらと同じしかけですが、伸びる力をせいいっぱい利用したもので、二メートルも伸びるのです。
材料は細い鋼鉄を使ってあるらしく、それがまっ黒に塗ってあるので、伸びたときには、よほどよく見ないとわからないほどです。
このおもちゃを見せられると、山口青年の顔色が変わりました。そして、おちつかぬようすで、キョロキョロとあたりを見まわすのです。
それを見ると、小林君が入口の近くに立っている三人の刑事さんに、声をかけました。
「この地下室から、だれも出ないようにしてください。ここに犯人がいるのです。」
刑事さんたちは、びっくりしましたが、小林少年が名探偵であることはよく知っているので、つよくうなずいて、三人で入口の階段の下に立ちふさがりました。
階段の上には、もうふたり刑事さんがいるのですから、どんなやつでもこの地下室から逃げ出すことはできません。
「小林君、わたしにはいっこうわけがわからないが、この中でだれが犯人だというのだね。」
恩田さんがふにおちない顔つきで、たずねました。
「こいつです!」
小林君は、山口青年の顔の前に、人さし指をつきつけて叫びました。
「えっ、それは章太郎の家庭教師の山口君だよ。透明人間とは、たびたびとっ組みあったことがあるくらいだ……。」
「だから、あやしいのです。あれは、こいつのひとりしばいですよ。さも透明人間ととっ組みあっているように、ひとりずもうをとって、投げとばされて見せたりしたのです。」
ああ、なんということでしょう。すると、この山口青年が犯人だったのでしょうか。それにしても、わからないことがたくさんあります。
「ふうん……、すると山口君はいったいだれなんだね。」
恩田さんが、みょうないいかたをしました。
「二十面相です!」
小林君が、ずばりといってのけました。
「えっ、二十面相だって?」
「刑事さんたち、こいつをつかまえてください。こいつが怪人二十面相です。」
小林君が、地下室に響きわたる声で、どなりました。