← Library‹ おれは二十面相だ 小林少年の冒険

明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんは、松波まつなみ博士はかせのあんないで、古代こだい研究けんきゅう所しょの大おおきなたてものにはいり、エジプトの部屋へやを、すみからすみまで、しらべましたが、秘密ひみつの出入でいり口くちなどは、すこしもないことがわかりました。窓まどの鉄てつごうしも、とりはずしたあとなど、まったくないのです。

明智あけち探偵たんていは、一いち時間じかんもかかってしらべ終おわると、小林こばやし少年しょうねんをそばへよんで、なにかひそひそとささやいていましたが、向むこうに立たっていた松波まつなみ博士はかせのところへいって、こんなことをいいました。

「松波まつなみさん、わたしは、巻まき物ものののろいなんて信しんじることができません。ひとつ、こんばん、実験じっけんをやってみたいと思おもいますが、どうでしょうか。」

「実験じっけんといいますと?」

「ここにいる小林こばやし君くんが、エジプトの部屋へやで、夜よるあかしをして、ためしてみたいというのです。小林こばやし君くんまで消きえてしまってはたいへんですが、けっして、そんなことはおこらないとおもいます。ひとつ実験じっけんをさせてみようではありませんか。」

それを聞きくと、松波まつなみ博士はかせは、

「それは、きけんではありませんか。わたしは、小林こばやし君くんの身みの上うえをうけあうことはできませんよ。」

「いや、わたしが責任せきにんをもちます。この小林こばやし君くんは、これまでにいろいろな事件じけんで、いのちがけの冒険ぼうけんをやっていますから、だいじょうぶです。知恵ちえもすばやくはたらきますし、力ちからも強つよいのです。それに、わたしには、ちょっと、考かんがえていることもありますから、けっして、あぶなくないようにします。」

そうして、しばらく押おし問答もんどうをしたあとで、いよいよ、小林こばやし君くんがたったひとりで、そのばん、エジプトの部屋へやで夜よるあかしをすることにきまりました。

午後ごご九きゅう時じ、小林こばやし少年しょうねんはただひとりで研究けんきゅう所しょへやってきて、松波まつなみ博士はかせといっしょに、エジプトの部屋へやにはいりました。小使こづかいの赤井あかいさんも、そこへついてきていました。

「赤井あかいさん、外そとからドアに、かぎをかけてください。そうすれば、だれもはいってこられませんからね。かぎは赤井あかいさんが、持もっているきりなんでしょう。もし、あいかぎがあるのだったら、それも赤井あかいさんが、持もっていてください。」

小林こばやし少年しょうねんは、みんなが部屋へやを出でていくまえに、そういって、ねんをおしました。

やがて、ふたりのおとなが出でていってしまい、ドアには、外そとからピチンとかぎがかけられました。

小林こばやし君くんはこうして、エジプトの部屋へやに、とじこめられてしまったわけです。

部屋へやのすみに、大おおきなデスクがあって、そのまえに、かわをはった回転かいてんいすがすえてあります。小林こばやし君くんはそのいすにかけて、ぐるっと、部屋へやの中なかを見みまわしました。

一方いっぽうの壁かべは、てんじょうまで本ほんだなで、外国がいこく語ごの本ほんがびっしりならんでいます。

一方いっぽうの壁かべには、大おおきなたながおいてあって、土つちの中なかからほり出だした古代こだいエジプトのいろいろのしなものや、その模造品もぞうひんなどが、たくさんならべてあり、その前まえの小ちいさいデスクの上うえに、銀ぎんのほそ長ながいはこにはいった、あの巻まき物ものがおいてあります。また、一方いっぽうの壁かべには、有名ゆうめいなエジプト学がく者しゃの肖像しょうぞう画がの油絵あぶらえがかけてあり、その下したに大おおきなミイラの棺ひつぎがたてかけてあります。棺ひつぎのふたが半分はんぶんひらいて、ミイラをつつんだ白しろいきれが、はみ出だしているのです。その中なかに、まっ黒くろになった、がいこつのようなミイラが立たっているのかと思おもうと、ゾーッとおそろしくなってきます。

てんじょうからさがったまるい電灯でんとうが一ひとつ、そのほかには、大だいデスクの上うえの、青あおいかさのある卓上たくじょう電灯でんとうだけです。部屋へやがひろいので、それだけの光ひかりでは、うすぐらくて、すみずみには黒くろいかげができています。

窓まどの外そとは、まっ暗くらです。庭にわにしげっている木きが、黒くろい魔物まもののように見みえています。大だいデスクの上うえには、古ふるい外国がいこくの本ほんが、らんざつにつみあげられ、そのまえに、古ふるい置おき時計とけいが、カチカチと時ときをきざんでいます。

シーンと、しずまりかえって、遠とおくの大通おおどおりをはしる電車でんしゃや自動じどう車しゃの音おとが、かすかに聞きこえてくるほかには、なんのもの音おともありません。

だんだん夜よるがふけてきました。

奇怪きっかいな巻まき物ものののろいはどんなあらわれかたをするのかわかりません。むこうの小しょうデスクの上うえにおいてある、古ふるくなって黒くろっぽくみえる、もようのある銀ぎんの箱はこ、その中なかにおさめてある二千にせん数百すうひゃく年ねんまえの、ふるいふるい巻まき物もの、それがふしぎな魔力まりょくをもっていて、人間にんげんひとりを消けしてしまったのです。

小林こばやし少年しょうねんは、その黒くろっぽい銀ぎんの箱はこを、じっと見みつめていました。長ながいあいだ、そうして見みつめていますと、ボーッと目めがかすんできて、あたりがうすぐらくなり、銀ぎんの箱はこだけが、スポットライトをあてたように、白しろっぽく見みえるのです。

「あっ! 動うごいた!」

銀ぎんの箱はこが、スーッとうごいたのです。

小林こばやし君くんは驚おどろいて、見みなおしました。目めをこすって見みなおしました。

箱はこは、やっぱりもとの小しょうテーブルのまんなかにあります。いまのは目めのまよいだったのでしょうか。

時計とけいの針はりは十じゅう時じをすぎ、十じゅう一いち時じをすぎ、十じゅう二に時じにちかづいていました。じつに、長ながい長ながい時間じかんでした。ひと月がつもたったかと思おもわれるほどでした。

小林こばやし君くんは、ときどきいすから立たって、部屋へやの中なかをあるきまわりました。そして、またもとのいすにもどるのです。

どこかでキーッと、みょうな音おとがしました。なんだかミイラの棺ひつぎのふたが、動うごいたような気きがします。ふたのあいだから、はみ出だしている白しろいきれが、風かぜもないのに、かすかにゆれているではありませんか。

さすがの小林こばやし少年しょうねんも、だんだん、気味きみがわるくなってきました。うっかり目めをそらしていると、うしろから、怪物かいぶつがしのびよってくるような気きがします。

壁かべいっぱいの本ほんだなの、本ほんのあいだから、やせほそった人間にんげんの手てが、ニューッと出でてくるのではないかとおもうと、水みずをあびたように、背中せなかがつめたくなってきました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%