← Library‹ おれは二十面相だ やみの中の手

パッ、パッ、パッ……、たった一ひとつの電灯でんとうが、またたきをするように、消きえたり、ついたりしました。

はじめは、ゆっくり、またたいていましたが、やがて、だんだんはやくなり、パチ、パチ、パチ……、ほんとうに、怪物かいぶつがまたたきしているようです。

小林こばやし君くんは、おもわずいすから立たちあがって、身みがまえをしました。おそろしい、ばけものでもあらわれてくるのではないかと、思おもったからです。

電灯でんとうがまたたくたびに、部屋へやの中なかのいろいろなものが、動うごくような気きがします。

むこうの壁かべに、たてかけてあるミイラの棺ひつぎのふたが、半分はんぶんひらいて、そこから白しろいきれが、幕まくのようにあらわれています。ミイラの頭あたまの上うえから、かぶせてあるきれが、はみ出だしているのです。

その白しろいきれが、風かぜもないのに、フワフワとゆれ動うごきました。

ミイラが、動うごき出だしたのでしょうか。いまにも、ああ、いまにも、黒くろいミイラが、あのふたを、もっとひらいて、こちらへ、歩あるき出だしてくるのではないでしょうか。

そればかりではありません。さっきは、本ほんだなの本ほんのあいだから、やせた手てが出でてくるようにおもいましたが、おなじような手てが、あちらからも、こちらからも、ニューッ、ニューッとつき出だしてくるような気きがするのです。

テーブルの下したからも、ミイラの棺ひつぎからも、たなにならべてある土人形つちにんぎょうや、つぼの中なかからも……。

電灯でんとうがパッときえるたびに、ちがったところから、その手てが出でてくるように思おもわれるのです。

その手ては、みんな、テーブルの上うえの巻まき物ものの箱はこをねらっているようで、そのほうへグングンのびてくるのです。そのうちの一いち本ほんの手ては、一いちメートルも二にメートルも長ながく長ながくのびて、いまにも、銀ぎんの箱はこにさわりそうになるのです。

むろん、ほんとうに手てが出でたわけではありません。電灯でんとうがパッパッとまたたくので、気きのせいで、ありもしないものが見みえたのです。

さすがの小林こばやし少年しょうねんも、もう、がまんができなくなって、ドアのほうへ、走はしっていって、いきなり、ドアをドンドンとたたきました。

小使こづかいの赤井あかいさんが、その音おとを聞きけば、かぎをもって、ドアをあけにきてくれるだろうと思おもったからです。

ところが、小林こばやし君くんがドアをたたきますと、まるで、それが、あいずででもあったように、パッと電灯でんとうがついて、そのまま消きえなくなりました。またたきをやめてしまったのです。

電灯でんとうがつけば、もう、おそろしいまぼろしは見みえないでしょう。小林こばやし君くんは、やっと安心あんしんして、もとのいすにこしかけました。

巻まき物ものの銀ぎんの箱はこは、ちゃんと、テーブルの上うえにあります。

小林こばやし君くんは、その箱はこをじっと見みつめて、身動みうごきもしません。

もう、真ま夜中よなかの一時いちじでした。あたりは、いよいよ静しずまりかえり、世よの中なかの生いきものが、みんな死しにたえて、小林こばやし君くんたったひとりになってしまったような、なんともいえないさびしさです。

これで、朝あさまで、ぶじにおわるのでしょうか。何なんか、ほんとうにおそろしいことが、これから、おこるのではないでしょうか。

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