みんなはその人の顔をひと目見ると、「あっ。」と、びっくりぎょうてんしてしまいました。
それは、いったいだれだったと思いますか。ほかでもない、松波博士その人だったのです。
しかし、松波博士はさいぜんから、ずっと地下室にいたではありませんか。見ればたしかにもとの場所に立っています。そこへもうひとり、そっくり同じ松波博士が階段をおりてきたのです。松波博士がふたりになったのです。
そのとき、明智探偵がいきなり、前からいた松波博士に、飛びかかって行きました。
そして、相手が防ぐひまもないうちに、かつらとつけひげとつけまゆげを、むしり取ってしまいました。
白いかみの毛、白い口ひげとまゆがとれると、その下から、若々しい顔があらわれました。
かみはまっ黒です。顔にはしわなどをかき入れてうまく変装していますが、若さをかくすことはできません。三十そこそこの男です。
「こいつは二十面相の一のでしで、やっぱり変装の名人です。松波博士が新しい家へ引っこされたときから、このにせものが入れかわっていたのです。
ほんとうの松波博士は、古代研究所の地下室の物置きに、とじこめられていました。
二十面相たちがとじこめたことは、いうまでもありません。このにせものは、毎日なにくわぬ顔で、所長として古代研究所へ通っていたのです。
そして、物置きへとじこめた松波さんに、こっそり食事だけは与えておりました。
これでもうおわかりでしょう。手首だけが宙を飛んだのも、足跡だけがしるされたのも、みんなこのにせ博士の作り話だったのですよ。」
あれほどまでにこんぐらかったなぞも、すっかりとけてしまいました。小林君は、
「さすがに先生だ。よくやってくださった……。」
と、もううれしくてしかたがありません。刑事さんたちは、にせの松波博士にも手錠をはめてしまいました。
ほんものの松波博士は、力のない声で、みんなにあいさつしてから、
「わたしは、明智さんに助け出されたのです。まえには、古代研究所のエジプトの巻き物が盗まれようとしたのを、防いでくださったし、こんどはわたしを助けてくださった。二重におせわになったわけです。」
と、お礼を言うのでした。
「いや、まだひとつ残っているものがあります。エジプトの巻き物が盗まれるのを、一度は防ぎましたが、二度めに透明人間のトリックで、持ち去られてしまいました。」
明智はそう言って、ジロリと二十面相を見ました。
「きみ、むろん、あれを松波さんに返すだろうね。」
すると、二十面相の山口青年がニヤニヤと笑いました。
「こうしてつかまったからには、返すほかあるまいね。しかし明智君、二十面相は魔法つかいだからね。まだ、どんなおくの手が用意してあるかもしれないぜ。
きみも、ぼくのおくの手は、じゅうぶん知っているはずだ。ゆだんをしないほうがいいよ。」
「ハハハ……、あいかわらずだな。きみの方におくの手があれば、ぼくの方にだって、それにまけないおくの手がある。おたがいに、ゆだんをしないように注意しよう……。」
明智探偵も、負けてはいませんでした。
さて、いよいよふたりの犯人を、警視庁へ連れて行くことになりました。
二十面相とそのでしには、ひとりずつ刑事さんがつき、手錠の一方を犯人の手首にはめ、もう一方を自分の手にはめて、逃げようとすれば刑事さんの手首が引っぱられるので、すぐわかるようにしました。
わかるばかりではありません。こうしておけば、まさか刑事さんを引きずって走るわけにはいきませんから、どんなことがあっても、だいじょうぶなのです。
みんなが、どやどやと地下室から一階に上がり、玄関の方へ歩いて行きました。
みんなのあとから歩いていた明智探偵が、小林少年のそばに寄って、なにかボソボソとささやきました。すると、小林君は、
「だいじょうぶです。ポケット小僧が、ちゃんと見張りをしています。」
と、小さな声で答えました。
ポケット小僧というのは、少年探偵団のチンピラ隊のひとりで、小学校四年生ぐらいの年ですが、ひどくからだが小さくて、ポケットにでもはいるくらいだというので、こんなあだ名がついているのです。
とても、すばしっこいかしこい子で、これまでにもからだの小さいのを利用して、たびたび手がらをたてたことがあります。
さあ、おもしろくなってきました。そのポケット小僧が、これからいったいどんな役目をつとめるのでしょう。