神社の森に逃げこんだ二十面相とその部下は、すばやく森をぬけて、神社のうらてに出ました。
そこは広い原っぱで、ヘッドライトを消した一台の自動車が、ドアをあけて待っていました。
ふたりがその中へ飛び込むと、自動車はすぐにスタートして、町から町へと曲がって走っていくのです。この自動車は、さっき恩田さんの門の中で、ようすを見ていた男が、運転しているのです。むろん、二十面相の部下のひとりなのです。
この男が、自動車に備えつけた無電で、二十面相のすみかへ首領がつかまったことを知らせましたので、べつの部下がトラックを運転して、二十面相が乗せられた自動車にぶつかり、首領が逃げ出す手助けをしたのです。
これは、前から二十面相が考えておいたことで、神社の前でぶっつかるように打ち合わせてあったのです。
さて、二十面相と部下の乗り込んだ自動車は、寂しい町ばかり通って、三十分ほど走ると、世田谷区のやしき町にある、一軒の大きな家に着きました。
車が門の中で止まると、二十面相と部下は、その家の玄関のドアをあけてはいっていきました。車を運転していた男も、あとからドアの中に消えました。
そのとき、自動車のうしろのトランクのふたが、スーッと静かに開きました。いうまでもなく、トランクの中には、黒しょうぞくのポケット小僧がかくれていたのです。
ぴったり身についた黒シャツと、黒ズボン、頭には、目だけくりぬいた黒ふくめん。その小さな黒んぼうが、トランクの中から飛び出すと、ふたをもとのようにしめて、そっと入口のドアに近づきました。
うまいぐあいに、ドアにはまだかぎがかけてありません。音のしないようにそれを開いて、しのびこみました。
だいじょうぶでしょうか。子どもひとりで、怪盗のすみかへしのび込んで、見つけられたらどんなひどいめにあわされることでしょう。
しかし、ポケット小僧は、そういう冒険には、なれていました。
大かばんの中にかくれて、山の中の怪人のすみかにはいりこみ、たいへんな手がらをたてたこともあります。
からだがひどく小さいうえに、まっ黒な姿です。それに、おそろしくすばしっこいのですから、めったに見つかるようなことはありません。
うすぐらい廊下を、壁にくっつくようにして進んで行き、ドアがあるとかぎ穴から中をのぞいて見て、だれもいないことがわかると、そっとしのび込んで部屋のようすを調べるのです。
そうして、次から次へと部屋を調べ歩き、二十面相のすみかのようすを、すっかり頭にいれてしまいました。
二十面相は、自分の部屋へ部下を集めて、こんやのことを話していました。ポケット小僧は、その部屋のドアに耳をつけて、立ち聞きしました。
「明智がおなじ車に乗っていたら、逃げられなかったかもしれない。あいつににらまれていては、手錠ぬけもできないからね。おまわりのやつは、おれたちが手錠ぬけの名人だということを知らないので、うまくいったのだよ。」
そんな声が、聞こえてきました。
ポケット小僧は、ひととおりようすをさぐってしまうと、玄関にもどって、外へ出ました。
そして、くらい町を、どこともしれず立ち去るのでした。