二十面相は、ポケット小僧がしのびこんだことは少しも知りません。
自分の部屋に部下を集めて、さっきから一時間ほども話し続けていました。
「この家が二十面相のすみかとは、だれも気がつくまい。表札は木下庄太郎だからな。貿易会社の社長さんだ。となり近所でもそう信じているし、警察でも、少しも疑っていない。おれたちは、用心深くして、あやしいようすは、一度も見せたことがないからね。ハハハハ……。」
二十面相は、楽しそうに笑うのでした。
かれのまわりには、五人の部下がこしかけたり、立ったりしていました。
松波博士にばけたでし、それから、自動車を運転した男、あとの三人のなかには、さっきトラックを運転した男の顔も見えます。この家には、五人の部下のほかに、ふたりの女中がいるばかりです。
「さあ、グラスをあけて、部屋にひきとって寝るがいい。おれはいつものように、美術室でしばらく楽しんでから、やすむからね。」
二十面相がそういいますと、五人の部下は、手に持っていたウイスキーのグラスを、目よりも高く上げて、
「首領の健康を祝します。おくの手がうまくいって、おめでとう。ブラボーッ!」
くちぐちにおめでとうをいうと、ウイスキーをグッと飲みほして、部屋から出て行くのでした。
あとに残った二十面相は、ひとりですこしはなれた美術室にはいって、電灯のスイッチをおしました。
パッと明るくなったのは、じつにりっぱな部屋でした。ガラスばりの陳列だなが、四方に並んでいて、その中には、いろいろな彫刻や宝石や、金銀の細工物などが、いっぱい並んでいます。みんな、盗みためたものにちがいありません。
ひとつのたなのまん中に、銀色の箱がおいてあります。なんだか見覚えのある箱です。
ああ、わかった。古代研究所から盗んだ、エジプトの巻き物がはいっている箱です。二十面相は、あの宝物をここに置いていたのです。
陳列だなにはいりきらない大きな彫刻などは、壁ぎわに立ててあります。青銅で作った男のはだかの姿、木でほった女のはだかの姿、古い仏像などにまじって、銀色の西洋の昔のよろいなども飾ってあります。
部屋のまんなかには、これも美術品らしいりっぱなテーブルとイスが置いてあります。いすの背中は、恐ろしく高くて、それに細かい彫刻がしてあるのです。
二十面相は、そのいすにゆったりと腰をおろして、まわりの美術品を見まわすのでした。
「ウフフフ……、よくも集めたもんだな。明智のやつには、いつもひどいめにあわされる。そのたびに、せっかく集めた美術品を取り返されてしまうが、半年もすれば、またこんなに集まってくるんだからな。いくらつかまっても、おれは不死身だよ。美術品を集めることは、けっしてあきらめない。ウフフフ……、明智先生と根くらべだ。そして、けっきょくおれが勝つんだからなあ。
それにしても、小林というチンピラは、恐ろしいやつだ。女中にばけて、おれの部屋から真珠のゾウを取りもどすなんて、たいした腕まえだよ。だが明智先生も小林君も、まんまとおれにいっぱいくわされたね。おれは、いつもおくの手を用意しているからな。」
二十面相はさも得意らしく、ブツブツとひとりごとをいっていましたが、そのとき、ふとだまりこんで、耳をすましました。
どこからか、へんな声が聞こえてくるのです。クスクスと、しのび笑いをしているような声です。
どうも、それが外ではなくて、部屋の中のような気がするのです。
二十面相は、目をカッとみひらいて、部屋じゅうを見まわしました。だれもいません。しかし、声はあいかわらず聞こえてきます。その声が、だんだん大きくなってくるようです。
二十面相は、気味がわるくなってきました。そのうちに、声のほかにもうひとつ、変なことが起こったのです。