← Library‹ おれは二十面相だ 白と黒

しばらくすると、そのほんとうのおそろしいことがおこりました。

電灯でんとうが、また消きえたのです。そして、こんどは消きえたまま、つかなくなったのです。まるで、黒くろビロードをはりつめたような、しんのやみです。

何なんも見みえません。めくらになってしまったようです。

すると、目めの前まえに、黄色きいろや、赤あかや、紫むらさきのモヤモヤしたものが、あらわれたり、消きえたりしました。けむりの輪わのような紫色むらさきいろの輪わが、スーッと近ちかづいてきたり、まっかなきれいな花はなが、目めの前まえいっぱいに、パッと、ひらいたりします。

みなさんも、目めをつむったとき、そういう色いろが見みえることがあるでしょう。目めのおくの神経しんけいの作用さようですね。あれが、いま、やみの中なかの小林こばやし君くんの目めの前まえに、ひじょうにはっきりした色いろで、あらわれたり、消きえたりしているのです。

そのとき、あたりの空気くうきが、うごくような気きがしました。窓まどもドアも、ぴったりしめてあるのに、どこからか、かすかに風かぜがふいてくるのです。

おばけの話はなしをよむと、おばけが出でるときには、どこからか、なまぐさい風かぜがふいてくると書かいてあります。これはそのおばけのまえぶれの風かぜでしょうか。

でも、べつになまぐさくはありません。ごくかすかな空気くうきのうごきが、ほおにかんじられるばかりです。

そのころは、もう、目めがやみになれていたので、部屋へやの中なかの白しろっぽいものは、ぼんやりと見みえるようになっていました。

テーブルの上うえの巻まき物ものの銀ぎんの箱はこもうっすらと、見みえているのです。小林こばやし君くんは、目めをいっぱいに開ひらいて、その箱はこをにらみつけていました。

すると、その銀ぎんの箱はこのまんなかのへんが、とつぜん、なんかでかくされたように、見みえなくなったではありませんか。まんなかが黒くろくなって、銀ぎんの箱はこが二ふたつに割われたように見みえるのです。

黒くろい手てが、銀ぎんの箱はこを、つかんだのではないでしょうか。

あっ、ごらんなさい。銀ぎんの箱はこが、動うごいています。テーブルの上うえを、スーッと、すべっていきます。そして、テーブルの外そとまでいっても、下したへ落おちないで、宙ちゅうに浮ういているではありませんか。

ああ、わかりました。まっ黒くろな手てが、どこからかあらわれて、銀ぎんの箱はこをつかんで、もっていくのです。

いや、手てばかりではありません。何なんか、ぜんしんまっ黒くろなやつが、そこに立たっているようです。まっ黒くろな怪物かいぶつが巻まき物ものをぬすみにきたのです。

「あっ、きさま、なにものだっ!」

小林こばやし君くんは、叫さけび声ごえをたてて、その黒くろい怪物かいぶつにとびかかっていきました。

たしかに、手てごたえがありました。人間にんげんの暖あたたかいからだです。そいつは、まっ黒くろなきれを、頭あたまからかぶって、手てもそのきれに包つつんで、巻まき物ものの箱はこを、盗ぬすみ去さろうとしたのです。

「どろぼうっ、まてっ!」

小林こばやし君くんは、その目めに見みえないやつに、くみつこうとしましたが、あっとおもうまに、おそろしい力ちからではねとばされ、しりもちをついてしまいました。

そのときです。部屋へやのむこうの壁かべぎわで、また、ふしぎなことがおこりました。ミイラの棺ひつぎから、はみ出だしていた白しろいきれが、だんだん大おおきくなって、フワフワと、こちらへ近ちかづいてきたのです。

ミイラが棺ひつぎのふたをひらいて、歩あるき出だしたのでしょうか。そんなことがおこるはずはありません。では、いったい、どうして白しろいきれを、からだにまきつけた人間にんげんみたいなやつが、こちらへ、近ちかづいてくるのでしょう。

小林こばやし君くんは、しりもちをついたまま、むねをドキドキさせて、やみの中なかを見みつめていました。

すると、白しろいおばけが、サーッとやみの中なかを走はしって、黒くろいおばけにとびかかっていったようです。目めには見みえないけれども、黒くろいおばけも、これに立たちむかって、とっくみあいをはじめたようです。

銀色ぎんいろの巻まき物ものの箱はこが、宙ちゅうに浮ういて、あっちへいったりこっちへいったりしています。白しろと黒くろのおばけが、箱はこのとりっこをしているらしいのです。

それから、おそろしい音おとを立たてて、とっくみあいが始はじまりました。白しろいおばけと黒くろいおばけの、死しにものぐるいの大だい格闘かくとうです。

バタンバタンと、おそろしい音おとが聞きこえ、部屋へやの中なかを、ゴロゴロころがって、とっくみあっているのです。

「さあ、つかまえたぞ。小林こばやし君くん、スイッチをおしてくれっ!」

ああ、その声こえは明智あけち探偵たんていでした。白しろいおばけが、黒くろいおばけを、くみふせているらしいのです。すると、白しろいおばけは明智あけち先生せんせいだったのでしょうか。

小林こばやし君くんは、ドアのそばの壁かべにある電灯でんとうのスイッチのところへ、手てさぐりでちかづいて、それをおしました。しかし、電灯でんとうはつきません。もっと元もとのほうのスイッチが、きってあるのでしょう。

小林こばやし君くんはドアをたたいて、助たすけをよぼうとしました。そして、ドアをさぐりますと、あらっ、いつのまにか、ドアが開ひらいているではありませんか。

小林こばやし君くんは外そとの廊下ろうかへ、とび出だしていって、大声おおごえで叫さけびました。

「だれかきてくださーい。エジプト室しつにどろぼうがはいったのですっ。」

なんども、叫さけんでいますと、だれかが階段かいだんを上あがってくる音おとがして、廊下ろうかの向むこうが、ボーッと、明あかるくなりました。懐中かいちゅう電灯でんとうを持もった人ひとがかけつけてきたのです。

その人ひとが廊下ろうかへ、あらわれたのを見みると、所長しょちょうの松波まつなみ博士はかせでした。博士はかせは、今夜こんやは、巻まき物もののことが心配しんぱいなものですから、下したの宿直しゅくちょく室しつにとまりこんでいたのです。

「おお、小林こばやし君くん、何なにごとです。どろぼうとは、何者なにものです。」

「わかりません。明智あけち先生せんせいが、どこかからあらわれて、どろぼうをつかまえたらしいのです。……元もとのほうのスイッチがきってあります。先生せんせい、それをいれてください。」

「よし、待まっていたまえ。」

松波まつなみ博士はかせは、懐中かいちゅう電灯でんとうを小林こばやし君くんにわたして、もう一いち度ど階段かいだんをかけおりていきました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%