← Library‹ おれは二十面相だ ドアの秘密

博士はかせが元もとのスイッチをいれたので、部屋へやの電灯でんとうがつきました。

「あっ、きみは小使こづかいの赤井あかい君くんだなっ。」

白しろい怪物かいぶつがさけびました。くみしいた黒くろい怪物かいぶつのかぶっていたきれを、めくりとると、その下したからあらわれたのは、黒くろ背広せびろをきた赤井あかいの姿すがただったのです。

「明智あけちさん、よくやってくださった。それじゃ、その赤井あかいが、エジプトの経文きょうもんを盗ぬすもうとしたのですね。」

部屋へやにはいってきた松波まつなみ博士はかせが、白しろい怪物かいぶつに、声こえをかけました。

からだに白しろいきれをグルグルまきつけて、エジプトのミイラとそっくりの姿すがたをした怪物かいぶつが、じつは明智あけち探偵たんていだったのです。かれはその姿すがたで、ミイラの箱はこの中なかにかくれて、わるものがやってくるのを、まちぶせしていたのです。

小林こばやし少年しょうねんは、なにも知しらされていなかったので、松波まつなみ博士はかせが、「明智あけちさん。」とよびかけるのをきいて、びっくりしました。

「さては、明智あけち先生せんせいは、松波まつなみ博士はかせと相談そうだんして、ぼくがエジプトの部屋へやにはいるまえに、ミイラの箱はこの中なかにかくれていたんだな。ぼくがそれを知しっていると、そのことが、顔色かおいろにあらわれて、犯人はんにんを用心ようじんさせるので、わざとしらせなかったのだろう。」

小林こばやし君くんは、とっさに、そこへ気きがつきましたが、しかし、まだわからないことがあります。松波まつなみ博士はかせもおなじことをかんがえていたとみえて、そのとき、明智あけちにむかって、こんなふうにたずねました。

「赤井あかいが犯人はんにんなら、電灯でんとうの元もとのスイッチを、入いれたりはずしたりできたし、また、この部屋へやのかぎをもっているのだから、しのびこむのも、ぞうさなかったわけです。しかし、まだ、わからないことがありますよ。きのう、大学だいがく生せいが、この部屋へやの中なかで、きえてしまった秘密ひみつです。明智あけちさんには、あの秘密ひみつもわかっているのですか。」

明智あけち探偵たんていは、どこからか、ほそびきをとり出だして、犯人はんにん赤井あかいの手てと足あしをしばった上うえ、そこのいすにからだをくくりつけていましたが、それがおわると、こちらへ近ちかづきながらこたえました。

「それは、わかっていました。昼間ひるま、この部屋へやをしらべたときに、その秘密ひみつを発見はっけんしたのです。しかし、それをいってしまうと、犯人はんにんが用心ようじんして、経文きょうもんをぬすみにこなくなるので、わざとだまっていたのです。そして、犯人はんにんをゆだんさせて、こんや、しのびこんでくるのを、まちぶせしたのです。こいつは、まんまと、そのわなにかかったわけですよ。」

「しかし、わたしには、まったくけんとうもつきませんなあ。いったい、どんな秘密ひみつがあったのです。さしつかえなかったら、おしえてくださらんか。」

「かんたんなトリックですよ。こいつはもうにげられっこありませんから、警察けいさつを呼よぶ前まえに、その秘密ひみつをお見みせしましょう。それでは、先生せんせいは、廊下ろうかのつきあたりの、あなたの研究けんきゅう室しつにはいって、ガラス窓まどから、このドアを見みていてください。小林こばやし君くんも先生せんせいといっしょに、見みていなさい。」

そこで、博士はかせと小林こばやし少年しょうねんは、廊下ろうかのつきあたりの博士はかせの研究けんきゅう室しつにはいり、ガラス窓まどごしに、エジプト室しつのドアを見みはることになりました。そのガラス窓まどからエジプト室しつのドアまでは、十じゅうメートルほどへだたっているのです。廊下ろうかに電灯でんとうがついているので、ドアはよく見みえます。

じっと見みていますと、廊下ろうかに出でていた明智あけち探偵たんていは、一いち度どエジプト室しつへはいって、三十さんじゅう秒びょうほどすると、また廊下ろうかへ出でてきました。そして、ドアをひらいたままにして、むこうをむいて、部屋へやの中なかをのぞいています。

すると、あっとおどろくようなことが、おこりました。

ドアの中なかにひとりの男おとこが立たっているではありませんか。犯人はんにんの赤井あかいは、いすにくくりつけられているのですから、そんなところへ、出でてこられるはずはありません。すると、あれは何者なにものでしょう。部屋へやの中なかへ、ひょっこり、ひとりの男おとこがわきだしたのです。

きのうは、大学だいがく生せいが、消きえてしまいましたが、こんやは、そのぎゃくに、なんにもないところから、ひとりの人間にんげんがあらわれたのです。

明智あけち探偵たんていは、その男おとこと、しばらくひそひそと話はなしていましたが、こちらをむいて、うなずいてみせると、そのまま、部屋へやの中なかにはいって、中なかからドアをしめました。

博士はかせと小林こばやし君くんは、それを見みると、じっとしていられなくなって、研究けんきゅう室しつを出でて、エジプト室しつのほうへいそぎました。

すると、明智あけち探偵たんていは、またドアをあけて、ふたりを部屋へやの中なかへ、むかえいれながら、

「たしかに男おとこが立たっていたでしょう。ところが、ごらんなさい。部屋へやの中なかには、赤井あかい君くんのほかには、だれもいないのです。」

といって、にこにこわらっています。

部屋へやのむこうのすみには、赤井あかいがいすにしばられたまま、こわい顔かおで、こちらをにらんでいました。

「まさか、いまのは赤井あかいだったのではないでしょうね。」

博士はかせがふしぎそうにいいました。

「そうじゃありません。いくら手てばやくやっても、あのほそびきをといて、またもとのようにしばる時間じかんはなかったですよ。赤井あかいではない人間にんげんが、あらわれたのです。」

「そして、その人ひとはどこへいったのです。」

「消きえてしまったのです。きのうの大学だいがく生せいのようにね。」

「わかりませんなあ。じつにふしぎだ。こんなばかなことがあるはずはない。」

博士はかせはこまったような顔かおをして、きょろきょろと、あたりを見みまわすのでした。

「ハハハハ……、なんでもないことですよ。これをごらんなさい。」

明智あけち探偵たんていはそういって、ドアのそばへ近ちかづきました。

では、このドアに、秘密ひみつの種たねがかくされているのでしょうか。そうだとすれば、いったい、どんな秘密ひみつなのでしょう。読者どくしゃのみなさん、つぎを読よむまえに、ちょっと考かんがえてみてください。

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