← Library‹ 妖星人R ねこそぎ盗難

中村なかむら警部けいぶは、いったん警視けいし庁ちょうにかえって、相談そうだんしたうえ、二十にじゅう人にんの警官けいかんで五いつ日間かかん、夜よるも昼ひるも、美術びじゅつ館かんをみまわることになりました。

陳列ちんれつ室しつが五いつつしかない、小ちいさい美術びじゅつ館かんですから、これだけの人数にんずうでじゅうぶんなのです。

ひとつの陳列ちんれつ室しつにふたりずつ見みはりに立たち、のこる十じゅう人にんは、美術びじゅつ館かんのまわりを、あるきまわっているのです。

しかし、怪人かいじんは、いっこうに、あらわれません。

二十にじゅう人にんの警官けいかん隊たいにおそれをなして、ぬすむことを、あきらめたのでしょうか。いやいや、まだゆだんはできません。きょうは四よん日かめです。あとに一日ついたちのこっているのです。

そして、とうとう、その五いつ日かめとなりました。昼間ひるまは、なにごともなく、夜よるがきました。

美術びじゅつ館かんの館長かんちょう室しつでは、古山ふるやま博士はかせと中村なかむら警部けいぶとが、むかいあって、いすにかけていました。

「いま七しち時じです。もし、怪人かいじんが約束やくそくをまもるとすれば、あと五ご時間じかんのうちに、なにごとかが、おこるでしょう。あと五ご時間じかんです。」

古山ふるやま博士はかせが、まるで、それをまちかねているように、つぶやきました。

「あてになりませんね。五いつ日間かかんなんていっておいて、その五いつ日かがたってしまって、われわれがゆだんしたときに、やってくるのではありませんか。だから、この見みはりは、とうぶん、とくわけにはいきませんね。」

「いや、あいつは、約束やくそくをまもるでしょう。中村なかむらさんは、あいつにであったことがないので、おわかりにならないでしょうが、わたしは、この目めで、いろいろなふしぎを見みているのです。二十にじゅう人にんぐらいの警官けいかんでは、じつは心こころぼそいのですよ。きっと、やってくるとおもいます。」

古山ふるやま博士はかせは、そういって、中村なかむら警部けいぶの顔かおを、じっと見みつめるのでした。

そのとき、ドアがひらいて、小使こづかいさんが、はいってきて、ふたりの前まえのテーブルにコーヒーをならべました。

「あ、コーヒーをいれたのか。それは気きがきいたね。わたしたちばかりでなく、おまわりさんたちにも、あげてください。外そとにいる人ひとにも、のこりなくね。」

博士はかせがいいますと、小使こづかいさんはニヤリとわらって、

「はい、わかりました。ちゃんと、用意よういができております。」

とこたえて、そのまま、部屋へやをでていきました。

古山ふるやま博士はかせと中村なかむら警部けいぶは、そのコーヒーを、すっかりのんでしまいましたが、しばらくすると、みょうなことがおこりました。

中村なかむら警部けいぶが、いすにかけたまま、コックリ、コックリと、いねむりをはじめたのです。

古山ふるやま博士はかせは、それを見みると、立たちあがって、警部けいぶの肩かたに手てをかけて、ゆりうごかしながら、

「中村なかむらさん、どうなすった? 昼間ひるまのつかれで、ねむくなったのですか。中村なかむらさん、中村なかむらさん……。」

と、いくらよんでも、警部けいぶは目めをさましません。

博士はかせはそれをたしかめると、なぜか、みょうな笑わらいをうかべて、そのまま、部屋へやをでていってしまいました。

とりのこされた中村なかむら警部けいぶは、いつまでも、ねむっていました。もう九きゅう時じをすぎたのに、まだねむっています。そして、夢ゆめをみていました。おそろしい夢ゆめです。

砂漠さばくのように、見みわたすかぎり、なにもない地面じめん、その上うえにひろがる灰色はいいろの空そら。そのひろいひろい地面じめんから、ニョキニョキと、黒くろい気味きみのわるいものが、はえてくるのです。あちらからも、こちらからも、みるみる地面じめんいっぱいにひろがって、かぞえきれないほど、黒くろい頭あたまを、もたげてくるのです。

それは何百なんびゃくともしれぬカニの怪人かいじんでした。それが地面じめんからわきだして、こちらへあるいてくるのです。

中村なかむら警部けいぶは、にげだそうとしましたが、どうしたのか、足あしがすこしもうごきません。さけぼうとしても、声こえがでません。

そのうちに、むらがるカニ怪人かいじんが目めの前まえに、せまってきました。そして、あの気味きみのわるい、カニの頭あたまが、警部けいぶの顔かおの上うえに、のしかかってくるのです。

もがきにもがいているうちに、ふっと目めがさめました。

「なあんだ、夢ゆめだったのか。」

やれやれ、夢ゆめでよかったとおもって、テーブルのむこうを見みると、古山ふるやま博士はかせがいすにもたれて、ぐっすり、ねむっているではありませんか。

「古山ふるやまさん、おきてください。古山ふるやまさん。」

そばへいって、からだをゆすぶると、博士はかせは、やっと目めをさましました。

「あっ、いつのまに、ねむったのかしら。」

と、ふしぎそうに、あたりを見みまわしています。

「ぼくも、いままで、ねむっていたのですよ。どうもへんですね。ふたりが、そろって、いねむりをするなんて。」

「あなたもねむっていたのですか。すると、われわれだけじゃないかもしれませんよ、ねむらされたのは……。」

「えっ、ねむらされたって。」

「そうです。ともかく、しらべてみましょう。ひょっとすると、たいへんなことが、おこっているかもしれない。」

博士はかせは、あわただしく、部屋へやをかけだしていきました。中村なかむら警部けいぶも、そのあとを、おいました。

博士はかせは、第だい一いちの陳列ちんれつ室しつにとびこみました。

「あっ、やっぱり、そうだっ。」

ふたりのおまわりさんが、部屋へやのすみにたおれていました。いびきをかいて、ねむっているのです。

中村なかむら警部けいぶも、そこへはいってきて、いきなり、ねむっているおまわりさんのからだを、ゆすぶりました。

「おい、おきたまえ。いったい、どうしたんだ。」

ふたりの警官けいかんは、目めをこすりながら、よろよろと、たちあがりました。

「見みたまえ、陳列ちんれつだなは、ぜんぶ、からっぽだっ。」

古山ふるやま博士はかせがさけびました。

その部屋へやには、六むいつの大おおきな陳列ちんれつだなが、おいてあるのですが、それが、みんな、からっぽになっていたのです。

「あ、やられたっ。」

警官けいかんのひとりが、とんきょうな声こえをたてました。

「ほかの部屋へやも、しらべてみましょう。」

それから、博士はかせと警部けいぶとは、第だい二に、第だい三さん、第だい四よん、第だい五ごと、ぜんぶの陳列ちんれつ室しつをしらべましたが、どこも、第だい一いちの陳列ちんれつ室しつとおなじでした。

見みはり番ばんのおまわりさんはグウグウねむっていて、陳列ちんれつだなは、みんな、からっぽになっていたのです。

「事務じむ室しつへいってみましょう。館員かんいんがいるはずです。」

博士はかせはそういって、かけだしました。事務じむ室しつのドアをあけると、四よん人にんのわかい館員かんいんが、机つくえの上うえに、うつぶせになって、グウグウねむっているではありませんか。

それから、外そとをしらべました。すると、美術びじゅつ館かんのまわりを見みはっていた十じゅう人にんの警官けいかんも、みんな地面じめんにころがって、ねむりこんでいたのです。

ききただしてみますと、ぜんぶの人ひとが、小使こづかいのもってきたコーヒーを、のんでいることがわかりました。

「そうだ、あいつがあやしいぞ。」

古山ふるやま博士はかせが、さきにたって、小使こづかい室しつへかけこみました。しかし、そこは、もぬけのからでした。

それから、てわけをして、ほうぼうを、さがしましたが小使こづかいの姿すがたは、どこにもみあたりません。にげだしてしまったのです。

「みんなをねむらしておいて、そのまに、美術びじゅつ品ひんをもちだしたのですね。しかし、小使こづかいひとりの力ちからでは、どうにもできないはずだが……。」

「そうです。あの美術びじゅつ品ひんを、ぜんぶはこぶのには、すくなくとも、大型おおがたトラック三さん台だいは、いります。むろん小使こづかいひとりの、しわざではありません。」

「じゃあ、あのカニ怪人かいじんたちが……。」

中村なかむら警部けいぶは、さっきの夢ゆめをおもいだして、ゾッとしました。

「やっぱり、ひとりや、ふたりじゃない。十じゅう人にん以上いじょうのカニ怪人かいじんが、やってきたのだ。」

あの気味きみのわるい、カニ頭あたまの怪物かいぶつが電灯でんとうのような目めをギョロギョロさせて、陳列ちんれつ室しつの美術びじゅつ品ひんをつぎつぎと、はこんでいったかとおもうと、なんともいえない、おそろしさでした。

そのあくる日ひの新聞しんぶんには、岩谷いわたに美術びじゅつ館かんの、ねこそぎ盗難とうなん事件じけんが、デカデカと書かきたてられ、日本にっぽんじゅうの人ひとを、ふるえあがらせました。

それにしても、美術びじゅつ館かんの陳列ちんれつ品ひんが、ひとつのこらず、きれいにぬすみさられるなんて、きいたこともない、ふしぎな事件じけんでした。ほんとうに、ねこそぎ盗難とうなん事件じけんにちがいありません。

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