← Library‹ 妖星人R カニのぬけがら

「そうです。ぼくは、あいつらに、つかまえられたのです。」

といって、ふっと、気きがつきました。

井上いのうえ君くんは怪人かいじんの魔力まりょくによって、からだを消けされていました。ですから、井上いのうえ君くんの姿すがたは、だれにも見みえないはずです。

ところが、この紳士しんしには、ちゃんと、井上いのうえ君くんが見みえているらしいではありませんか。

「おじさんぼくが見みえるのですか。」

井上いのうえ君くんは、へんなことを、たずねました。

「見みえるとも。きみは、なかなか、つよそうな少年しょうねんだよ。」

紳士しんしは、にこにこわらって、こたえました。

では、カニ怪人かいじんの魔法まほうがとけて、井上いのうえ君くんのからだは、見みえるようになっていたのでしょうか。なんだか、へんではありませんか。

しかし、それを、ふしぎがっているひまはありませんでした。

その紳士しんしと、二言にごん三さん言げん、はなしあったかとおもうと、井上いのうえ君くんは、

「えっ!」

と、さけんで、うしろへ、たおれそうになりました。

それほど、びっくりしたのです。

それから、しばらく、ふたりは、ヒソヒソ話はなしをつづけていましたが、いつまでもはなしていて、だれかにみつかっては、たいへんですから、ひとまず、わかれることにしました。

「もうすこし、ここに、がまんしていてください。ぼくひとりの力ちからでは、どうにもなりません。しかし、きっと、うまくいきます。ぼくたちには、明智あけち先生せんせいや小林こばやし団長だんちょうがついているのです。けっして、まけることはありません。」

井上いのうえ君くんは、そういって、紳士しんしをはげましておいて、秘密ひみつの部屋へやを出でました。そして、レンガのかくし戸とを、もとのとおりにしめ、さっきの針金はりがねで錠じょうをおろして、一いち階かいのじぶんの部屋へやにかえりました。

井上いのうえ君くんは、すっかりめんくらっていました。地下ちか室しつにとじこめられていた紳士しんしが、じつに意外いがいな人ひとだったからです。また、消けされたと信しんじていた、じぶんのからだが、消きえていないこともわかりました。

妖星ようせい人にんRのカニ怪人かいじんがいっそう、えたいのしれない、へんてこなものに、かんじられるのです。

この家いえの中なかは、自由じゆうに、あるきまわれますが、外そとへ出でることだけはできません。井上いのうえ君くんは、いくども、にげだそうとして、しっぱいしているのです。

出入でいり口くちには、表ひょうも、うらも、ちゃんとカニ怪人かいじんが、番ばんをしていますし、窓まどから、とびだそうとしても、みんな、鉄てつごうしがはまっていて、どうすることもできません。

井上いのうえ君くんは、上着うわぎをぬいで、ベッドに、よこたわりました。もう夜よるもふけていたからです。考かんがえれば考かんがえるほど、ふしぎなことばかりで、なかなか、ねむれません。

でも、昼間ひるまのつかれで、すこしウトウトしたかとおもうと、にわかに、家いえの外そとが、さわがしくなりました。

なんだろうと、ベッドをおりて、窓まどからのぞいてみました。そこからは、この家いえの門もんが見みえるのです。

門もんの外そとに、自動じどう車しゃが、とまっているようです。それも一いち台だいではなくて、二に―三さん台だいとまっているらしいのです。

腕うで時計とけいを見みると、もう十じゅう二に時じでした。

自動じどう車しゃから、おおぜいの人ひとがおりて、門もんをはいっていきます。あたりは、まっくらですが、門灯もんとうの光ひかりで、かすかに見みえるのです。

「あっ、カニ怪人かいじんだっ。」

そうです。はいってくるやつは、みんな、あの気味きみのわるい、カニの姿すがたをしていました。しかも、てんでに、なにか、へんてこな荷物にもつを、かついでいるのです。

四角しかくい大おおきな額がくのようなもの、でこぼこした彫刻ちょうこくのようなもの、小ちいさい箱はこのようなもの、それらが、みんな白しろいきれでくるんであるのです。

六ろく―七なな人にんのカニ怪人かいじんが、いろんな形かたちの、白しろい荷物にもつをかついで、行列ぎょうれつをつくって、家いえの中なかへはいってきます。まるで、おそろしい夢ゆめでも見みているような、ぶきみな光景こうけいでした。

怪人かいじんたちは、なんども、自動じどう車しゃへひっかえして、新あたらしい荷物にもつを、はこびました。ひっこしのような、さわぎです。それらの、白しろいきれでくるんだ荷物にもつは、いったい、なんだったのでしょう。

井上いのうえ君くんは、それをたしかめてやろうとおもいました。

そっと部屋へやを出でて、玄関げんかんへ、いってみますと、そこに、白しろい荷物にもつが、山やまのように、つんでありました。まだ、白しろいきれをとかないままです。

「あっ、いけないっ。」

井上いのうえ君くんは、廊下ろうかの壁かべぎわに立たって、のぞいていたのですが、ひとりのカニ怪人かいじんが、こちらへやってくるのです。

井上いのうえ君くんは、大おおいそぎで、廊下ろうかを、にげだしました。

ところが、二十にじゅう歩ほもいかないうちに、むこうのまがりかどから、ヒョイとあらわれたものがあります。

べつのカニ怪人かいじんです。

井上いのうえ君くんは、前まえとうしろから、はさみうちになっていました。さあ、こまった。どちらへにげても、つかまるばかりです。

ヒョイと、横よこを見みると、廊下ろうかにならんでいるドアのひとつが、二に―三さんセンチひらいていました。

なにを考かんがえるひまもありません。井上いのうえ君くんは、そのドアの中なかへ、とびこんで、ドアをしめて、息いきをころしていました。

ひとつの足音あしおとは、ドアの前まえを、とおりすぎました。しかし、もうひとつの足音あしおとは……、ピッタリと、ドアの前まえに、とまったではありませんか。そして、ドアのとってが、ぐるっとまわるのが見みえました。カニ怪人かいじんが、この部屋へやへ、はいってくるのです。

井上いのうえ君くんは、キョロキョロと、部屋へやの中なかを見みまわしました。一方いっぽうの壁かべに、大おおきなおしいれがついています。その中なかへ、かくれるほかはありません。

おしいれの、板いたのドアをひらいて、中なかへとびこみました。まっくらです。上うえから、なにかがぶらさがっていて、それが、顔かおに、ぶっつかってきました。ジャラジャラと、音おとがしました。

うすい金属きんぞくが、何なん枚まいも、かさなったような、へんなものです。

しかし、そんなことを、考かんがえているひまはありません。怪人かいじんにみつかりはしないかと、そのおそろしさで、いっぱいなのです。

あっ、たいへんです。怪人かいじんはおしいれのドアをひらきました。

井上いのうえ君くんをみつけたのでしょうか。そして、つかまえようとしているのでしょうか。

井上いのうえ君くんは、おしいれのおくに身みをかくして、息いきをころして、ドアのほうを見みつめていました。

すると、ドアの前まえに立たったカニ怪人かいじんが、ギョッとするようなことを、はじめたのです。

はさみになった両手りょうてで、自分じぶんの大おおきな頭あたまを、グーッと、もちあげているではありませんか。

やがて、おどろいたことには、巨大きょだいなカニのこうらのような、あの頭あたまの部分ぶぶんが、スッポリと、とれてしまいました。

それから、顔かお、手て、足あし、胴体どうたいと、みんな、べつべつにとれるようになっていることが、わかりました。それらは、うすい金属きんぞくで、できていて、ちょうちんのように、おりたためるのです。カニのこうらのような頭あたまの部分ぶぶんも、四よんつか五いつつにおりたためるし、顔かおや手てや足あしや胴体どうたいは、ちょうちんとおなじしかけで、小ちいさくかさなりあってしまいます。顔かおのおそろしい目めは、青あおいガラスの中なかにしかけた、電池でんちでひかる豆まめ電球でんきゅうなのです。

こうして、衣装いしょうをぬいだ下したからは、いったい、なにがあらわれたのでしょうか。そこには、妖星ようせい人にんRの、想像そうぞうもできない奇怪きっかいないきものが、うごめいていたのでしょうか。

いや、そうではありません。衣装いしょうの下したから出でてきたのは、意外いがいにも、シャツとズボン下かを身みにつけた地球ちきゅうの人類じんるいでした。しかも、日本にっぽん人にんとそっくりの顔かおをしているのです。

ああ、なんということでしょう。妖星ようせい人にんのカニ怪人かいじんは、奇妙きみょうな衣装いしょうをつけた、日本にっぽん人にんだったのです。

そこに井上いのうえ少年しょうねんがかくれているともしらず、その男おとこは、いまぬいだカニ怪人かいじんの衣装いしょうを、おしいれの中なかのくぎに、ひっかけて、またドアをしめてしまいました。

このおしいれは、カニ怪人かいじんの衣装いしょう、つまり、カニのぬけがらを、かけておく場所ばしょだったのです。さっき、井上いのうえ君くんがおしいれに、とびこんだとき、ジャラジャラと音おとをたてて、顔かおにぶっつかったのは、前まえから、そこにさがっていた、おなじようなカニの衣装いしょうだったのでしょう。それが三みつも四よんつも、さがっていたのです。

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