← Library‹ 東京青年 名前は仮にスーザン 2

日比谷ひびやで都電とでんを降おりたヨシオは店みせまで歩あるいた。歩道ほどうに面めんして並ならんでいる店みせのなかに、すっきりした造つくりで人ひとの目めを引ひく装身そうしん具ぐの店みせがあった。ヨシオはそこに入はいった。店みせのなかは空調くうちょうが効きいて心地良ここちよかった。制服せいふくのように見みえてそうではない服ふくを着きた、日本にっぽんの女性じょせい店員てんいんが彼かれを迎むかえた。彼かれのことを覚おぼえていた彼女かのじょは、ごく軽かるく会釈えしゃくし奥おくへ入はいっていった。そして彼女かのじょとともに、ジョイスリン・カネシゲという中年ちゅうねんの女性じょせいが、奥おくから出でて来きた。ハワイで生うまれ育そだった日系にっけいの二に世せいだ。日本にっぽんの名なは金重かねしげ菊江きくえという。現在げんざいはこの店みせを経営けいえいして、東京とうきょうに住すんでいた。

鮮あざやかなドレスを姿勢しせい良よく着きこなし、目尻めじりの吊つり上あがった眼鏡めがねをかけたジョイスリンは、

「おや、まあ、久ひさしぶり」

と日本にっぽん語ごで言いい、

「ハウ・ユー・ドゥーイン、ヨシオ。ユ・ルック・グッド」

と、ハワイふうの英語えいごで続つづけた。

「僕ぼくは元気げんきです」

「グッド。こないだ、ヨ・マザーが来きてくれた。新あたらしいドレスを着きてね。よく似合にあってた。きれいな人ひとは得えね。おなじおかね出だして服ふくを買かっても、二に倍ばいにも三さん倍ばいにも引ひき立たつから」

そう言いいながらヨシオのかたわらまで歩あるいて来きたジョイスリンは、英語えいごで次つぎのように続つづけた。

「エヴリタイム・アイ・シー・ヨ・マザー、シー・ルックス・ヤンガ。ホワッツ・ザ・シークレット。テル・ミー、ヨシオ、ジャスト・ビトゥイーン・ユーアンミ。ホワッツ・ザ・シークレット」

「イッツ・ヨ・アイボールズ・ザット・ゲット・ヤンガ。スルー・ヨ・アイボールズ・シー・ルックス・ヤンガ・ザッツ・ザ・シークレット。シンプル」

「バッチュ・ルック・モアンモ・グロウンナップ」

「ヨ・アイボールズ・リフューズ・トゥ・フィール・ヤング・ホェン・ユー・シー・ミ」

ヨシオの返答へんとうに対たいして、ジョイスリンは困こまったような顔かおをした。その表情ひょうじょうを意図いと的てきに長ながびかせつつ、相手あいてをひとまず許容きょようするかのように、彼女かのじょは何なん度どかうなずいた。

「ソー。ユ・ア・ザ・ファニー・ワンね。ちょうどいい。お父ちちさんはシリアスでインテンス。お母ははさんは美人びじん。ヨシオはおかしなことを言いう人ひと」

ガラス・ケースのなかにめりはりを効きかせて陳列ちんれつしてある装身そうしん具ぐを、ヨシオは見みていった。イアリングがたくさんあるところまで歩あるいていき、彼かれはそこで立たちどまった。

「ユ・ジャスト・ドロップド・バイ、ヨシオ? エニイ・ウエイ・アイ・キャン・ヘルプ・ユー?」

半分はんぶんは親したしい人ひととしての優やさしい口調くちょう、そして残のこりの半分はんぶんは客きゃくに対たいする口調くちょうで、ジョイスリンは言いった。少すこし離はなれたところに女性じょせいの店員てんいんが立たち、ふたりを真面目まじめに見守みまもっていた。

やがてヨシオは、ケースのなかの一いち点てんを指ゆびさした。歩あゆみ寄よったジョイスリンはそれを見みた。そしてうなずき、

「ア・ペア・オヴ・イアリングス」

と、初級しょきゅう英語えいご講座こうざのように言いった。

「きれいですね」

「イエス。ヴェリ・ナイス。ザッツ・ホワイ・アイ・キャリー・ゼム」

「きれいです」

「赤あかが素晴すばらしい。若わかい美人びじんに似合にあう」

「買かいます」

と、ヨシオは言いった。

「フー・アー・ゼイ・フォ?」

反射はんしゃ的てきに、ジョイスリンはそう聞きき返かえした。ヨシオは黙だまっていた。

「オ・アム・アイ・ビーイング・トゥー・インクイジティヴ? お母ははさんのためにではないわね。お母ははさんはゴールドとグリーンが好すきだから」

「僕ぼくはこれを買かいます」

「ハウ・オールド・ア・ユー・ナウ、ヨシオ」

「セヴンティーン」

というヨシオの答こたえに、ジョイスリンはうなずいた。そして、

「連つれて来きなさい」

と言いった。

「連つれて来くれば、ほんとに似合にあうかどうか、よくわかるから」

「美人びじんです」

「ジ・イアリングス・クッド・ルック・アウト・オヴ・プレイス・オン・ア・ガール・オヴ・セヴンティーン。ゼイ・メイ・テンド・トゥ・スタンド・アウト」

「二十にじゅう三さん歳さいの人ひとです」

「ずっと昔むかし、一いち度どだけ、私わたくしも二十にじゅう三さん歳さいだったのよ。でもあと三さん年ねんで時代じだいは一いち九きゅう六ろく〇れい年ねんで、私わたくしは五十ごじゅう歳さいよ。ブリング・ザ・ガール・ヒア。アイム・ノット・セイイング・ジス・トゥワイス、バット、一いち度ど言いえば確たしかよ、連つれて来くれば値札ねふだの半分はんぶんにしてあげる。クッド・カム・ダウン・トゥ・イーヴン・ア・サード。ほんとにこれを買かうの?」

「買かいます」

「連つれて来きて」

「連つれて来くるためにも、今日きょうは買かっていきます」

ジョイスリンはうなずいた。

「自分じぶんの店みせで売うったものが、よく似合にあっているところを見みたいから」

「連つれて来きます」

「プロミス?」

「シュア」

「ダズ・ヨ・マザー・ノウ・アバウト・ジス・ガール?」

彼女かのじょの質問しつもんにヨシオは首くびを振ふった。

「かならず連つれて来きます」

そう言いいながら、ヨシオはケースのなかのイアリングをふたたび示しめした。

「ですから今日きょうはこれを買かいます」

うなずいたジョイスリンはケースを開ひらいた。成なり行ゆきを見守みまもっていた女性じょせいの店員てんいんが、素早すばやくジョイスリンのかたわらへ来きた。

「箱はこに入いれて、ギフト・ラップしてあげて」

ジョイスリンはイアリングを店員てんいんに渡わたした。ふたり連づれの客きゃくが店みせに入はいって来きた。ジョイスリンとは親したしい仲なかのようで、ジョイスリンはその客きゃくの応対おうたいにまわった。

居心地いごこちの良よい店みせの奥おくへいき、ヨシオは店員てんいんがイアリングの箱はこを包つつんでくれるのを待まった。やがて包つつみは出来上できあがり、店員てんいんはそれをさらに紙袋かみぶくろに入いれてくれた。彼かれは支払しはらいをすませた。正面しょうめんのドアに向むけて歩あるいていくヨシオを店員てんいんが送おくった。ジョイスリンもドアのところまで来きた。

「ご両親りょうしんによろしく」

と、彼女かのじょは日本にっぽん語ごでヨシオに言いった。

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