← Library‹ 大金塊 二つのなぞ

小林こばやし君くんは逃にげ腰ごしになって、胸むねをドキドキさせながら、カーテンのすきまをできるだけほそくして、なおものぞいていますと、女おんなの人ひとは、ベッドの上うえに起おきなおり、ヒョウのようにきらきら光ひかる目めで、部屋へやの中なかを見みまわしていましたが、

「おや、今いまのは夢ゆめだったのかしら、なんだかみょうな音おとがしたように思おもったけれど……。」

と、ひとりごとをつぶやきました。

小林こばやし君くんは石いしのようにからだをかたくして、息いきの音おともたてないようにしていましたので、カーテンのうしろに人ひとがかくれているとは気きづかないようです。

でも、なんとなく心配しんぱいになるとみえて、女おんなはベッドをおりて、むこうの入いり口ぐちのところへ行いき、ドアのとってに手てをかけて、動うごかしてみましたが、そこには、うらがわからかぎがかかっているらしく、開ひらくようすもありません。

女おんなはそれをたしかめて、安心あんしんしたようにうなずいていましたが、こんどは急いそいで、部屋へやの一方いっぽうの壁かべぎわにあるりっぱな鏡台きょうだいの前まえに近ちかづいて、その上うえにならんでいるいろいろな化粧けしょう品ひんの中なかから、大型おおがたのクリームのつぼを手てに取とって、そのふたを開ひらきました。

小林こばやし君くんは、この真ま夜中よなかにお化粧けしょうをはじめるのかしらと、びっくりして見みていますと、女おんなはべつにお化粧けしょうをするのでもなく、クリームのつぼに、もとのとおりふたをして、鏡台きょうだいの上うえにおきました。そしてこんどは、小林こばやし君くんのかくれているカーテンのほうにむきなおって、そろそろと近ちかづいてくるのです。

まさか秘密ひみつの通路つうろから人ひとがくるはずはないけれど、ねんのためにしらべておこうというような顔かおつきです。

小林こばやし君くんは、ハッとして身みがまえました。もうぐずぐずしてはいられません。ここで見みつかったら、せっかくの苦心くしんが何なんもかもだめになってしまうのです。

そこで、音おとをたてないように、すばやく、もとの小こ部屋へやにはいり、さかいの戸とをそっとしめて、れいのマンホールのような板いたを持もちあげると、鉄てつばしごをつたって穴あなの中なかへ逃にげこんでしまいました。

そして、しばらく聞きき耳みみをたてていましたが、女おんなはカーテンを開ひらいてみただけで安心あんしんしたのでしょう、小こ部屋へやの中なかへはいってくるようすはありません。

うまいぐあいに、相手あいてにさとられないで、逃にげだすことができたのです。

「これだけ見みとどけておけば、今夜こんやはもうじゅうぶんだ。ぐずぐずしていて、部屋へやのやつらが起おきてきてはたいへんだから、早はやく牢ろうへ帰かえることにしよう。」

小林こばやし君くんはそう思おもって、急いそいで鉄てつばしごをおり、地下ちか室しつの首領しゅりょうの部屋へやにもどりました。そのとちゅうの秘密ひみつ戸とは、みな、もとのとおりにしめておいたのです。

それから、懐中かいちゅう電灯でんとうを、部下ぶかの寝ねている部屋へやに返かえしておいて、急いそいで牢ろうに帰かえり、鉄てつごうしの戸とにももとのようにかぎをかけて、そのまま、わらのベッドに横よこになりました。

「ふふん、うまくいったぞ。ぼくが、あれだけ歩あるきまわっているのに、だれも気きがつかないなんて、賊ぞくのやつらものんきなもんだなあ。でも、首領しゅりょうが女おんなだなんて、ほんとうに思おもいもよらなかった。あんなきれいなおばさんが大だいどろぼうとは、おどろいたなあ。」

小林こばやし君くんはあおむけに寝ねころんだまま、しばらくは、いま見みてきた女じょ首領しゅりょうのことばかり思おもいだしていましたが、そのうちに考かんがえが、だんだんかんじんな点てんにむいていきました。

「だが、暗号あんごう文ぶんのかくし場所ばしょが見みつからなかったのはざんねんだなあ。きっとあの女じょ首領しゅりょうの寝室しんしつの中なかにかくしてあるにちがいないんだが……。」

小林こばやし君くんはくらい天井てんじょうを見みつめて、しばらくのあいだ、じっとしていました。すると、とつぜん、頭あたまの中なかにピカッといなずまでもさしたように、すばらしい考かんがえがひらめいたのです。

「ああ、そうだ。そうにちがいない。わかったぞ。暗号あんごう文ぶんのかくし場所ばしょがわかったぞ、ああ、なんてきばつなかくし場所ばしょなんだろう。ぼくはあのとき、それに気きがつかないなんて、よっぽどどうかしていたんだ。」

小林こばやし君くんはうれしまぎれに、思おもわずわらのベッドの上うえにすわってしまいました。そして、胸むねをわくわくさせながら、その暗号あんごう文ぶんを取とりかえすことを考かんがえました。

「首領しゅりょうのるすのときを考かんがえて、もう一いち度どあの部屋へやにしのびこめばいいんだ。そして、暗号あんごう文ぶんを手てに入いれて、この地下ちか室しつを逃にげだせばいいんだ。暗号あんごう文ぶんを持もってぶじに明智あけち先生せんせいのところへもどったら、先生せんせい、どんなにほめてくださるだろうなあ。きっとにこにこして、さすがに小林こばやし君くんだって、おっしゃるにちがいない。」

それを思おもうと、もう、うれしくてしかたがないのでした。

「だが、待まてよ。暗号あんごう文ぶんは手てに入いれても、この地下ちか室しつを逃にげだせなかったら、なんにもならないぞ。夜中よなかに、みんなの寝ねているすきに逃にげるにしても、きっと、ひとりぐらいは寝ねずの番ばんがいるにちがいない。だれかが地下ちか室しつの入いり口ぐちにがんばって、外そとからしのびこむものや、中なかから逃にげだすものを、見みはっているにちがいない。

それに、きょうはみんなぐっすり寝ねていて、うまくいったけれど、どんなことで、ほかの部下ぶかのやつらが目めをさまさないとはかぎらないし、ここをぬけだすのは、なかなかめんどうだぞ。」

小林こばやし君くんはすわったまま、腕うでぐみをして、また考かんがえこみました。そして、しばらくじっとしていましたが、やがて、何なんか名案めいあんがうかんだものとみえて、思おもわずひとりごとをいいました。

「うまいっ。すばらしい思おもいつきがあるぞ。少すこしぼくのほうが背せがひくいかもしれないが、なあに、だいじょうぶだ。きっとうまくいく。部下ぶかのやつらの見みている前まえで、大手おおてをふって逃にげだせるんだ。それがうまくいったら、あいつら、あとでどんなにおどろくだろう。ああ、おもしろくなってきたぞ。」

小林こばやし君くんはそんなことをつぶやいて、ひとりにやにや笑わらっていましたが、やがて、また、ごろっと横よこになったかと思おもうと、いつのまにかすやすやと寝ねいってしまいました。暗号あんごうのありかもわかったし、逃にげだすてだてもきまったものですから、すっかり安心あんしんしたのです。

さて、読者どくしゃ諸君しょくん、小林こばやし君くんは、どうして暗号あんごうのかくし場所ばしょを気きづくことができたのでしょう。いったい、それはどこにかくしてあるのでしょう。また、見みはり番ばんのいる前まえを、やすやすと逃にげだすてだてとは、どんなことでしょう。

諸君しょくんも小林こばやし君くんの見みただけのものは、ちゃんと見みているのですから、よく考かんがえればおわかりになるはずです。さきを読よみつづけるまえに、ひとつそれをあててごらんになりませんか。

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