← Library‹ 大金塊 大捕り物

まんまと賊ぞくをあざむき、首領しゅりょうをびっくりさせるような手紙てがみまでのこして、地下ちか室しつをぬけだした小林こばやし少年しょうねんは、何なんよりもまず、その地下ちか室しつの上うえには、どんな建物たてものが建たっているのか、また、そこはなんという町まちなのかということを、たしかめなければなりませんでした。

なぜといって、小林こばやし君くんが賊ぞくのために、この地下ちか室しつへつれられてきたときには、長ちょうイスの中なかにとじこめられていて、まったく外そとを見みることができなかったからです。

地下ちか室しつの階段かいだんをかけあがって、あたりを見みまわしますと、そこはコンクリートのヘイにかこまれた庭にわの中なかで、地下ちかの真上まうえにあたるところには、古ふるい木造もくぞうの洋館ようかんが建たっていました。

コンクリートのヘイにそって走はしっていきますと、まもなく門もんのところに出でました。正面しょうめんの門もんのとびらはぴったりしまっていましたが、そのわきのくぐり戸どがあいていたので、小林こばやし君くんは、なんなく門もんの外そとに出でることができました。

外そとに出でて、門灯もんとうの光ひかりで、門もんの柱はしらを見みあげますと、そこに出でている表札ひょうさつには「目黒めぐろ区く上目黒かみめぐろ六ろく丁目ちょうめ一いち一いち〇れい〇れい、今井いまいきよ」という女おんなの名なまえが書かいてありました。

今井いまいきよというのは、あの美うつくしい女じょ首領しゅりょうの偽名ぎめいにちがいありません。こんなやさしそうな名なまえで世間せけんの目めをごまかして、地下ちか室しつでは、覆面ふくめんをして男おとこになりすまし、おおぜいの手下てしたを自由じゆうに追おい使つかっているのです。

じつにうまく考かんがえたものです。あの美うつくしい女おんなの人ひとが大だいどろぼうだなんて、だれだって夢ゆめにも思おもわないでしょうからね。

でも、小林こばやし君くんは、そんなことを、考かんがえているひまもありません。ぐずぐずしていれば、賊ぞくの手下てしたが追おっかけてくるのですから、ただ表札ひょうさつの町名ちょうめい番地ばんちと名なまえとを、すばやく暗記あんきして、そのままかけだしました。

少すこし行いきますと、道みちのわきに、まっくらな原はらっぱみたいなところがありましたので、小林こばやし君くんはそこへかけこんで、くらやみの中なかで、変装へんそうの覆面ふくめんを取とり、ルパシカをぬいで、もとの服ふくの少年しょうねん姿すがたになりました。

そして、覆面ふくめんとルパシカとは小ちいさくまるめて、こわきにかかえ、にぎやかな表通おもてどおりのほうへ急いそぎました。

「なんにしても、早はやくこのことを、明智あけち先生せんせいにお知しらせしなければならない。先生せんせいきっと心配しんぱいしていらっしゃるだろうからなあ。ああ、ちょうどいい。あすこに公衆こうしゅう電話でんわがあるから、帰かえるまえに電話でんわでお知しらせしておこう。」

小林こばやし君くんはとっさに思おもいついて、その町まちかどにあった公衆こうしゅう電話でんわへとびこみました。

「ああ、小林こばやし君くんか。どこからかけているんだ。え、うまく逃にげだしたって? 暗号あんごうも手てに入いれた? それはえらい。さすがにきみだ。きみなら、きっとうまくやるだろうと思おもったが、しかし心配しんぱいしていたよ。よかった。よかった。」

電話でんわのむこうから、明智あけち先生せんせいの声こえがあわただしく聞きこえてきました。

小林こばやし君くんは賊ぞくの首領しゅりょうが女おんなであること、今井いまいきよという名なまえで上目黒かみめぐろの洋館ようかんに住すんでいることなどを、てみじかに知しらせたあとで、女じょ首領しゅりょうにあてて、手紙てがみをのこしてきたことをいいますと、明智あけち探偵たんていは心配しんぱいそうな声こえで、

「きみ、その手紙てがみに自分じぶんの名なを書かきやしなかったかい。」

とたずねました。

「ええ、書かきました。明智あけち探偵たんていの助手じょしゅの小林こばやしって書かきました。あいつらが、ぼくを不二夫ふじお君くんと思おもいこんでいるので、びっくりさせてやろうと思おもったのです。」

「しまった。そいつはまずかったね。きみにも似にあわない、つまらないまねをしたじゃないか。」

「どうしてですか。」

小林こばやし君くんは不服ふふくらしく聞ききかえしました。

「どうしてって、わかりきっているじゃないか。きみがぼくの助手じょしゅとわかれば、賊ぞくは用心ようじんをするにきまっている。逃にげだしてしまうかもしれない。せっかくかくれ家ががわかったのに、逃にがしてしまっちゃ、なんにもならないじゃないか。」

小林こばやし君くんはそれを聞きいて、ハッとしました。

いかにも大だい失策しっさくでした。暗号あんごうを取とりもどしたことだって、賊ぞくに知しらせる必要ひつようは少すこしもなかったのです。ただこっそり逃にげだしさえすればよかったのです。なんだか賊ぞくにいばってやりたいような気きがして、手紙てがみなんか書かいたのは、たいへんな失敗しっぱいでした。

「先生せんせい、ぼく、うっかりしていました。どうしたらいいでしょう。」

小林こばやし君くんは、先生せんせいに申もうしわけない気持きもちがいっぱいで、もう泣なきだしそうな声こえになっていました。

「その女おんな首領しゅりょうは、きみが逃にげだすときには、まだ帰かえっていなかったんだね。」

「ええ、そうです。」

「じゃ、まだ、まにあうかもしれない。ぼくはこれからすぐ、警視けいし庁ちょうへ電話でんわをかけて、中村なかむら君くんに犯人はんにん逮捕たいほの手てはずをしてもらっておくから、きみは急いそいで帰かえってくれたまえ。」

中村なかむら君くんというのは、警視けいし庁ちょうの捜査そうさ係かかり長ちょうで、明智あけち探偵たんていとは、ごくしたしいあいだがらなのです。

小林こばやし君くんは先生せんせいにしかられて、がっかりしてしまいましたが、でも、自分じぶんの不ふ注意ちゅういですから、しかたがありません。二に度どとこんな失敗しっぱいはくりかえさないようにしようと、かたく心こころにちかって、公衆こうしゅう電話でんわを出でました。

もう十じゅう一いち時じ半はんでしたが、大通おおどおりにはまだ人通ひとどおりがあり、タクシーも通かよっていましたので、それを呼よびとめて、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへ急いそぎました。

「先生せんせい、とんだ失策しっさくをしてしまって申もうしわけありません。」

小林こばやし君くんは明智あけち先生せんせいの書斎しょさいにはいると、まっさきにおわびをしました。

「なあに、そんなにあやまることはないよ。たとえ賊ぞくに逃にげられたとしても、きみは暗号あんごうを手てに入いれたという大おおてがらをたてているんだからね。さっきは、ぼくのいい方ほうが、少すこし強つよすぎたようだね。気きにしないでもいいんだよ。」

やっぱりいつものやさしい先生せんせいでした。小林こばやし君くんは先生せんせいのにこにこ顔かおを見みて、ほっとしましたが、そんなにやさしくいわれますと、いよいよ自分じぶんの失策しっさくがはずかしくなるのでした。

「これが暗号あんごうです。化粧けしょう台だいのクリームのつぼの中なかにかくしてあったのです。」

小林こばやし君くんは内うちポケットの手帳てちょうの中なかから、暗号あんごうの紙かみきれを出だして、先生せんせいに手渡てわたし、それを手てに入いれた順序じゅんじょを報告ほうこくしました。

「うん、よくやったね。たった一いち晩ばんで、秘密ひみつの通路つうろを見みつけだし、賊ぞくの正体しょうたいを見みやぶり、クリームつぼのかくし場所ばしょまで気きがつくなんて、きみでなければできないげいとうだよ。ありがとう、ありがとう。」

明智あけち探偵たんていは小林こばやし君くんの肩かたに両手りょうてを乗のせて、さもしたしげにお礼れいをいうのでした。小林こばやし君くんはそれを聞きいて、なんだか目めの奥おくがあつくなるような気きがしました。そして、心こころのなかで、この先生せんせいのためなら、命いのちをすてたってかまわないと思おもうのでした。

「暗号あんごうの研究けんきゅうは、あとでゆっくりとすることにしよう。」

明智あけち探偵たんていは、暗号あんごう文ぶんの紙かみを書斎しょさいの秘密ひみつの金庫きんこの中なかにしまいました。

「きみが、暗号あんごうを取とりもどしたことは、いま宮瀬みやせさんに電話でんわで報告ほうこくしておいたよ。宮瀬みやせさんもたいへん喜よろこんでおられた。それから中村なかむら警部けいぶに電話でんわしたが、夜中よなかだけれども、そういう大だい事件じけんならば、すぐに部下ぶかのものをつれて、賊ぞくの逮捕たいほにむかうからということだった。ちょうど、ここは上目黒かみめぐろへの通とおり道みちだから、中村なかむら君くんたちはここへ立たちよることになっている。」

「じゃ、ぼくがご案内あんないしましょうか。」

「うん、そうしてくれたまえ。むろん、ぼくもいっしょに行いくよ。だが、賊ぞくが逃にげだしたあとでなければいいがなあ。」

そうしているところへ、表ひょうに自動じどう車しゃのとまる音おとがして、中村なかむら捜査そうさ係かかり長ちょうの一行いっこうが到着とうちゃくしました。係長かかりちょうのほかに七しち名めいの刑事けいじが、二に台だいの自動じどう車しゃに乗のってやってきたのです。ものものしい捕とり物もの陣じんです。

明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんとは、前まえのほうの自動じどう車しゃに乗のって、案内あんない役やくをつとめることになり、二に台だいの自動じどう車しゃは、そのまま深夜しんやの町まちを、上目黒かみめぐろめざして、おそろしいスピードで走はしりだしました。

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