← Library‹ 大金塊 烏帽子をかぶる獅子

宮瀬みやせ氏しは、明智あけちがこの暗号あんごうをどんなふうにといてみせるかと、待まちどおしくてたまらないように、じっと探偵たんていの顔かおを見みつめていました。

名めい探偵たんていは、いつものように、にこにこして説明せつめいをはじめます。

「ここには動物どうぶつでは獅子ししとカラスとがあります。それから烏帽子えぼしです。この三みつのものが何なんを意味いみしているかということを、ぼくはいろいろと考かんがえてみました。

暗号あんごうのあとのほうには、さっきもいったように、東ひがしへ三十さんじゅう尺しゃくだとか北きたへ六十ろくじゅう尺しゃくだとか、方角ほうがくが書かいてあるのですから、この獅子ししやカラスは、何なんかその方角ほうがくのもとになる場所ばしょをしめすものにちがいないのです。

ぼくは、たぶんその場所ばしょは、山やまの中なかだろうと思おもいました。山やまの中なかで、獅子ししだとか、カラスだとかいうようなものが何なんかないかと考かんがえてみました。むろん、生いきた獅子ししは日本にっぽんの山やまにはいませんし、カラスにしても、生いきたカラスでは、ほうぼうへ飛とんでいきますから、目めじるしにはなりません。ほんとうの獅子ししやほんとうのカラスではないのです。

いろいろと考かんがえているうちに、ぼくは、ふとこんなことを思おもいつきました。

山やまのなかを流ながれている深ふかい谷川たにがわの両りょうがわなどには、よく大おおきな岩いわが、そびえているものです。そして、そういう大おおきな岩いわには、土地とちの人ひとが、いろいろな名なをつけていますが、この暗号あんごうの烏帽子えぼしや獅子ししは、その大岩おおいわの名なまえではないかと考かんがえたのです。烏帽子えぼし岩がんとか獅子しし岩がんとかいう名なはよく聞きくじゃありませんか。

きっとその山やまの中なかには、烏帽子えぼしのような形かたちをした大岩おおいわや、獅子ししの頭あたまのような形かたちをした大岩おおいわがあるのだろうと思おもいます。

そう考かんがえてきますと、このカラスの頭あたまというのも、やっぱりカラスの頭あたまに似にた形かたちをした岩いわの名なかもしれません。カラス岩いわなんてあまり聞きいたことがありませんが、でも、日本にっぽん中ちゅうをさがせば、どこかにないとはかぎりません。

つまり、どこかの山やまの中なかに、烏帽子えぼし岩がんと獅子しし岩がんとカラス岩いわとが、一ひとつところにかたまっているような場所ばしょをさがせばいいのです。烏帽子えぼし岩がんとか獅子しし岩がんとかが、ただ一ひとつだけある場所ばしょは、ほうぼうにあるでしょうが、烏帽子えぼしと獅子ししとカラスと三みつひとかたまりになっているような山やまが、二ふたつも三みつもあろうとは考かんがえられません。

ですから、この三みつの岩いわのあるところを見みつけさえすれば、あなたのご先祖せんぞが金塊きんかいをかくされた山やまの名ながわかるわけです。」

明智あけちがここまで説明せつめいしますと、宮瀬みやせ氏しは感かんじいったように、しきりにうなずいてみせて、

「なるほど、なるほど、いかにもあなたのおっしゃるとおりかもしれません。おもしろくなってきましたね。で、それから。」

と、さきをうながすのでした。

「そこでぼくは、山岳さんがく会員かいいんの名簿めいぼをくって、有名ゆうめいな登山とざん家か十じゅう人にんほどに、そういう岩いわのある山やまをごぞんじないかと、電話でんわや手紙てがみで問といあわせてみたのです。」

「うん、すると。」

宮瀬みやせ氏しはイスをガタンといわせて、前まえにのりだしました。

「ところが、ふしぎなことに、そういう三みつの岩いわのかたまっているような山やまを、だれも知しらないのですよ。」

「それじゃ、だめだったのですか。」

「いや、山やまの中なかにはありませんでしたが、ひとりの登山とざん家かが、そういう名なの三みつの岩いわのある島しまを知しっているといって、教おしえてくれたのです。その人ひとは山登やまのぼりばかりでなく、ひじょうな旅行りょこう家かで、日本にっぽんのすみからすみまで知しっている人ひとです。」

「島しまですって?」

「そうです。ところで、宮瀬みやせさん、金塊きんかいをかくされた、あなたのおじいさんが東京とうきょうのかたということはわかっていますが、それよりもっとまえのご先祖せんぞはどこのかたですか、もしや三重みえ県けんのかたではありませんか。」

明智あけちがたずねますと、宮瀬みやせ氏しはびっくりしたような顔かおをして、答こたえました。

「ええ、そうですよ。わたしの先祖せんぞは三重みえ県けんの南みなみのほうから出でているのですよ。どうしてそれがわかりました。」

「それじゃ、いよいよあの島しまにちがいない。三重みえ県けんの南みなみのほうの海うみに、岩屋島いわやしま(仮名かな)という小ちいさな島しまがあって、その島しまには烏帽子えぼし岩がん、獅子しし岩がん、カラス岩いわという三みつの大おおきな岩いわがあるのだそうです。

大だい神宮じんぐうさまのある宇治山田うじやまだ市しなどよりも、ずっと南みなみのほうに、長島ながしまという町まちがあるのですが、そこから船ふねで八はちキロばかりの荒海あらうみの中なかに、その岩屋いわや島しまがあるのです。まわり四よんキロあまりの、人ひとも住すんでいない小ちいさな島しまだそうです。

岩いわの多おおい島しまで、遠とおくからながめると、ちょうど鬼おにの面めんを上うえむきにして、海うみにうかべたような形かたちをしているので、その近所きんじょの人ひとは、鬼おにガ島しまと呼よんでいるようです。そして、その島しまには、むかし鬼おにがすんでいたんだといって、こわがって、漁師りょうしなどでも、船ふねを近づけちかずけないようにしているということです。

あなたのおじいさんは、ご先祖せんぞのすんでいた三重みえ県けんに、そういう人ひとの近ちかづかない島しまのあることをごぞんじだったので、東京とうきょうから船ふねで、そこへ金塊きんかいをはこんで、かくされたのではないでしょうか。山やまの中なかだなんて思おもわせておいて、じつは海うみの中なかにかくされたのではないでしょうか。」

「なるほど、先祖せんぞの土地とちへ宝たからものをかくすというのは、ありそうなことですね。」

「あなたはごぞんじなくても、あなたのおとうさんなどは、ときどきは故郷こきょうへ行いかれたこともあるでしょうし、岩屋いわや島しまにそういう三みつの岩いわのあることも知しっておられたかもしれません。ですから、おじいさんは、この暗号あんごうは、ほかの者ものにはわからなくても、あなたのご一家いっかのかたにはよくわかるだろうと、お考かんがえになったのではないでしょうか。」

「ああ、そうです。そうにちがいありません。明智あけちさん、ありがとう。このむずかしい暗号あんごうが、そんなにやすやすと、とけようとは、夢ゆめにも思おもいませんでした。とにかく、わたしは、きゅうにその島しまへいってみたくなりました。もしおさしつかえなければ、明智あけちさん、あなたもいっしょに行いってくださいませんか。」

宮瀬みやせ氏しは何十なんじゅう年ねんというあいだ、だれにもとけなかったなぞが、明智あけち探偵たんていのおかげで、みごとにとけたものですから、もう大おおよろこびです。

「ええ、ぼくもごいっしょに行いきたいと思おもいます。岩屋いわや島しまにかくしてあることは、だいたいわかったとしても、まだ暗号あんごうがすっかりとけているわけではありませんからね。やはり、島しまへ行いってしらべてみなければ、ほんとうのことはわからないのです。」

宮瀬みやせ氏しはそれを聞きいて、やっと気きづいたように、まゆをしかめました。

「おお、そうでした。わたしは、それをおききしたいと思おもっていたのです。獅子ししと烏帽子えぼしとカラスが岩いわの名なだということはわかりましたが、その獅子しし岩がんが烏帽子えぼしをかぶるということは、いったいなんのことでしょう。それに、三みつの岩いわはわかっていても、そのどこから、東ひがしへ三十さんじゅう尺しゃく(九きゅう・一いちメートル)はかるのだが、まるでけんとうがつかないじゃありませんか。」

「そうですよ。そこがぼくにもまだ、よくわからないのです。獅子ししが烏帽子えぼしをかぶった時ときに、カラス岩いわの頭あたまから、東ひがしのほうへ三十さんじゅう尺しゃくはかるというのでしょうが、その獅子ししが烏帽子えぼしをかぶるというわけが、ぼくにもわかりません。どうしても島しまへ行いって、三みつの岩いわを見みなければ、わからないのです。」

さすがの名めい探偵たんていも、烏帽子えぼしをかぶった獅子ししというのが、どんなものだか、まるでけんとうがつきませんでした。

ああ、烏帽子えぼしをかぶった獅子しし、なんだかまんがにでもありそうな形かたちではありませんか。しかし、このとっぴな組くみあわせには、なんとなくきみの悪わるいようなところがあります。

大おおきな獅子ししが、烏帽子えぼしをかぶって、荒海あらうみの中なかの無人むじん島とうにじっとうずくまっていることを考かんがえると、なんだかゾウッとするではありませんか。

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