← Library‹ 超人ニコラ 空飛ぶ超人

お話はなしかわって、やはりそのころの、ある夜よるのことでした。

少年しょうねん探偵たんてい団だんのおもな少年しょうねんたち十じゅう人にんが、芝しば公園こうえんの森もりの中なかにあつまっていました。

その十じゅう人にんのなかには、小林こばやし団長だんちょうと、中学ちゅうがく二に年ねんの白井しらい保ほ君くんもまじっていました。白井しらい君くんは銀座ぎんざの白井しらい美術びじゅつ店てんの子こどもなのです。読者どくしゃ諸君しょくんはこの白井しらい保ほ君くんの名なを、どこかで読よまれたでしょう。ひとつ思おもいだしてみてください。

少年しょうねんたちは小林こばやし団長だんちょうのまわりを、まるくとりかこんでいました。空そらには満月まんげつにちかい月つきがさえて、みんなの顔かおを青白あおじろくてらしています。

「こんやここにあつまったのは、この森もりの中なかにおこる、ふしぎなできごとを見みるためです。きみたちは、映画えいがやテレビで、アメリカのスーパーマンが空そらを飛とぶのを見みたことがあるでしょう。あれとよくにたスーパーマンが、日本にっぽんにもあらわれたのです。

ここにいる白井しらい保ほ君くんが、そのスーパーマンの空そらを飛とぶところを見みたのです。そして、その人ひとと話はなしをしました。その人ひとは、超人ちょうじんニコラ博士はかせと名なのったそうです。」

「あ、超人ちょうじんニコラ……。」

「ニコラ博士はかせ……。」

少年しょうねんたちが、口々くちぐちに、つぶやきました。超人ちょうじんニコラ博士はかせの名なは、いつとはなく、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんたちに知しれわたっていたのです。

「ニコラ博士はかせは白井しらい君くんに約束やくそくしました。こんや八はち時じに、芝しば公園こうえんのこの森もりの中なかに飛とんでくるから、少年しょうねん探偵たんてい団だんの友ともだちをさそって見みにくるがいいといったそうです。

ぼくも、べつのときに、ニコラ博士はかせにあったことがあります。そのとき、博士はかせは長ながい白しろひげを胸むねにたれた老人ろうじんでした。しかし、博士はかせのほんとうの姿すがたはわかりません。自由じゆうに顔かおかたちをかえることができるからです。あるときは人形にんぎょうのような顔かおをしていたといいます。白井しらい君くんがあったときには、どんな顔かおをしていたのですか。」

「まっかな顔かおをしていました。かみの毛けも、まゆ毛げも白しろくて白しろいひげをはやしていました。むかしの絵えにあるテングにそっくりでした。」

「そうだ、日本にっぽんのテングも空そらを飛とぶことができた。だから、博士はかせはテングの姿すがたになって、飛とんでみせるのだよ。」

ニコラ博士はかせが、どういう悪事あくじをはたらいているか、少年しょうねんたちには、まだよくわかりません。ですから、これを警察けいさつに知しらせて、博士はかせをつかまえるということは、考かんがえてもみないのでした。それよりも、スーパーマンが空そらを飛とぶのを、見みたくてたまらなかったのです。

「いま七しち時じ五十ごじゅう分ふんだ。森もりの中なかにはいって、まつことにしよう。月つきの光ひかりであかるいから、空そら飛とぶ博士はかせが、よく見みえるだろう。」

十じゅう人にんの少年しょうねんたちは、ゾロゾロと森もりの中なかにはいっていきました。高たかい木きが立たちならんでいるあいだに、まるい空地あきちがあります。

「約束やくそくの場所ばしょは、ここだよ。」

白井しらい君くんがそういって、みんなの歩あるくのをとめました。

十じゅう人にんは空地くうちの一方いっぽうのすみに、ひとかたまりになって、ボソボソと、ささやきあっています。

「八はち時じ五ご分ふん前まえだよ。」

小林こばやし団長だんちょうが、腕うで時計とけいを月つきの光ひかりにすかして見みながら、いいました。

もうあと四し分ふん、……三さん分ふん、……二に分ふん、……一いち分ふん。八はち時じはまたたくまに、ちかづいてきました。

「あっ、飛とんでくる。ほら……。」

ひとりの少年しょうねんが、空そらを指ゆびさして、さけびました。

ああ、ごらんなさい。むこうの空そらから、一いち直線ちょくせんに飛とんでくるのです。黒くろいマントを、コウモリの羽はねのようにひるがえし、フサフサとした白しろひげを風かぜになびかせながら、両手りょうてをまっすぐ前まえにつきだして、水みずの中なかをおよぐように、こちらへ、ちかづいてくるのです。

「あっ、赤あかい顔かおしてる。でっかい鼻はながついている。テングさまそっくりだ。」

もう、そこまで見みわけられるのです。

空そら飛とぶ超人ちょうじんは、一いち本ほんの高たかいスギの木きのてっぺんにちかづくと、そのこずえの枝えだに、こしかけました。

「あなたは、ニコラ博士はかせですか。」

白井しらい君くんが、大おおきな声こえでたずねました。

「そうだよ。きみたちは少年しょうねん探偵たんてい団だんだね。」

「そうです。ここへおりてきませんか。」

こんどは、小林こばやし団長だんちょうがさけびました。

「きみは、小林こばやし君くんだね。」

「そうです。」

「じゃあ、そこへいくよ。」

ニコラ博士はかせは、サルのように、木きの枝えだをつたいながら、少年しょうねんたちのそばにおりてきました。

ほんとうに、まっかなテングさまの顔かおです。頭あたまには、針金はりがねのような白しろいかみの毛けが、モジャモジャとみだれています。

肩かたから黒くろいマントをヒラヒラさせて、その下したには、ピッタリ身みについた黒くろいシャツとズボンをはいているようです。

少年しょうねんたちは、そのぶきみな姿すがたに、思おもわず、あとじさりをしました。

「わしは、きみたちのような少年しょうねんがすきだ。なにもしないから、こわがることはない。さあ、わしについて、こちらへくるがいい。きみたちに、おもしろいものを見みせてやるよ。」

こわい顔かおをしていますが、いうことはやさしいので、少年しょうねんたちは、だんだんニコラ博士はかせのほうへ、ちかよっていきました。

すると、博士はかせは、

「さあ、わしについてくるのだ。」

といいながら、森もりのおくへと、はいっていきます。

十じゅう人にんの少年しょうねんたちは、あとにつづきました。枝えだがしげりあっているので、月つきの光ひかりもささず、そのへんはもうまっくらです。

ニコラ博士はかせは、フワフワと、宙ちゅうにうくように、歩あるいていきます。やみのなかでも、博士はかせの姿すがただけは、クッキリと見みえるのです。

「あっ。」

びっくりするようなさけび声ごえが、ひびきわたりました。ひとりや、ふたりの声こえではありません。十じゅう人にんの少年しょうねんが、一いち度どにさけんだような、おそろしい声こえでした。

少年しょうねんたちの足あしの下したの地面じめんが、消きえてしまったのです。あっというまに、十じゅう人にんのからだが、下したへおちていきました。

ドシンと、しりもちをついたところは、木この葉はがいっぱいたまっていて、それほどいたくはありませんでした。

しかし、それはふかい穴あなの底そこで、とても、はいあがることはできません。

「ワハハハハ……、ざまあみろ。少年しょうねん探偵たんてい団だんは、なまいきにも、わしの正体しょうたいを探偵たんていしようとした。わしにはそれがちゃんとわかっていたので、ちょっと、おかえしをしたんだよ。ワハハハハ……、いいきみだ。いつまでも、その穴あなの中なかでくるしむがいい。」

ニコラ博士はかせの笑わらい声ごえは、だんだん、上うえのほうへ、とおざかっていきました。さっきのスギの木きにのぼっていったのでしょう。

それからしばらくすると、スギの木きのてっぺんから、大おおきなコウモリのようなものが、月夜つきよの空そらへ飛とびたっていくのが、ながめられました。むろん超人ちょうじんニコラ博士はかせの飛行ひこう姿すがたです。

十じゅう人にんの少年しょうねんがおちこんだのは、ニコラ博士はかせが、まえもってこしらえておいた、おとし穴あなでした。大おおきな穴あなの上うえにかれ枝えだをならべ、その上うえに木この葉はをつみかさねて、穴あなとわからないようにしてあったのです。

少年しょうねんたちは、なかまの背中せなかにのって、やっと穴あなの外そとにはいだし、こんどは、その上うえから手てをのばして、なかまの少年しょうねんたちを、ひっぱりあげるというやりかたで、とうとう、みんなが穴あなの外そとに出でることができました。

それにしても、少年しょうねんたちを、ここにつれだしたのは小林こばやし団長だんちょうと白井しらい保ほ君くんでした。このふたりが、とっくににせものにかわっていることは、読者どくしゃ諸君しょくんがよくごぞんじですね。にせものは、つまり博士はかせの手下てしたですから、少年しょうねんたちをくるしめる手てびきをしたのは、あたりまえです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%