この寝室は、まったくおなじ部屋が、上と下に二重にくっついているのです。
ニコラ博士がはいったのは、下の部屋でした。それがエレベーターのしかけで、下へおりていって、小林君がしのびこんだときには、いつのまにか、上の部屋とかわっていたのです。
ですから、そこに博士の姿が見えなかったのは、なんのふしぎもありません。そのとき博士のいる寝室は、地下室のもう一つ下の地下室、つまり地下二階へおりていって、小林君がしのびこんだのは、それとそっくりおなじにできている、上のほうの部屋だったのです。
ニコラ博士は、寝室全体のエレベーターを、下におろして、地下二階へおりていったのにちがいありません。しかし、そこには、いったい、なにがかくされているのでしょうか。
これほど大じかけな、秘密の出入り口をつくって、だれもはいれないようにしてあるところをみると、この地下二階には、よほどの秘密が、かくされているのにちがいありません。
小林君は、それを考えると、なんだか、からだじゅうの、うぶ毛が、ゾーッとさかだってくるような、いうにいわれないおそろしさをかんじました。
小林君のはいった部屋は、地下一階から、一つ上にあがったのですから、いまいるところは、一階にちがいありません。
小林君は気がつきました。この部屋は、エレベーターじかけで、下におりても、地下一階までしかおりないのですから、いつまでこの部屋にいても、地下二階の秘密をさぐることはできないと、気がついたのです。
ですから、いま、この部屋のドアをひらいて、一階に出て、ふつうの地下室におり、あの壁のボタンをおして、秘密の出入り口から、地下一階におり、ニコラ博士の寝室にしのびこむほかはありません。つまり、この部屋の真下にある、そっくりおなじ、もう一つの部屋にいくのには、そうするほかはないのです。
そのみちで、ニコラ博士の部下にみつかってはたいへんです。小林君は用心のうえにも用心をして、廊下から、廊下へと、しのび歩き、地下室の入口をみつけて、そこにおり、がらくたものがおいてある、つきあたりの部屋の壁のボタンをおして、地下一階におり、ニコラ博士の寝室へ、たどりつきました。
上下に二つつながっている、おなじ部屋の上のほうを出て、大まわりをして、下のほうの部屋まできたわけです。
かぎ穴からのぞいてみますと、だれもいません。ニコラ博士は、地下二階におりて、用事をすませ、地下一階にもどって、部屋を出ていったのでしょう。ドアにはかぎがかかっていました。
小林君は、また、針金をいろいろにまげて、錠前やぶりをしなければなりませんでした。
五分ほどかかって、やっとドアがひらきました。部屋にはいってドアをしめ、ベッドの下や、たんすのうしろなどを、よくしらべましたが、どこにも人間がかくれているようすはありません。
小林君は、もう一度、この部屋を地下二階におろして、そこの秘密をさぐりたいと思いましたが、どうすれば、下におりるのかわかりません。どこかに、スイッチか、おしボタンがあるのでしょうが、それをさがすのがたいへんです。
しかし少年探偵の小林君は、こういうことになれていました。かくしボタンなどは、どういう場所をさがせばいいか、いままでのたくさんの経験で、だいたいわかっているのです。
それでも、かくしボタンをみつけるのに、八分ほどかかりました。入口のドアには、中から針金で、かぎをかけておいて、さがしまわったのですが、ふいに、だれかがやってきやしないかと、気が気ではありません。
でも、うまいぐあいに、かくしボタンがみつかりました。ベッドの下のジュウタンの一ヵ所が、プクッと小さくふくれているのに気づいて、足でふんでみますと、それがかくしボタンでした。やにわに、部屋全体が、ブルブルふるえだしたのです。つまり、エレベーターがおりはじめたのです。
やがて、エレベーターがとまるのをまって、小林君は、針金のかぎで、ドアをひらき、そっと地下二階の廊下へふみだしました。
どこかに電灯はついているのですが、ひじょうにうすぐらくて、あたりのようすが、よくわかりません。
どこからか、つめたい風が、スーッとふいてきました。幽霊の手で顔をなでられたような気持です。小林君は、ブルブルッと、身ぶるいして、そこに立ちすくんでしまいました。
なんともいえないぶきみさです。人間界をはなれて死の国にはいってきたような、ふしぎなおそろしさです。
ここには、いったい、どんな秘密が、かくされているのでしょう。それを考えただけでも、心臓がドキドキしてきます。
そのうちに、目がなれてきて、あたりが見えるようになりました。
コンクリートの壁、コンクリートの床、なんのかざりもない灰色の廊下が、つづいています。おっかなびっくりで、その廊下を、たどっていきますと、やがて、両がわに、たてにながいロッカーが、ズラッとならんでいるところにきました。
ロッカーににているけれども、ふつうのロッカーよりは、幅が広く、人間ひとり、じゅうぶんはいれるほどの大きさで、なんだか、気味のわるいかっこうをしています。まるで、かんおけをたてにして、ならべたようなかんじです。
このふしぎなロッカーは、両がわに、あわせて三十個ほどならんでいましたが、そのとびらには、小さいネーム・プレートがついていて、エナメルで、ローマ字と数字とが、T1、T2、S1、S2、A1、A2などと書いてあるのです。
小林君は、すぐ目の前のT1のとびらをひっぱってみましたが、かぎがかかっているとみえて、ひらきません。かぎがかけてあるからには、中になにかだいじなものがいれてあるのでしょう。
それはなんでしょうか。こんなところに、ふつうのロッカーがあるはずはありません。その中にオーバーなんかがはいっているとは考えられないのです。
では、なにがはいっているのでしょうか?
小林君は、なぜか、ゾーッと、からだがさむくなるような気がしました。針金を使えば、とびらをひらくのは、わけはありません。しかし、とびらをひらくのが、なんだかこわいのです。
でも、とうとう決心をして針金のかぎで、そのT1と書いてある、ロッカーのような箱のふたをひらきました。ひらいたかと思うと、
「あっ!」
とさけんで、まっさおになって、ピシャンとふたをしめてしまいました。
そこには、なんだか、へんなものがいたのです。気味のわるいものが立っていたのです。
それは人間でした。しかも小林君のよく知っている少年でした。
玉村銀一。そうです。少年探偵団員の玉村銀一君とそっくりの少年が立っていたのです。
銀一君が、どうして、こんな箱の中にとじこめられているのでしょう。こうして立たされていては、足がつかれてしまうでしょうし、ピッタリふたがしめてあるので、息もできないでしょう。じつにおそろしいごうもんです。
しかし、どうもへんです。小林君と顔を見あわせたとき、銀一君は、なにもいわないで、じっと立っていました。「小林さん」とさけんで、とびだしてくるはずではありませんか。それとも、銀一君は、立ったまま、気をうしなっているのでしょうか。