きのうは八幡さまのお祭りでした。
こんもりした林にかこまれた、その八幡さまは、玉村君のうちからも、松井君のうちからも、そんなに遠くないところにありました。
ゆうべ、松井君は、ただひとりで、その八幡さまの中をブラブラしていたのです。
五千平方メートルほどの、八幡さまの境内には、テントばりの見世物が二つと、オモチャ屋の店や、たべものの店が、いっぱいならんで、そのあいだを、おおぜいの人が、ゾロゾロ歩いていました。テントばりの見世物の一つは、おそろしく古めかしい「クマむすめ」という、かたわものを十円で見せているのです。
「クマむすめ」というのは、二十歳ぐらいのむすめの、肩のへんいちめんに、まっ黒な、クマのような毛がはえているのです。まるで、人間とクマのあいの子みたいなので、「クマむすめ」とよんでいるのです。
いまどきめずらしい見世物なので、おおぜいの見物人が、十円はらって、中へはいっていきます。
入口はテントの右のほう、出口は左のほうですが、松井君が見ていますと、その出口からゾロゾロと出てくる見物人の中に、玉村銀一君がまじっていたではありませんか。
「おやっ、玉村君は、こんなつまらない見世物を見たんだな。」
とおかしくなって、声をかけて、ひやかしてやろうと、そのほうへ、ちかづいていきました。そして、こちらへやってくる玉村君と、バッタリ、であったのです。ふたりは二メートルほどの近さで、顔を見あわせたのです。
ところが、ふしぎなことに、玉村少年は、松井君を見ても、ニッコリともせず、知らん顔をして、すれちがって、いってしまうではありませんか。
「ははん。あいつ、はずかしがっているんだな。わざと、知らん顔をして、にげだしたんだな。よしっ、そんならこっちは、どこまでも尾行してやるぞ。」
少年探偵団で練習していますから、尾行はお手のものです。松井君は、玉村君にさとられぬように、あとをつけはじめました。
玉村君は、いつまでも八幡さまから出ないで、人ごみの中を、あちこちしています。わざと人だかりの中へ、もぐりこんでいくのです。そこを出ると、また、つぎの人だかりへもぐりこみます。玉村君は、よっぽど人ごみがすきらしいのです。
一時間ほども、そんなことをくりかえしていましたが、やっと人ごみにもあきたのか、玉村君は八幡さまを出て、外のくらい道をかえっていきます。
松井君は、あくまで尾行をつづけました。
玉村君は、八幡さまの外がわの長い石がきの半分ぐらいのところまでくると、そこで立ちどまって、キョロキョロと、あたりを見まわしました。だれか見ていやしないかと、気をくばっているらしいのです。
松井君は、すばやく電柱のかげに、身をかくしました。ほかに人通りもありませんので、玉村君は安心したように、石がきのそばによって、そこにしゃがんでしまいました。
そして、石がきの一つの石に手をかけると、グーッとひっぱりだしました。その石だけが、ぬけるようになっていたのです。
玉村君は石をぬきとったあとの穴に、手をいれて、なにかやっていましたが、また石をもとのとおりにはめこむと、そのまま、立ちあがって、むこうへ歩いていきます。
松井君は、あの石のおくに、なにかかくしたにちがいないとおもいました。そこで、玉村君の尾行をあきらめて石のおくをしらべてみることにしました。
松井君は、あたりを見まわして、人通りがないのをたしかめると、石がきのそばによって、さっきの石に両手をかけ、グッとひっぱりました。石はなんの苦もなく、ズルズルとぬけてきます。
石をぬきとると、そのあとの穴に、手をいれて、さぐってみました。
ある、ある。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、それはみんな紙入れや、がまぐちでした。あけてみると、どれも中はからっぽです。
松井君は、あきれかえってしまいました。玉村少年は、人ごみの中で、これらの紙入れや、がまぐちを、スリとったのです。そして、中のお金をとりだして、からの紙入れなんかを、この石がきにかくしたのです。
ふつうなら、紙入れなんかは、どこかへすててしまうのですが、用心ぶかく、からの紙入れまでかくすというのは、よっぽどなれたやつです。スリの名人といってもいいでしょう。
ああ、親友の玉村銀一君が、スリの名人だったなんて。あまりのことに、松井君は、あいた口がふさがりません。
あのお金持ちの玉村君が、わずかのお金のために、スリをはたらくなんてまったく考えられないことです。これにはなにか、わけがあるにちがいない。おもいきって、玉村君にきいてみよう。
松井君は、そう決心をしたので、校庭のすみで、さっきのように、玉村君を、といつめたのでした。