← Library‹ 超人ニコラ 窓の顔

玉村たまむら君くんは、すこしもおぼえのないことでした。

「ねえ、松井まつい君くん、ぼくとまったくおなじ顔かおのやつが、どっかにいるんだよ。あの映画えいがのハチ公こうのそばに立たっていたのも、けっしてぼくじゃない。また、きみの見みたスリの少年しょうねんも、むろん、ぼくじゃない。きみでさえ、まちがえるほど、ぼくとそっくりのやつが、いるのにちがいない。ぼくはなんだか、心配しんぱいだよ。いまのところは、そいつは、ぼくとなんのかんけいもないけれども、そいつがなにかわるいことをして、その罪つみを、ぼくにきせようとすれば、きせられるんだからね。」

玉村たまむら君くんはそういって、考かんがえこんでしまいました。

「まさか……。」

松井まつい君くんは、玉村たまむら君くんをげんきづけるようにいいました。が、心こころの中なかでは、玉村たまむら君くんの心配しんぱいは、むりではないとおもっているのでした。

それから、しばらく話はなしたあとで、ふたりはわかれて、それぞれのうちへかえりましたが、それは、学校がっこうがひけて、一いち時間じかんもたったころでした。

玉村たまむら君くんがうちにかえってみますと、そこにはじつにおそろしいことが、まちかまえていたのです。

「ただいま。」といって、玄関げんかんにはいると、ちょうどそこに、ねえさんの光子みつこさんが立たっていました。

「あらっ、またかえってきたの?」

「えっ、またって?」

「だって、もうさっき学校がっこうからかえって、お部屋へやでおやつをたべたじゃありませんか。わたしがコーヒーとお菓子かしをもってってあげたら、うまいうまいって、たべたじゃないの。いつのまに、外そとへ出でていったのよ。そして、学校がっこうの道具どうぐなんかもって、またかえってくるなんて、どうかしてるわ。」

それをきくと、玉村たまむら銀ぎん一いち君くんは、ゾーッとしました。

「ねえさん、ぼくをかつぐんじゃないだろうね。」

銀ぎん一いち君くんは、しんけんな顔かおで、ねえさんをにらみつけました。

「おおこわい。なんてこわい顔かおするの? 銀ぎんちゃんをかついだって、しょうがないわ。たしかに、さっきかえったから、かえったっていうのよ。」

銀ぎん一いち君くんは、それにはこたえず、くつをぬぐのももどかしく、おそろしいいきおいで、自分じぶんの勉強べんきょう部屋へやへ、かけていきました。

ドアをあけて、とびこんでみると、ああ、やっぱり、そこには、机つくえの上うえにからになった菓子かしざらとコーヒーの茶ちゃわんがのっていたではありませんか。

「あいつがきたのだ。そして、ぼくがかえったのを知しると、大おおいそぎで、窓まどからにげだしたのだ。」

ここからにげたといわぬばかりに、窓まどのガラス戸とが、あけはなしになっていました。銀ぎん一いち君くんは、いそいで、窓まどの外そとをのぞきますと、そこの地面じめんに、大おおきな足あしあとが、いくつものこっているではありませんか。

しらべてみると、本箱ほんばこの本ほんのおきかたが、かわっています。あいつが本ほんを動うごかしたのでしょう。机つくえのひきだしをあけてみると、どのひきだしも、みんな、あいつがいじったらしく、紙かみなどのかさねかたが、ちがっています。

じぶんとそっくりのやつが、うちへはいってきて、おやつをたべたり、本箱ほんばこや、机つくえのひきだしを、かきまわしたかとおもうと、なんともいえない、いやあな気きがしました。

すぐに茶ちゃの間まへとんでいって、おかあさんに、このことを知しらせましたが、あんまりへんなことなので、おかあさんも、どうしていいかわかりません。おとうさんが、お店みせからおかえりになったら、よく相談そうだんしましょうと、おっしゃるばかりでした。

しばらくして、銀ぎん一いち君くんは、勉強べんきょう部屋へやにかえって本ほんを読よんでいました。もう夕ゆうぐれで、庭にわはうすぐらくなっています。おやっ、あれはなんでしょう。

本ほんを読よんでいる目めのすみに、チラッと、動うごいたものがあります。窓まどの外そとでなにかが動うごいたのです。ハッとして、そのほうを見みると、さっきしめた窓まどガラスに、自分じぶんの顔かおがうつっていました。

しかし、なんだか角度かくどがへんです。あんなところに、ぼくの顔かおがうつるかしら……あっ、もしかしたら! 銀ぎん一いち君くんはギョッとして立たちあがると、窓まどガラスへ近ちかづいていきました。

やっぱりそうでした。ガラスにうつっているのではなくて、ガラスのむこうがわに、自分じぶんの顔かおがあるのです。自分じぶんの顔かおではない、自分じぶんとそっくりのやつが、ガラスの外そとから、のぞいていたのです。

十じゅう秒びょうほど、ガラスをへだてて、まったくおなじ二ふたつの顔かおが、じっとにらみあっていました。じつに、なんともいえない、へんてこな光景こうけいでした。

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