小林君は、びっくりして、たちすくんでいましたが、すると、むこうの機械のあいだから、みょうな人間が、あらわれてきました。
頭は、かみそりできれいにそった、まるぼうずです。顔はしわだらけで、ひろいひたいの下に、まんまるな目がギョロッと、ひかっています。
まゆ毛は、ひどくうすいので、あるのかないのかわかりません。ひらべったくて、ペシャンコの鼻、その下に、大きな赤いくちびるが、まるで虫のように、モグモグうごいています。
服は青いもめんの労働服で、その上にまっ白な手術着のようなものを、はおっています。
子どものように背がひくくて、その胴体の上に、じいさんの首がのっているという、ふしぎな人間です。一寸法師という、かたわものなのでしょう。
そいつは、ニヤニヤわらいながら、こちらへちかづいてきました。そして、まっかなくちびるを、大きくひらいて、こんなことをいいました。
「おお、よくきた。おまえは、わしのつくったA1号だな。」
そして、つくづく小林君の顔を、ながめながら、
「うん、よくできた。A1号の写真とそっくりじゃ。だれも、おまえを見やぶるものはあるまいて。ウフフフフフ、おまえは、わしの傑作じゃよ。」
小林君は、しばらくかんがえていましたが、やがて、一寸法師のいっていることが、わかってきました。A1号というのは、あの小林君とそっくりの人形が、はいっていたロッカーの番号です。
まず小林君のいろいろな写真をあつめ、それによってあの人形をつくり、その原型から、小林君とそっくりの生きた人間を、つくりだしたのに、ちがいありません。
しかし、どうして、そんなことができるのでしょう。このぶきみな一寸法師は、魔法つかいなのでしょうか。
超人ニコラ博士は、どんな人間にも、ばけることができます。では、この一寸法師も、やはりニコラ博士の、べつの姿ではないのでしょうか。
「あなたはニコラ博士ですか。」
小林君は、そうたずねてみました。
「わしはニコラではない。」
一寸法師がこたえました。
「では、あなたはだれです。」
「さあ、だれじゃったか。わしはわすれたよ。」
なんだかへんです。この一寸法師は、自分がだれだったか、忘れてしまったといっているのです。
「あなたは、ぼくをつくったといいましたね。どうして、そっくりおなじ人間が、つくれるのですか。あなたは魔法つかいですか。」
小林君は、そんなことをたずねないではいられませんでした。すると、一寸法師は、大きな口をあいて、歯のない歯ぐきを見せて、うすきみわるく、わらいました。
「ウフフフフフ、魔法つかいか。そうじゃ、魔法つかいといってもいい。だが、わしは医者だよ。魔法のような医術をつかうのじゃ。医術によって人間をつくりかえるのじゃ。つまり、わしは世界にたったひとりしかいない魔法医者なのじゃ。」
小林君は、そんなばかなことができるものかとおもいました。この一寸法師は、とんでもないホラふきか、気ちがいか、どちらかにちがいありません。
「ウフフフフ、みょうな顔をしているね。きみは、わしの手術をうけたことを、わすれてしまったのか。よろしい。それじゃあ、きみにあわせる人がある。きみはたしか、名探偵明智小五郎の助手じゃったね。ちょうどいい。まあ、こちらへきて見るがいい。」
一寸法師のみじかい手が、小林君の手をにぎって、グングンむこうへ、ひっぱっていくのです。ゴチャゴチャした機械のあいだをとおっていきますと、白い手術台のならんだところへ出ました。
一つの手術台に、だれかがよこたわっています。モジャモジャにみだれた髪の毛が見えています。
「もう麻酔がさめたころだ。きみ、気分はどうだね。」
一寸法師が、ねている人の顔を、のぞきこんで、はなしかけました。
すると、その人はパッチリ目をひらいて、ふしぎそうに、あたりを見まわしています。
「あっ、先生!」
小林少年は、とんきょうな声をたてて、手術台にかけよりました。
そこにねていたのは、名探偵明智小五郎だったのです。いや、明智探偵とそっくりの人間だったのです。
ほんとうの明智探偵は、まだ北海道からかえりません。こんなところにねているはずはないのです。
これは、A2という番号のロッカーの中にあった、明智とそっくりの人形をもとにして、一寸法師の魔法医者が、つくりだした人間にちがいありません。
そこにねている明智探偵は、小林君が「先生っ」とさけんで、ちかづいても、べつにおどろくようすもなく、知らん顔をしています。にせものですから、まだ小林君を知らないのです。
「A2号ですね。」
小林君が、ニヤッとわらっていいました。すると一寸法師は、
「そうじゃよ。つまり、明智探偵がふたりになったというわけさ。」
とこたえました。
「人形もいれると三人ですね。」
「ウフフフフ、そうじゃ、そうじゃ。おまえ、なかなか、かしこいのう。」
そういって、一寸法師は、みじかい手で、背のびをしながら、小林君の頭をなでるのでした。
一寸法師は、からだのかっこうが、へんなばかりでなく、いうことも、なんだかおかしいのです。気ちがいかもしれません。しかし、気ちがいに、どうして、こんな人間製造ができるのでしょう。じつに、ふしぎというほかはありません。
小林君が、なおも質問しようとしていますと、そのとき、部屋の入口のほうに、人の足音がして、だれかが、こちらへやってくるようです。
小林君はびっくりして、機械のかげに身をかくして、そのほうをながめますと、白ひげのニコラ博士が、こちらへやってくるのが見えました。
みつかっては、たいへんです。小林君は、あわてて、機械と機械のすきまを、おくふかく、にげこむのでした。
さて、それから、どんなことがあったか。小林君は、ニコラ博士にみつかることもなく、ながいあいだ、その機械室にいて、一寸法師の魔法医者の秘密を、すっかりききだしてしまいました。
それから三日のあいだに、小林君は、ニコラ博士の洋館のすみずみまで、のこるところなく、しらべあげました。
地下一階の牢屋のような鉄ごうしの中にとじこめられた、玉村宝石王一家、白井美術店一家の人たちとも、こっそり話をして、すべての事情を知ることができました。
それだけでなく、小林君は、いかにも明智探偵の弟子らしい、おもしろいトリックを考えついて、それをやってみることにしました。
そのトリックとは、いったい、どんなことだったのでしょうか。
いや、それよりも、一寸法師の魔法医者は、どのような方法によって、同じ人間をつくりだすことができたのでしょうか。