← Library‹ 超人ニコラ ニコラ博士

十じゅう秒びょうほどにらみあったあとで、窓まどのむこうの顔かおは、パッとガラスをはなれて、庭にわの立たち木ぎのあいだに、にげこんでしまいました。

銀ぎん一いち君くんは、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんだけあって、こういうときには勇ゆうかんです。うちの人ひとに知しらせるひまもないので、そのまま、窓まどからとびだすと、くつもはかないで、自分じぶんとそっくりの少年しょうねんのあとを、おいました。

あいては、うらのコンクリートべいを、よじのぼって、外そとの道路どうろへ、とびおりたようです。銀ぎん一いち君くんも、そのへいをのりこえました。

見みると、二十にじゅうメートルほどさきを、あいつが大おおいそぎで、あるいていきます。うしろ姿すがたは、銀ぎん一いち君くんと、まったくおなじ服装ふくそうです。

こちらは、しずかに、へいからすべりおちて、追跡ついせきをはじめました。ほとんどくらくなっているので、あいてにさとられる心配しんぱいはありません。

それにしても、なんというふしぎな追跡ついせきでしょう。まったくおなじ顔かおの、おなじ服装ふくそうの、ふたりの少年しょうねんが、二に―三十さんじゅうメートルをへだてて、トット、トットと、いそぎ足あしに、歩あるいているのです。

さびしい町まちから、さびしい町まちと、あるいているうちに、いつのまにか、あの八幡はちまんさまの石いしがきのところにきていました。

あいての少年しょうねんは、石いしがきをとおりすぎて、八幡やわたさまの林はやしの中なかへはいっていきます。ゆうべでお祭まつりはすんだので、林はやしの中なかはまっくらで、人ひとっ子こひとりいません。

銀ぎん一いち君くんも、すこしおくれて、八幡やわたさまの中なかへ、はいっていきましたが、くらいので、なにがなんだかわかりません。あの少年しょうねんはどこへいったのか、いくらさがしても姿すがたが見みえないのです。

むこうにボーッとひかったものがあります。八幡やわたさまの社殿しゃでんの前まえに、うすぐらい常夜灯じょうやとうが立たっているのです。

その社殿しゃでんのえんがわのようなところに、みょうな人間にんげんが、こしかけていました。はでなしまの背広せびろをきた老人ろうじんです。

老人ろうじんは白しろいかみの毛けをモジャモジャにして、長ながい白しろひげを胸むねの前まえにたらしています。大おおきなめがねをかけていて、それが常夜じょうや灯とうの光ひかりを反射はんしゃして、キラキラひかっているのです。

こんなまっくらな中なかで、社殿しゃでんにこしかけているなんて、あやしい老人ろうじんです。銀ぎん一いち君くんは、気味きみがわるくなって、にげだそうかと思おもいましたが、にげるのもざんねんです。勇気ゆうきをだして、ぎゃくに、こちらからちかづいていきました。

「おじいさん、ぼくとおんなじ服ふくをきた、おんなじ顔かおの子こどもが、ここをとおらなかったですか。」

おもいきって、はなしかけてみました。すると、老人ろうじんは、こしかけたまま、身動みうごきもしないで、にやりと笑わらいました。

「おお、かんしん、かんしん、きみはなかなか勇気ゆうきがある。きみとおんなじ顔かおをした子こども、あれはきみの分身ぶんしんじゃよ。」

地ちの底そこから、ひびいてくるような、いんきな声こえです。

「分身ぶんしんって、なんですか?」

「きみが、ふたりになったのじゃ。ひとりの子こどもが、ふたりにわかれたんじゃよ。」

「どうして、そんなことができるのですか。」

「わしがそうしたのじゃよ。ハハハハハハ。」

老人ろうじんはぶきみに笑わらいました。やっぱり、あやしいやつです。

「おじいさんはだれですか。」

「わしはニコラ博士はかせというものじゃ。」

「ニコラ博士はかせ? じゃあ、日本にっぽん人にんではないのですか。」

「わしは十じゅう九きゅう世紀せいきのなかごろに、ドイツで生うまれた。だが、わしはドイツ人にんではない。世界せかい人にんじゃ。イギリスにも、フランスにも、ロシアにも、中国ちゅうごくにも、アメリカにもいたことがある。そして、いたるところで、ふしぎをあらわして歩あるくのじゃ。わしは大だい魔術まじゅつ師しじゃ、スーパーマンじゃ。わしにできないことはなにもない。神通力じんつうりきをもっているのじゃ。わしひとりの力ちからで、この世界せかいを、まったくちがったものにすることができる。そういう神通じんずう力りょくをな。ウフフフフフ。」

老人ろうじんはそういって、またしても、地ちの底そこからのような、いんきな声こえで、笑わらうのでした。

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