← Library‹ 超人ニコラ 人間いれかえ

「こっちへいらっしゃい。ふたりならんで、鏡かがみの前まえに立たってみるのよ。」

こじき姿すがたの光子みつこさんが、光子みつこさんの服ふくをきたこじきむすめの手てをとって、鏡かがみの前まえにつれていきました。

「あらっ、あんた、あたしとそっくりだわ。そして、あたしは、あんたとそっくりね。だれにも見みわけられないわ。」

「わたし、うれしいですわ。こんなきれいなおじょうさんになれたんですもの。でも、いけませんわ。だれかに見みられるとたいへんですわ。はやく服ふくをとりかえましょうよ。」

「なあに、いいのよ。みんなをびっくりさせてやりたいわ。ね、あんた、もっとぐっとおすまししてね、あちらへいって、書生しょせいや女中じょちゅうに、なにかいってごらん。お紅茶こうちゃをもってくるようにいいつけてもいいわ。そして、だれにもうたがわれないで、ここにかえってきたら、そうね、なにかごほうびをあげるわ。おこづかいをあげてもいいわ。」

光子みつこさんは、このいたずらが、たのしくてたまらないという、顔かおつきです。

「だって、わたし、こわいわ。きっとみつかりますわ。」

光子みつこさんとそっくりのこじきむすめは、なかなか決心けっしんがつかないらしいのです。

「みつかるもんですか。ほら、鏡かがみをごらんなさい。ね、あんた、あたしとそっくりだわ。だいじょうぶよ。さあ、いっていらっしゃい!」

光子みつこさんは、そういって、こじきむすめを、ドアのところにつれていくと、グッと、廊下ろうかに、おしだしてしまいました。にせものの光子みつこさんは、しかたなく、廊下ろうかを歩あるいていきます。

一ひとつかどをまがると、むこうから書生しょせいがやってくるのに、パッタリであいました。こじきむすめは、びっくりして、にげだしたでしょうか。

いや、いや、そのとき、じつにおそろしいことがおこったのです。ほんとうの光子みつこさんが、まるで考かんがえてもいなかったことが、おこったのです。こじきむすめは、いきなり、書生しょせいのそばにかけよりました。そして、こんなことをさけんだのです。

「はやくきて! たいへんなのよ。あたしの部屋へやに、こじきの子こが、はいっているのよ。はやく、あれをおいだしておくれ。」

光子みつこさんになりすましたこじきむすめが、とほうもないことを、いいだしたのです。

書生しょせいは、すこしもうたがわず、このことばをまにうけてしまいました。

「えっ、こじきが? おじょうさんのお部屋へやに? とんでもないやつだ。ここにまっていらっしゃい。すぐにつかみだしてやりますから。」

書生しょせいは、いきなり、かけだして、光子みつこさんの部屋へやに行いってみますと、黒くろい顔かおをした、きたないこじきが、鏡かがみの前まえにこしかけて、じぶんの顔かおをうつしながら、にやにや笑わらっているではありませんか。

「こらっ、きさま、どうしてここにはいってきたんだ。はやく出でていけ。ぐずぐずしていると、警察けいさつにひきわたすぞっ。」

いくらどなっても、あいては、へいきな顔かおをして、こんなことをいうのです。

「あらっ、なにをそんなにおこっているの? ちょっといたずらをしてみたのよ。おこることはないわ。」

書生しょせいは、光子みつこさんのことばのいみを、とりちがえました。

「ばかっ、ちょっといたずらに、部屋へやの中なかにはいられてたまるかっ。さあ出でろ。出でなければ、こうしてやるぞっ。」

書生しょせいは、こじきむすめ(ほんとうの光子みつこさん)の首くびすじをつかんで、窓まどのそばにつれていき、いきなり、窓まどの外そとに、つきおとしてしまいました。

こじきむすめは、窓まどの下したにころがって、からだじゅう、砂すなまみれになりました。

「青木あおきっ、なにをするの。あたしをだれだと思おもっているの。」

光子みつこさんは、やっとおきあがると、窓まどからのぞいている書生しょせいに、せいいっぱいの声こえで、どなりつけました。青木あおきというのは、書生しょせいの名なです。

「なまいきいうなっ。だれとも思おもっていない。こじきだと思おもっているよ。さっさと出でていけ。出でていかないと、もっと、いたいめをみせてやるぞっ。」

書生しょせいは、いまにも、窓まどからとびだしてきそうないきおいです。

光子みつこさんは、ただどなっていたってしかたがない、わけをはなそうと思おもいました。

「ねえ、青木あおきさん。あんたが思おもいちがいをするのも、むりはないわ。でもあたしは光子こうしなのよ。庭にわからはいってきた、こじきむすめと、服ふくのとりかえっこをしたのよ。」

それをきくと、書生しょせいは、声こえをたてて笑わらいました。

「アハハハハハハ、なにをつまらないことをいっている。あっ、ちょうどいい、光子みつこさんがこられた。ねえ、おじょうさん、こいつ、あなたと服ふくをとりかえたんだといってますよ。」

すると、窓まどに、二ふたつの顔かおがあらわれました。にせの光子みつこさんと、それから、弟おとうとの銀ぎん一いち君くんです。

「あっ、あんた、そこにいたの。はやく、あたしをたすけてちょうだい。あんたがあたしの服ふくをきて、あたしがあんたの服ふくをきているんだわね。」

それをきくと、光子みつこさんにばけたこじきむすめは、目めをまんまるにして、わざとおどろいてみせるのです。

「まあ、おそろしい。なんといういいがかりをつけるのでしょう。そんなばかなことを、だれが信用しんようするものですか。青木あおきさん、はやくこのこじきを、門もんの外そとへ、ほうりだして。」

こじき姿すがたの光子みつこさんは、びっくりしてしまいました。

「あらっ、なにをいうの。あんたこそ、おそろしい人ひとだわ。ねえ、銀ぎんちゃん、あんたはわかってくれるわね。ほら、おねえさんの光子こうしよ。」

弟おとうとの銀ぎん一いち君くんによびかけて、顔かおを窓まどのほうへつきだしましたが、銀ぎん一いち君くんも、とりあってくれません。

「光子こうしねえさんはここにいるよ。そんなきたないねえさんなんてあるもんか。おまえなんか、はやく、どっかへいっちまえっ。」

たのみの綱つなが、きれはてました。

ああ、とんだことをしてしまった。あんな気きまぐれをおこして、服ふくのとりかえっこをしたばっかりに、おそろしいめにあわなければならない。光子みつこさんは後悔こうかいしましたが、いまさらおっつきません。

あっ、書生しょせいがえんがわからまわって、庭にわに出でてきました。おそろしい顔かおをしています。

「さあ、門もんの外そとにでるんだ。そして、おまえのこじき小屋こやにかえるんだ。」

そういって光子みつこさんのえり首くびをつかむと、グングン門もんのほうへおしていくのです。

おとうさんは銀座ぎんざのお店みせです。おかあさんは麹町こうじまちの親戚しんせきにおでかけです。もうたすけをもとめる人ひともありません。

それにしても、弟おとうとの銀ぎん一いちが、どうして、あたしを見みわけてくれなかったのだろうと、光子みつこさんはふしぎに思おもいました。

しかし、読者どくしゃ諸君しょくんはごぞんじです。これは銀ぎん一いち君くんとそっくりの顔かおをした、にせものです。ほんとうの銀ぎん一いち君くんは、ニコラ博士はかせという白しろひげのじいさんにつれていかれ、地下ちか室しつにとじこめられているのです。

ああ、これはどうしたことでしょう。怪人かいじんニコラ博士はかせは、いったい、なにをたくらんでいるのでしょう。まず銀ぎん一いち君くんをにせものといれかえ、いまはまた、光子みつこさんをいれかえたのです。おそろしい計画けいかくは、つぎつぎと、なしとげられていくようにみえます。

「さあ、はやく、あっちへいけっ。」

書生しょせいは、門もんの鉄てつのとびらをひらいて、光子みつこさんを外そとにつきとばし、そのまま、パタンととびらをしめて、うちにはいってしまいました。

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