← Library‹ 塔上の奇術師 赤い道化師

さて、それから一いち月がつほどたったある日ひのことです。淡谷あわやさんの近ちかくの、ひろい原はらっぱのしば草くさの上うえにこしをおろして、ふたりのかわいい少女しょうじょが話はなしをしていました。

午後ごご四し時じごろです。よいお天気てんきで、空そらには雲くもひとつなく、西にしにかたむいた太陽たいようが、まださんさんとかがやいていました。しば草くさからは、かげろうが、ゆらゆらとたちのぼっています。

ふたりがこしをおろしている前まえには、まばらな林はやしがあって、そのむこうに、あの時計とけい塔とうがそびえていました。その屋根やねの上うえに、ぶきみなこうもり男おとこが立たったことのある、あの時計とけい塔とうです。

時計とけい塔とうの下したには、むかし有名ゆうめいな時計とけい屋やさんがたてた、お城しろのような西洋せいよう館かんがあります。淡谷あわや一郎いちろう青年せいねんが、四十よんじゅう面相めんそうのためにとじこめられた部屋へやも、その西洋せいよう館かんの中なかにあるのです。

時計とけい塔とうをながめながら話はなしをしている少女しょうじょのひとりは、中学ちゅうがく一いち年ねん生せいの淡谷あわやスミ子こちゃんでした。明智あけち探偵たんていの助手じょしゅのマユミさんのお弟子でしになった、少女しょうじょ探偵たんていのスミ子こちゃんです。

もうひとりの少女しょうじょは、やっぱり中学ちゅうがく一いち年ねんの、園田そのだヨシ子こちゃんです。ヨシ子こちゃんのおとうさんの園田そのださんは、たいへんなお金持かねもちで、ふうがわりなこのみを持もったかたでした。ある時とき、時計とけい塔とうの西洋せいよう館かんを見みて、そのお城しろのような古風こふうなつくりかたが、すっかり気きにいってしまい、西洋せいよう館かんを買かいとって、そこに住すむことになったのです。

西洋せいよう館かんの外そとがわは、れんがのこわれたところなどに、すこし手入ていれをさせたばかりで、だいたいそのままにしておき、中なかのたくさんの部屋へやは、すっかりなおさせて、住すみごこちのよいようにしたのです。時計とけい塔とうの大だい時計とけいの機械きかいも専門せんもん家かにたのんでなおしてもらい、時計とけいが動うごくようにしました。

そうして、すっかり手入ていれができると、園田そのださんの一家いっかは、西洋せいよう館かんへひっこしをしてきました。それが、今いまから一いち週間しゅうかんばかりまえのことなのです。

園田そのださんには、三さん人にんの子こどもがありました。ヨシ子こちゃんの上うえに、高校こうこう生せいのにいさんと、下したに小学しょうがく生せいの弟おとうとがいるのです。ヨシ子こちゃんは、淡谷あわやスミ子こちゃんとおなじ中学ちゅうがくへ転校てんこうしましたので、ふたりはすぐに仲なかよしになってしまいました。

きょうは、スミ子こちゃんのほうから、園田そのださんの西洋せいよう館かんへあそびにきて、その帰かえりに、ヨシ子こちゃんとふたりで、原はらっぱでやすんで、話はなしをしていたのです。

スミ子こちゃんは、その時ときはじめて、四十よんじゅう面相めんそうのことを話はなしました。ヨシ子こちゃんを、こわがらせてはいけないと思おもって、今いままでいわないでいたのですが、とうとう、がまんができないで、宝石ほうせきをぬすまれかけた事件じけんを、うちあけてしまったのです。

すると、ヨシ子こちゃんは、へいきな顔かおで、こんなことをいいました。

「その話はなしは、おとうさまから聞きいて、知しっていてよ。あの西洋せいよう館かんを買かうとき、みんなが、おとうさまに、およしなさいといったの。きみがわるいから、およしなさいといったのよ。でもおとうさまは、そんなお化ばけやしきなら、なおおもしろいとおっしゃって、へいきでお買かいになったわ。

それから、工務こうむ所しょのだいくさんたちが、中なかをすっかりなおしたんですもの、あやしいやつがいるはずはないわ。おかあさまもわたしも、ちっとも、こわくなんか思おもわないのよ、お化ばけが出でたら、おもしろいわ。」

それをきくと、スミ子こちゃんは、すっかり感心かんしんしてしまいました。ヨシ子こちゃんはなんて強つよい子こでしょう。この子こなら少女しょうじょ探偵たんていのなかまにいれてもいいと思おもいました。

「わたしね、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうのお弟子でしなのよ。」

スミ子こちゃんは、ふたりの友ともだちといっしょに、マユミさんのお弟子でしになったこと、明智あけち探偵たんていにも、いろいろおそわっていること、小林こばやし少年しょうねんのことなどを、くわしく話はなしてきかせました。

「まあ、すてき。わたし、明智あけち先生せんせいは、まえからすきなのよ。そんけいしているわ。わたしも、お弟子でしになりたいわ。」

「じゃ、話はなしてあげましょうか。マユミさんにおねがいすれば、きっと、いいっておっしゃるわ。ね、少女しょうじょ探偵たんていのなかまにはいらない?」

「ええ、いれて。明智あけち先生せんせいや、小林こばやしさんにあえるかと思おもうと、わたし、むねがどきどきするわ。」

ふたりは、夢中むちゅうになって話はなしていましたので、目めの前まえの時計とけい塔とうに、みょうなことがおこっているのを、その時ときまですこしも気きがつきませんでした。

最初さいしょにそれに気きづいたのは、スミ子こちゃんでした。時計とけい塔とうの屋根やねの上うえに、なにか赤あかいものがひっかかっているような気きがしたので、ひとみをさだめて、そのほうを見みたのです。

「アラッ、ヨシ子こちゃん、ごらんなさい。あれ、なんでしょう? きみがわるいわ。」

「まあ、あんなところに、あれ、道化どうけ師しよ。わたし、知しらないわ。うちに、あんなものいないわ。」

ヨシ子こちゃんも、びっくりして目めをみはりました。

いかにも、それはひとりの道化どうけ師しでした。まっ赤かなとんがり帽子ぼうし、まっ白しろにおしろいをぬった顔かお、まっ赤かな地色じいろに、白しろい水玉みずたまもようのある、だぶだぶの道化どうけ服ふく、その赤あかい道化どうけ師しが、時計とけい塔とうのとんがり屋根やねのてっぺんに立たって、避雷針ひらいしんのながい棒ぼうにつかまっているのです。

遠とおいので、顔かおの表情ひょうじょうはわかりませんが、なんだか、こちらをむいて、笑わらっているようです。

「へんだわ、あんな道化どうけ師しなんて、うちにいないわ。どこから来きたのでしょう。どこからのぼったのでしょう。」

ヨシ子こちゃんは、おびえたように、スミ子こちゃんの手てをにぎるのでした。

やがて、いっそうへんてこなことがおこりました。道化どうけ師しは、するすると避雷ひらい針はりのてっぺんまで、のぼっていったのです。

それから、まるで曲芸きょくげい師しのように、避雷ひらい針はりの先さきの、するどい剣けんにおなかをつけると、両手りょうて、両足りょうあしをはなして、うつむきになり、くるくるくると、からだを回まわしはじめました。まるで、ぼうの先さきに、かめの子こをのせたようなかっこうです。

「アラッ、あんなことして避雷ひらい針はりの先さきが、おなかにささってしまうわ。」

「きっと、おなかに鉄てつの帯おびをしめているのよ。その鉄てつにくぼみができていて、そこへ避雷ひらい針はりの先さきがあたっているのよ。いつか、サーカスで、ああいうの見みたことあるわ。」

まっ赤かな道化どうけ師しは、大だいの字じにのばした手足てあしで、うまくちょうしをとりながら、だんだん早はやく回まわります。くるくる、くるくる、美うつくしい風車かざぐるまのようです。

ああ、もう道化どうけ師しのすがたも見みえないほど、はやくなってきました。ただ、まっ赤かなものが、目めにもとまらぬはやさで回まわっているのです。

「わたし、こわいわ。恐おそろしいことのまえぶれかもしれないわ。おうちへ帰かえって、おとうさまに知しらせて、しらべていただくわ。」

「ええ、それがいいわ。わたし、おおくりするわ。」

ふたりの少女しょうじょは、立たちあがると、手てをつないで、林はやしの中なかへかけこみました。園田そのださんの西洋せいよう館かんは、その林はやしのむこうにあるのです。

いきせききって西洋せいよう館かんにたどりつき、時計とけい塔とうを見みあげますと、いつのまにおりたのか、もう道化どうけ師しのすがたは見みえませんでした。

「あら、もう、いなくなったわ。どこへいったんでしょう。」

「おうちの中なかへしのびこんだのかもしれなくってよ。早はやくおとうさまに知しらせるといいわ。もし、手てだすけがいるようだったら、わたしのうちへ電話でんわしてくださいね。うちには、おとうさまも、おにいさまもいらっしゃるから。じゃ、わたし、帰かえるわ。さようなら。」

スミ子こちゃんは、そういって、もときたほうへかけだすのでした。

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