← Library‹ 塔上の奇術師 金ぴかの部屋

そのあくる日ひになっても、淡谷あわやスミ子こちゃんのゆくえはすこしもわかりませんでした。警察けいさつでは八方はっぽうに手てをのばしてしらべていましたし、明智あけち探偵たんていのほうでも、小林こばやし少年しょうねんが少年しょうねん探偵たんてい団だんやチンピラ隊たいをうごかし、できるだけ捜索そうさくしていましたが、なんの手てがかりもつかめないのでした。

その日ひ、スミ子こちゃんのおとうさんの淡谷あわや庄二郎しょうじろうさんは、ほうぼうのしりあいに電話でんわをかけたり警視けいし庁ちょうの中村なかむら警部けいぶに、捜索そうさくのもようを電話でんわでたずねたりしていましたが、おひるすこしまえに、どこからか、電話でんわがかかってきました。淡谷あわやさんが、スミ子こちゃんのゆくえがわかったのかもしれないと、胸むねをおどらせて受話じゅわ器きをとると、なんだか、みょうにしわがれた男おとこの声こえが、聞きこえてきました。

「淡谷あわや庄二郎しょうじろうさんは、おいでになりますか。」

「淡谷あわや庄二郎しょうじろうはわたしですが、あなたは?」

「おじょうさんのスミ子こさんのことで、ちょっとお話はなしたいのです。」

「エッ、スミ子こ? じゃあ、あの子このゆくえがわかったのですか。」

「わかったのです。」

「あ、ありがとう。で、スミ子こはどこにいるのです。あなたはどなたです。」

「わたしが、おあずかりしています。しかし、その場所ばしょは、ちょっと、教おしえられませんよ。」

「エッ、なんですって? いったいあなたは、どなたなんです。」

「わかりませんか。ウフフフ……、わたしですよ。あなたの宝石ほうせきばこをぬすみそこなった、あわれな男おとこですよ。」

淡谷あわやさんは、ギョッとしました。さては、あいつが、スミ子こちゃんを、さらっていったのでしょうか。

「き、きみは、四十よんじゅう面相めんそうだなッ。」

「そうですよ。」

あいては、おちつきはらっています。

「で、わたしに、なぜ電話でんわをかけてきたのだ。スミ子このみのしろ金きんでも、ほしいというのか。」

「金きんはほしくない。宝石ほうせきがほしいのだ。おれは、一いち度どしくじったら、おなじものを二に度どとねらわないことにしているが、あの二十にじゅう四よんの宝石ほうせきだけは、あきらめられない。それで、宝石ほうせきばことひきかえるために、スミ子こさんをあずかったのだ。けっしてひどいめにあわせたりはしない。ちゃんとごはんをたべさせて、あるところにかくまってある。きみのほうで、あの宝石ほうせきばこを持もってくれば、いつでもスミ子こさんをかえしてやるよ。」

「どこへ持もっていくのだ。」

「きみのうちから半はんキロほど南みなみに、八幡神社はちまんじんじゃの森もりがある。今夜こんや十じゅう時じに、あの神社じんじゃのとりいのところで待まっている。きみ自身じしんが宝石ほうせきばこを持もって、かっきり十じゅう時じに、あすこへやってくるのだ。けっしてひきょうなまねはしない。きっと、約束やくそくをまもる。警察けいさつへとどけてもかまわないよ。しかし、きみはひとりでくるんだ。車くるまに乗のってはいけない。歩あるいてくるのだ。だれかをつれてきたら、この約束やくそくはとりけしだ。スミ子こさんは、永久えいきゅうに、きみのうちへ帰かえれなくなるかもしれない。」

「よろしい、わかった。では、十じゅう時じに八幡やわた神社じんじゃのとりいのところへ、宝石ほうせきを持もっていく。そこで、スミ子こをわたしてくれるのだろうね。」

「そこでではない。刑事けいじなんかが、ものかげにかくれているかもしれないから、きみを、安全あんぜんな場所ばしょへつれていくのだ。そこで、スミ子こさんと宝石ほうせきばこを、ひきかえにする。」

「よろしい。約束やくそくした。」

「念ねんのためにいっておくが、おれがどこから電話でんわをかけたか、しらべてもむだだよ。これは公衆こうしゅう電話でんわだからな。じゃあ、あばよ。」

そして、電話でんわがきれました。

淡谷あわやさんは、会社かいしゃにいっているむすこの一郎いちろう青年せいねんを、電話でんわで呼よびよせ、スミ子こちゃんのおかあさんと三さん人にんで相談そうだんしましたが、いくら宝石ほうせきがだいじでも、スミ子こちゃんにはかえられませんから、やっぱり、四十よんじゅう面相めんそうのいうとおりにするほかはない、ということにきまりました。

それから淡谷あわやさんは明智あけち探偵たんていに電話でんわをかけて、いそいでおいでくださいとたのみましたので、明智あけち探偵たんていは小林こばやし少年しょうねんをつれて、自動じどう車しゃで、かけつけてきました。

淡谷あわやさんはふたりを書斎しょさいにとおして、三十さんじゅう分ふんほども、ひそひそと、相談そうだんしていましたが、やがて、三さん人にんは、明あかるい顔かおになって、書斎しょさいを出でてきました。

なにか、うまい計画けいかくがたてられたらしいのです。

さて、その夜よるの十じゅう時じ、淡谷あわやさんは、宝石ほうせきばこのつつみを小こわきにかかえて、ただひとり、八幡やわた神社じんじゃまで歩あるいていきました。

神社じんじゃはふかい森もりにつつまれ、ところどころにあわい電灯でんとうがついているだけですから、人ひとのすがたが、やっと見みわけられるほどの暗くらさです。

淡谷あわやさんは、とりいの前まえに立たって、しずかにあたりを見みまわしました。いま、ちょうど十じゅう時じなのです。

すると、森もりの中なかから、ひとりの男おとこが、スウッと近ちかづいてきました。黒くろい背広せびろに、黒くろい鳥打とりうち帽ぼうをかぶっているので、まるで、やみの中なかから、やみが浮うきだしてきたような感かんじです。それが四十よんじゅう面相めんそうだったのです。

「では、こちらへ来きてください。車くるまを待またせてあります。」

黒くろい男おとこは、ささやくようにいって、淡谷あわやさんの手てをとりました。

ひかれるままについていきますと、神社じんじゃのうらての森もりの外そとに、一いち台だいの自動じどう車しゃがヘッドライトを消けしてとまっていました。

四十よんじゅう面相めんそうと淡谷あわやさんが、まだ森もりの中なかを歩あるいているころ、その自動じどう車しゃの下したから、小ちいさな人ひとかげがあらわれ、こそこそと、やみの中なかに消きえていきました。

自動じどう車しゃには運転うんてん手しゅが乗のっていましたが、じっと前まえを見みていたので、車くるまの下したのうしろから、小男こおとこが出でてくるのを、すこしも気きづかなかったのです。

この小男こおとこは、いったいなにものでしょう。かれは車くるまの下したにもぐってなにをしていたのでしょう。小男こおとこといえば、みなさんは、なにか思おもいあたることがありませんか。

小男こおとこのように見みえても、それは少年しょうねんだったかもしれません。黒くろい服ふくをきた少年しょうねんが、自動じどう車しゃの下もとで、なにかやっていたのです。少年しょうねん探偵たんてい団だんのものがたりのどこかに、これと同おなじような場面ばめんがあったことを思おもいだしてください。

さて、四十よんじゅう面相めんそうは、淡谷あわやさんといっしょに自動じどう車しゃに乗のると、ポケットから大おおきな黒くろいふろしきのようなものをとりだしました。

「目めかくしをするよ。これからいく場所ばしょを、きみに知しられたくないのでね。」

そういって、淡谷あわやさんの目めからあたまのうしろにかけて、その黒くろいきれを、しっかりくくりつけてしまいました。

自動じどう車しゃは右みぎに左ひだりに、いくつも町まちかどをまがって、三十さんじゅう分ふんも走はしったころ、やっととまりました。

「さあ、ここだ。まだ、目めかくしをとってはいけない。すこしあぶない道みちだが、おれが手てをひいてやるから、だまってついてくるのだ。」

淡谷あわやさんは、車くるまからおりると、宝石ほうせきばこをしっかりかかえて、手てをひかれるままに、ついていきました。

ぼうぼうと草くさのはえた道みちをとおってから、あぶなっかしい石段いしだんをおりました。井戸いどの中なかへでもはいっていくような気持きもちです。

「ははあ、地下ちかへの階段かいだんだな。すると、いく先さきは地下ちか室しつなのだろうか。」

淡谷あわやさんは、心こころの中なかでそんなことを考かんがえながら、おりていきました。

階段かいだんがおわると、平地へいちになりましたが、やっぱり、せまいトンネルの中なかのような感かんじです。

その道みちは、いくつもまがりかどがありましたが、やがて、ドアのひらく音おとがして、一ひとつの部屋へやにはいりました。

「さあ、目めかくしをとるよ。」

四十よんじゅう面相めんそうが、黒くろいきれを、ほどいてくれました。

淡谷あわやさんは、目めをパチパチやって、あたりを見みまわしましたが、その部屋へやが、あんまりりっぱなので、びっくりぎょうてんしてしまいました。

壁かべも天井てんじょうも、テーブルもいすも、みんな金色きんいろに光ひかりかがやいているのです。天井てんじょうからは、何百なんびゃくという水晶すいしょうの玉たまのついたシャンデリアがさがって、キラキラと美うつくしく光ひかっています。

一方いっぽうの壁かべには、りっぱなガラス戸とだなが、ずらっとならび、その中なかに、彫刻ちょうこくだとか、ふるい西洋せいようの壺つぼなどが、いっぱいおいてあり、宝石ほうせきをちりばめた箱はこだとか、胸むねかざり、腕うでわなども、たくさんならんでいます。なかでも、ひときわめだつのは、どこかの国くにの王冠おうかんでした。黄金おうごんのだいに、無数むすうの宝石ほうせきをちりばめた、その王冠おうかんのみごとさ! 淡谷あわやさんは、目めもくらむように思おもいました。

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