← Library‹ 塔上の奇術師 笑う四十面相

四十よんじゅう面相めんそうは、その金きんぴかの部屋へやの金きんぴかのテーブルのむこうに立たって、にやにやと、笑わらっていました。

「淡谷あわやさん、あなたはなかなか勇気ゆうきがある。ひとりで、宝石ほうせきを持もって、ここまできてくださった。もし、刑事けいじや私立しりつ探偵たんていに、わたしのあとをつけさせるようなことをなさったら、わたしはスミ子こさんをかえさないつもりでした。しかし、こうして、わたしのいったとおりにしてくださったのだから、約束やくそくどおり、おじょうさんを、おかえししますよ。」

四十よんじゅう面相めんそうは、ていねいなことばで、そんなことをいいました。

「むろん、かえしてもらわなければこまる。わたしは、三十さんじゅう年ねんもかかって集あつめた宝たからものを、きみにやるのだからね。もし、むすめをかえしてくれなければ、わたしも男おとこだ。いのちをすてても、きみとたたかうつもりだ。」

淡谷あわやさんは、顔かおに決心けっしんの色いろをあらわして、強つよくいうのでした。

「ハハハハ……。それにはおよびませんよ。おじょうさんは、たしかに、おかえしします。いま、ここへつれてこさせますよ。」

その時とき、四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶからしい男おとこが、あわただしく、そこへかけこんできました。

「かしら、たいへんなことがあるんです。」

部下ぶかは淡谷あわやさんを、じろりとよこ目めでながめ、四十よんじゅう面相めんそうのそばによると、その耳みみに口くちをつけるようにして、なにか、ぼそぼそとささやきました。

それを聞きくと、四十よんじゅう面相めんそうは、恐おそろしい顔かおになって、ぐっと淡谷あわやさんをにらみつけましたが、そのまま、部下ぶかといっしょに、いそいで部屋へやを出でていくのでした。

淡谷あわやさんは、なんだか心配しんぱいになってきました。四十よんじゅう面相めんそうが、あんな恐おそろしい目めでにらみつけたのを見みると、なにか、思おもいがけないことがおこったのかもしれないのです。もし、スミ子こちゃんをかえしてくれないようなことになったらと、気きが気きではありません。

そうして十じゅう分ふんも待まったでしょうか。やっと四十よんじゅう面相めんそうが帰かえってきました。ああ、ありがたい。かれは、スミ子こちゃんの手てを引ひいていたのです。

「おとうさま!」

泣なきさけぶような声こえをたてて、スミ子こちゃんが、淡谷あわやさんにとびついてきました。淡谷あわやさんも、両手りょうてで、スミ子こちゃんをだきしめて、しばらくはものもいえないほどでした。

スミ子こちゃんは、うちを出でた時ときのままの服ふくをきていましたが、それが、たいへんしわになっていました。夜よるも、そのまま寝ねたのにちがいありません。そして、顔色かおいろがわるく、すこし、やせたように見みえました。

しかし、おとうさんの腕うでに、しっかりだかれているのですから、もうだいじょうぶです。

その時とき、とつぜん、びっくりするような笑わらい声ごえがおこりました。四十よんじゅう面相めんそうが、恐おそろしい声こえで笑わらっているのです。

「ワハハハハハ……、じつにおかしい。こいつは、大笑おおわらいだ。

ワハハハハハ……。いや淡谷あわやさん、あなたには関係かんけいのないことですよ。安心あんしんしなさい。あなたは、こうして、ちゃんと宝石ほうせきを持もってきてくださったのだから、スミ子こさんは、まちがいなくかえしますよ。

しかし、あなたはたぶん知しらないことだと思おもうが、明智あけち探偵たんていが、へんなことをやったのですよ。ワハハハハ……。だが四十よんじゅう面相めんそうは、それに気きがつかぬほど、ばかじゃないと、つたえてください。明智あけちにあったら、そういってください。ワハハハハ……、いまに、明智あけち先生せんせい、泣なきべそをかきますよ。ワハハハハ……、こいつは、ゆかいだ。」

淡谷あわやさんには、なんのことだかすこしもわかりませんが、スミ子こちゃんさえ帰かえってくれば、なにもいうことはないので、どういうわけだと、聞ききただしもしませんでした。

それから、淡谷あわやさんとスミ子こちゃんは、また目めかくしをされ、四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかに手てを引ひかれ、部屋へやを出でて階段かいだんをのぼり、自動じどう車しゃに乗のせられて、淡谷あわやさんのうちまで、送おくりかえされたのでした。スミ子こちゃんの顔かおを見みて、おかあさんやにいさんが、どんなにおよろこびになったか、それは、みなさんのご想像そうぞうにまかせます。

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