← Library‹ 塔上の奇術師 大時計の怪

それから二に週間しゅうかんほど、なにごともなくすぎさりました。そのある日ひのこと、時計とけい塔とうのある西洋せいよう館かんにすんでいる園田そのだヨシ子こちゃんは、学校がっこうから帰かえって、自分じぶんの勉強べんきょうべやで宿題しゅくだいをやったあとで、双眼そうがん鏡きょうをもって、時計とけい塔とうにのぼりました。いちばん上うえは大だい時計とけいの機械きかい室しつですから、そのすぐ下したの部屋へやまでいって、窓まどから外そとのけしきをながめようと思おもったのです。

そこまでのぼりますと、林はやしをこして、お友ともだちの淡谷あわやスミ子こちゃんのおうちも見みえるのです。そこまでは三百さんびゃくメートルもへだたっていますが、双眼そうがん鏡きょうでのぞけば、どうかすると、スミ子こちゃんが、おうちの二に階かいから、こちらを見みていることがあります。

スミ子こちゃんも、双眼そうがん鏡きょうを持もっていますから、おたがいに双眼そうがん鏡きょうをのぞきあって、ハンカチをふって信号しんごうをして、話はなしあうことができるのです。ハンカチのふりかたで、いろいろないみをきめておいて、話はなしあうのです。

きょうも、スミ子こちゃんが、窓まどからこちらを見みていてくれればいいがと思おもいながら、塔とうの階段かいだんをのぼって、三さん階かいまでいきますと、だれか、人ひとのいるけはいがしました。

塔とうは、いちばん上うえの時計とけい室しつをいれて、五ご階かいですから、あと一いち階かいで、窓まどをのぞく部屋へやにいけるのですが、その一ひとつ下もとの三さん階かいに、だれかがいるようすなのです。

ヨシ子こちゃんが、階段かいだんから三さん階かいの部屋へやをのぞくと、なんだか、まっ赤かなものが、四よん階かいの階段かいだんのほうへ、スウッと消きえていったような気きがしました。

「アラッ、だれでしょう? おにいさまかしら。でも、おにいさまは、あんな服ふくなんか、きていないわ。」

そう思おもいながら、四よん階かいへの階段かいだんの下したまでいって、上うえを見みますと、その階段かいだんの上うえから、人ひとの顔かおがのぞいていました。

アッ、あの顔かおです。

見みおぼえのある、あのきみのわるい顔かおです。

赤白あかしろだんだらの、とんがり帽子ぼうしをかぶって、まっ白しろにおしろいをぬり、くちびるをまっ赤かにそめて、両方りょうほうのほおに、赤あかいまるをかいた、あの道化どうけ師しの顔かおです。

ヨシ子こちゃんは、ゾウッとして、身みうごきもできなくなりました。叫さけぼうとしても、声こえが出でないのです。

道化どうけ師しの顔かおは、ヨシ子こちゃんを見みて、にやりと笑わらいましたが、そのまま、スウッと、階段かいだんの上うえから消きえていきました。

あいてが見みえなくなったので、ヨシ子こちゃんは、やっと、足あしが動うごくようになりました。夢中むちゅうで、三さん階かいから二に階かいへ、二に階かいから一いち階かいへと、階段かいだんをかけおりました。そして、廊下ろうかを走はしっていきますと、むこうからきた、にいさんの丈たけ吉きち君くんとぶっつかりました。

「おい、ヨシ子こ。どうしたんだ。まっ青さおな顔かおをして……。」

「アッ、おにいさま、たいへんよ。時計とけい塔とうに、道化どうけ師しがいるわ。ほら、このあいだスミ子こちゃんをさらっていった、あの道化どうけ師しとそっくりのやつよ。」

ヨシ子こちゃんは、息いきをきらせていうのでした。

「なんだって? あいつが時計とけい塔とうにいるんだって? よしッ、ぼくが見みてやる。」

丈たけ吉きち君くんは、そういって、いきなり階段かいだんのほうへかけだすのでした。

時計とけい塔とうは五ご階かいになっていて、四よん階かいまでは、ふつうの小こ部屋へやですが、いちばん上うえの五ご階かいは、部屋へやぜんたいが、大だい時計とけいの機械きかい室しつになっているのです。丈たけ吉きち君くんは、四よん階かいまでの部屋へやをみんなしらべましたが、道化どうけ師しのすがたはありません。きっと、五ご階かいの機械きかい室しつにかくれているのでしょう。

四よん階かいから五ご階かいへの階段かいだんを、そっと足音あしおとをしのばせてのぼっていき、階段かいだんの上うえから首くびをのばして機械きかい室しつをのぞいてみました。

そこは、部屋へやぜんたいが、時計とけいの機械きかいでいっぱいになっています。柱はしらかけの時計とけいの機械きかいを、何千なんぜん倍ばいにしたような、大おおきな歯車はぐるまがかみあい、巨大きょだいなふりこが、ゆっくりとゆれていました。

今いまでしたら、電気でんきで動うごかすのですが、この大だい時計とけいは、ずっとむかしにできたものですから、鋼鉄こうてつのぜんまいの力ちからで動うごいているのです。ぜんまいといっても、びっくりするほどあつくて、はばのひろい、鋼鉄こうてつの板いたがまいてあって、それがほどけていく力ちからで、ふりこが動うごき、針はりが回まわるのです。

いちばん大おおきい歯車はぐるまは、さしわたし一いちメートルちかくもあります。それから、中なかくらいの歯車はぐるま、小ちいさい歯車はぐるまと、いろいろな形かたちの歯車はぐるまが、あるものは、はやく、あるものは、ゆっくりと、みんな生いきているように、動うごいているのです。

歯車はぐるまと歯車はぐるまのあいだには、すきまがありますので、そのすきまを、あちこちと見みていますと、チラッと、赤あかいものが動うごきました。

丈たけ吉きち君くんは、それを見みて、ドキッとしました。その赤あかいものは、道化どうけ師しの服ふくに、ちがいないからです。

息いきをころして、じっとしていますと、ちがったすきまから、また、赤あかいものが、チラッと見みえました。

「こらッ、そこにいるのは、だれだッ!」

丈たけ吉きち君くんは、思おもいきって、どなってみました。

しいんと、しずまりかえっています。あいても、息いきをころして、ようすをうかがっているのでしょう。

「だれだッ。こっちへ出でてこい。」

もういちど、どなってみました。しかし、なんの答こたえもありません。

ふつうの少年しょうねんでしたら、もう、こわくなって、逃にげだすところですが、丈たけ吉きち君くんはだいたんな少年しょうねんですから、逃にげだしません。あやしいやつをつかまえてやろうと、決心けっしんしたのです。

そっと階段かいだんをのぼりきって、機械きかい室しつにはいりました。そして歯車はぐるまと歯車はぐるまのすきまに目めをあてて、むこうをのぞいてみました。

歯車はぐるまが、いくえにもかさなりあっているので、ギザギザした、ごくせまいすきまです。

そのすきまのむこうが、なにかにおおわれて、暗くらくなっていました。じっと見みていますと、それが、ぱちぱちと、またたきをしたではありませんか。

人間にんげんの目めです。大おおきな目めがこちらを、にらんでいるのです。

丈たけ吉きち君くんは、ゾウッとしてしまいました。道化どうけ師しのほうでも、むこうから、丈たけ吉きち君くんをのぞいているらしいのです。

おたがいに、しばらくのあいだ、にらみあったまま、じっとしていましたが、道化どうけ師しのほうが、スウッと、すきまからはなれていきました。

どこかへ、逃にげるつもりかもしれません。

丈たけ吉きち君くんは、勇気ゆうきをふるって、歯車はぐるまのむこうがわへ回まわっていきました。

その部屋へやは歯車はぐるまでいっぱいになっていましたが、すみのほうに、人間にんげんのとおれるほどの通路つうろがあるのです。

回まわっていって、歯車はぐるまのかどから、そっと、むこうがわをのぞいてみました。

だれもいません。どこかへ、かくれてしまったのです。

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