← Library‹ 塔上の奇術師 文字ばんの穴

この部屋へやの外そとがわは、三さん方ほうが時計とけいの文字もじばんになっています。さしわたし五ご、六ろくメートルもある巨大きょだいな文字もじばんが、前ぜん、右みぎ、左ひだりと、三さん方ほうにあって、それぞれ、長針ちょうしんと短針たんしんが、回まわっているのです。

ですから、その時計とけいの針はりのしんぼうも、三さん方ほうにつき出だしています。機械きかい室しつではそのしんぼうが、おとなのせいの高たかさくらいのところに、よこたわっているのです。

そのしんぼうより下したの、八はち時じと四よん時じの数字すうじの近ちかくに、ふたつのまるい窓まどのような穴あながあります。大だい時計とけいには、そんな穴あなは、べつにひつようはないのですが、柱はしら時計とけいの文字もじばんのねじをまく穴あなににせて、そんな穴あながあけてあるのです。また、その穴あなは、ちょうど、人間にんげんのあたまが出でるほどの大おおきさですから、外そとをのぞく窓まどのかわりにもなっているわけです。

道化どうけ師しは、さっき、その文字もじばんのうらがわと、歯車はぐるまの機械きかいのあいだに立たって歯車はぐるまのすきまをのぞいていたのですが、いま見みると、そこにはもう、かげも形かたちもありません。

「アハハハハ……、おい、丈たけ吉きち君くん、おれがどこにいるか、わかるかね。アハハハハ……。」

どこからか、きみのわるい笑わらい声ごえが、ひびいてきました。

どこでしょう? 丈たけ吉きち君くんは、しばらく耳みみをすまして、考かんがえていましたが、二にどとその声こえは、聞きこえてきません。

「ひょっとしたら、文字もじばんの外そとへ出でたのかもしれないぞ。」

丈たけ吉きち君くんは、ふと、そう思おもいました。ふたつの穴あなは、おとなが出ではいりするほど大おおきくはありませんが、あいては魔法まほうつかいみたいなやつです。どこかから、文字もじばんの外そとへ、出でていないとはいえません。

丈たけ吉きち君くんは、それをたしかめるために、四よん時じに近ちかいほうのまるい穴あなから首くびを出だして、そのへんを見みまわしました。

五ご階かいから見みおろすのですから、そのながめは、気きもはればれとするようです。

目めの下したに、いつか淡谷あわやスミ子こちゃんのさらわれた林はやしがあり、そのむこうに家々いえいえの屋根やねが、ズウッとならんでいます。

そこに、スミ子こちゃんのおうちもあるのです。

はるかに、デパートかなんかの、大おおきなビルディングが見みえ、そのむこうの雲くもの中なかに、富士ふじ山やまがくっきりと、美うつくしいすがたを見みせていました。

しかし、文字もじばんの外そとにも、道化どうけ師しはいません。塔とうの外そとがわをつたっておりていったのかと、下したを見みましたが、そこには、目めがくらくらするような、れんがの壁かべがそそり立たっているばかりで、あやしいものは、なにもみあたらないのです。

その時ときです!

その時とき、なんだか、へんなことがおこりました。丈たけ吉きち君くんの首くびの上うえから、なにか、かたいものが落おちてきて、ぐっとおさえつけたのです。

びっくりして、首くびをひこうとしましたが、もうだめでした。そのかたいものがじゃまをして、首くびを穴あなからもどすことが、できなくなってしまったのです。

穴あなは手てが出だせるほどひろくありませんので、手てでそのかたいものを、のけることもできません。

首くびをうんと上うえにあげて、おしもどそうとしましたが、かたいものは、びくともしません。そればかりか、じりり、じりりと、下したのほうへ、おりてくるのです。

ああ、わかりました。丈たけ吉きち君くんの首くびをおさえつけているのは、大だい時計とけいの長針ちょうしんだったのです。分ふんをきざむほうの長ながい針はりだったのです。

今いまは午後ごご三さん時じすぎですから、長ながいほうの針はりが、二十にじゅう二に、三さん分ぶんのところまでおりてきたのでしょう。そのころに、ちょうど、丈たけ吉きち君くんののぞいている穴あなの前まえを、長針ちょうしんがとおるわけです。

時計とけいの針はりといっても、長ながさ二にメートル半はん、はばは三十さんじゅうセンチもある、頑丈がんじょうな鉄てつの板いたですから、丈たけ吉きち君くんの力ちからでは、とても、おしもどすことはできません。

大だい時計とけいのふりこが、ひとふりするごとに、巨大きょだいな歯車はぐるまじかけで、その針はりは、じりッ、じりッと、下したへおりてくるのです。

この長針ちょうしんが穴あなをとおりすぎるのには、二に分ふんほどかかるでしょう。そのあいだ、長針ちょうしんの鉄てつの板いたはゆっくりと、しかし、まちがいなく下したにおりて、丈たけ吉きち君くんの首くびにくいこみ、二に分ぶんののちには、首くびをきりおとしてしまうでしょう。

そこまで考かんがえると、丈たけ吉きち君くんは、ギョッとして、まっ青さおになりました。そして、力ちからいっぱいの声こえをふりしぼって叫さけぶのでした。

「助たすけてくれえ……助たすけてくれえ……。時計とけいの針はりにはさまれたんだよう……、助たすけてくれえ……。」

うしろの機械きかい室しつには、道化どうけ師しがまだかくれているかもしれません。しかし、あいつが、助たすけてくれるでしょうか。

時計とけいをとめて、針はりのしんぼうの歯車はぐるまを、ぎゃくに回まわしてくれれば、助たすかるのですが、そんなことをやってくれるはずはありません。

いや、それどころか、あいつは、丈たけ吉きち君くんが、穴あなから首くびを出だすのを、待まちかまえていて、わざと、時計とけいの針はりを、丈たけ吉きち君くんの首くびの上うえへ、まわしたのかもしれません。

丈たけ吉きち君くんは、あまりの恐おそろしさに、気きもとおくなる思おもいでした。

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