← Library‹ 塔上の奇術師 宝石ばこ

その日ひおうちにかえると、スミ子こちゃんもトシ子こちゃんも、それぞれ、おとうさんに、時計とけい塔とうのこうもり男おとこの話はなしをしましたが、そんなばかなことがあるものか、きっと避雷ひらい針はりの修繕しゅうぜんをしている電気でんき屋やさんかなにかを、そんなふうに見みまちがえたのだろうと、とりあってくださいませんでした。

マユミさんも、明智あけち探偵たんていに、それを話はなしました。明智あけち探偵たんていは、マユミさんが見みまちがえなんかするはずはないとおもいましたので、すぐに、友ともだちの警視けいし庁ちょうの中村なかむら警部けいぶに、このことをしらせました。そこであくる日ひ、中村なかむら警部けいぶは、土地とちの警察けいさつ署しょに、時計とけいやしきをしらべさせましたが、べつにあやしいこともなかったという、報告ほうこくがきました。

それからなにごともなく、一いち月がつほどたちました。

そのある日ひのこと、淡谷あわやスミ子こちゃんのおとうさんの、淡谷あわや庄二郎しょうじろうさんは、ひとりの書生しょせいをつれて、自動じどう車しゃで、丸まるノ内うちの三菱みつびし銀行ぎんこうの金庫きんこから、ふろしきにつつんだ、小ちいさいはこを取とり出だして、おうちへ帰かえりました。それは、ひじょうにだいじなものなので、いつも銀行ぎんこうの金庫きんこにあずけてあったのです。

淡谷あわや庄二郎しょうじろうさんは、大おおきな会社かいしゃの社長しゃちょうさんで、たいへんなお金持かねもちでしたが、たった一ひとつのどうらくは、宝石ほうせきをあつめることでした。

いまでは何千なんぜん万まん円えんという宝石ほうせきをもっているのですが、うちにおいてはあぶないので、三菱みつびし銀行ぎんこうの地下ちかの大だい金庫きんこの中なかにあずけてあるのです。

きょうは、ぜひ宝石ほうせきを見みせてほしいという、ふたりのお友ともだちが、淡谷あわやさんのうちへくることになっていましたので、わざわざ、銀行ぎんこうへ取とりにいったのです。しかし、とちゅうでぬすまれてはたいへんですから、書生しょせいをつれて、じぶんの自動じどう車しゃで、宝石ほうせきばこのつつみを、取とり出だしてきたわけです。

宝石ほうせきを見みたいというお友ともだちは、ふたりとも、取引とりひき先さきのりっぱな会社かいしゃの重役じゅうやくですから、すこしも心配しんぱいはありません。

ばんには、ごちそうをして、それから宝石ほうせきを見みせることになっていました。

スミ子こちゃんも、おかあさんといっしょに、ごちそうのテーブルに、ならぶことになっていました。

淡谷あわやさんが、宝石ほうせきばこを持もって、自動じどう車しゃで帰かえってからしばらくしたころ、スミ子こちゃんは、近ちかくの本屋ほんやさんへ本ほんを取とりにいって帰かえってきました。そして、門もんをはいって、げんかんのほうへ歩あるきながら、ふと、屋根やねの上うえに目めをやりますと、そこに、恐おそろしいもののすがたが見みえたのです。

もう日ひがしずんで、空そらは暗くらくなっていましたが、まだ、まったく夜よるになっているわけではありませんから、屋根やねの上うえも、ぼんやりと見みえるのですが、そのうす暗ぐらい二に階かいの屋根やねのてっぺんに、黒くろいものが、ヌウッと立たっていたのです。

アッと思おもってたちどまると、そのあやしいすがたは、たちまち、屋根やねのむこうに消きえてしまったので、チラッと見みたばかりですが、スミ子こちゃんには、ひと目めでわかりました。

それは、一いち月がつほどまえ、あの時計とけい塔とうの屋根やねに、黒くろいマントをひらひらさせていた、こうもり男おとことそっくりのすがただったではありませんか。

屋根やねのむこうへ消きえるときに、こうもりの羽根はねのようなマントが、パッと、ひるがえるのが見みえたのです。顔かおは、暗くらくてよくわかりませんでしたが、黒くろいめがねをかけていたようですし、ふさふさした髪かみの毛けのあいだから、二に本ほんの角かどがのぞいていたように思おもわれました。

スミ子こちゃんは、夢中むちゅうでおうちにかけこんで、おとうさんやおかあさんに、そのことを知しらせましたが、おとうさんは、

「スミ子こは、本ほんを読よみすぎるのじゃないか。こわい小説しょうせつなんか、読よんではいけないよ。ありもしないまぼろしを、見みたりするようになるからね。」

といって、いっこう、ほんきになさらないのでした。

「スミ子こちゃんは、このごろ、なんだかノイローゼ(しんけいすいじゃく)みたいね。顔色かおいろもよくないわ。あんまり本ほんを読よまないでね。」

おかあさんも、おなじことを、おっしゃるのです。

まもなく、ふたりのお客きゃくさまがこられて、食堂しょくどうで、ばんごはんがはじまりました。

スミ子こちゃんも、そのテーブルにつきましたが、心配しんぱいで心配しんぱいで、おいしいごちそうも、のどをとおらないほどでした。

ばんごはんがすむと、お客きゃくさまを洋室ようしつの書斎しょさいにとおして、そこで宝石ほうせきをお見みせすることになりました。スミ子こちゃんも心配しんぱいなものですから、おとうさんのそばで、宝石ほうせきばこがひらかれるのを、ジッと見みていました。

むらさきの色いろの、ちりめんのふろしきにつつんだものを、テーブルの上うえにおいて、それをときますと、中なかから、四角しかくな白しろビロードのはこが出でてきました。

淡谷あわやさんは、かぎたばを取とり出だし、一ひとつのかぎをえらんで、そのビロードのはこの錠じょうをはずし、ふたをとりました。

ビロードのはこの中なかに、もう一ひとつ、ピカピカ光ひかる黄金おうごんの宝石ほうせきばこがはいっていました。そして、それにも、錠じょうがおろしてあるのです。

淡谷あわやさんは、その黄金おうごんの宝石ほうせきばこを、だいじそうに、両手りょうてでテーブルの上うえに取とり出だし、べつのかぎで、ふたをひらきました。

「まあ、きれい!」

スミ子こちゃんは、まえに二に、三さん度ど見みたことがあるのですが、でも、見みるたびに、おどろきの叫さけび声ごえをたてないではいられませんでした。

黄金おうごんの宝石ほうせきばこの中なかには、黒くろビロードの台座だいざがあって、そこに、二十にじゅう四よん個この色いろさまざまな宝石ほうせきが、はめこんであるのです。

五色しきにちかちか光ひかるダイヤモンド、まっ赤かなルビー、青あおっぽく光ひかるサファイア、エメラルド、そのほか、スミ子こちゃんの名なもしらぬ宝石ほうせきが、ずらっとならんでいるのでした。

「ほほう、これはすばらしい。」

お客きゃくさまも、おもわず声こえをたてて、宝石ほうせきばこに見みいっています。

淡谷あわやさんは、その宝石ほうせきを、ひとつひとつ取とり出だして、それを手てにいれるまでの苦心くしん談だんをなさるのでした。

宝石ほうせきを見みるのに三十さんじゅう分ふんほどもかかりましたが、そのなかばごろから、スミ子こちゃんは、また、心配しんぱいでたまらなくなってきました。

さっき、屋根やねの上うえに立たっていたこうもり男おとこは、どこにいるのでしょう。うちの中なかへしのびこんで、どこかのすきまから、この部屋へやの中なかをのぞいているのではないでしょうか。

スミ子こちゃんは、おもわずあたりを見みまわしました。そして、庭にわに面めんしたガラス窓まどのほうを見みたかとおもうと、

「アラッ!」

と叫さけんで、立たちあがりました。顔色かおいろは、まっ青さおです。

「アッ、スミ子こ、どうしたんだ。きぶんがわるいのか?」

おとうさんがびっくりして、スミ子こちゃんを、だきかかえるようにしました。

スミ子こちゃんは、いったいなにを見みたのでしょう?

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