← Library‹ 塔上の奇術師 恐ろしい電話

窓まどの外そとの、まっ暗くらな庭にわに、なんだか、みょうなものが動うごいていたのです。

やみの中なかに、まっ黒くろなやつがいるのですから、はっきりは見みえませんが、でも、たしかにあいつです。きょうの夕ゆうがた、おうちの屋根やねの上うえに立たっていた、あの恐おそろしいこうもり男おとこにちがいありません。

ぴったり身みについた黒くろいシャツをきて、こうもりの羽根はねのような黒くろいマントを両方りょうほうにひろげ、黒くろめがねをかけた顔かおが、ぼんやりと、白しろく見みえています。

それを見みたスミ子こちゃんは、まっ青さおになって、よろよろとたおれそうになったので、おとうさんの淡谷あわやさんはびっくりしてかけより、スミ子こちゃんを、両手りょうてでだくようにしました。

「どうしたんだ。しっかりしなさい。」

「あそこに……。」

スミ子こちゃんは、窓まどの外そとの暗くらやみを指ゆびさしました。

「なにもいやしないじゃないか。いったい、なにがいたというの?」

おとうさんは、窓まどガラスの外そとの暗くらやみを、じっとすかして見みていましたが、べつにあやしいものもいないのです。

こうもり男おとこは、とっさに、庭にわの木きのしげみに、身みをかくしてしまったのかもしれません。

「夕ゆうがた、うちの屋根やねの上うえに立たっていたあれよ。こうもりみたいな人ひとよ。いま、あの木きの前まえで、黒くろい羽根はねをひろげていたのよ。」

スミ子こちゃんは、おびえきった声こえで、ささやくようにいうのでした。

「なにをいっているんだ。だれもいやしないじゃないか。スミ子こは、まぼろしを見みたんだよ。こうもりのような男おとこが、この世よにいるはずはない。気きのせいだよ。さあ、こっちへおいで。」

おとうさんは、そういって、スミ子こちゃんを、テーブルのほうへつれもどしました。

そうはいうものの、淡谷あわやさんも、泥坊どろぼうが宝石ほうせきをねらっているのかもしれないと思おもうと、すこし心配しんぱいになってきましたので、いそいで宝石ほうせきばこにかぎをかけ、書斎しょさいの金庫きんこの中なかへしまって、金庫きんこの暗号あんごうのかぎをまわしました。

暗号あんごうのかぎというのは、金庫きんこのとびらにダイヤルがついていて、そのダイヤルのまわりに、ABCからXYZまでの、二十にじゅう六ろく字じがきざみこんであり、それを自分じぶんだけ知しっている順序じゅんじょで回まわしておいて、そのつぎひらくときにも、そのとおりに回まわさないと、ひらかないしかけになっているのです。

淡谷あわやさんの暗号あんごうは、SUMI(スミ)というのでした。かわいいスミ子こちゃんの名なを暗号あんごうにしていたのです。

淡谷あわやさんは、S、U、M、Iという順序じゅんじょで、ダイヤルを回まわしておいて、もとの席せきにもどりました。

ふたりのお客きゃくさまは、それからしばらく話はなしをしたあとで、いとまをつげて帰かえりましたが、淡谷あわやさんはなんとなく気きになるので、金庫きんこのある書斎しょさいにのこって、安楽あんらくいすにこしかけ、たばこをすっていました。

すると、部屋へやのすみにおいてある電話でんわのベルが、けたたましくなりだしたではありませんか。

淡谷あわやさんはなぜか、ハッとしたように立たっていって、受話じゅわ器きを耳みみにあてました。

「淡谷あわや庄二郎しょうじろうさんは、おいでになりますか。」

「わたしが淡谷あわや庄二郎しょうじろうです。あなたは?」

「おじょうさんのスミ子こちゃんの、おしりあいのものです。こうもりのような男おとことおっしゃれば、スミ子こちゃんには分わかりますよ。」

淡谷あわやさんの顔色かおいろが、サッとかわりました。ああ、やっぱり、スミ子こちゃんのいったことは、ほんとうだったのかと思おもうと、にわかに、きみがわるくなってきました。

「き、きみはだれだッ。わたしになんの用事ようじがあるのだッ。」

「用事ようじはほかでもありません。あなたがだいじにしている、二十にじゅう四よん個この宝石ほうせきがいただきたいのです。むろん、あなたは、それをくれるはずはありません。ですから、ぼくがかってに持もち出だすのですよ。びっくりなさるといけないから、まえもってお知しらせしておきます。時間じかんもきめておきましょう。あすの夜よるの十じゅう時じまでに、きっとちょうだいします。

いくら、厳重げんじゅうに見みはっていても、だめですよ。銀行ぎんこうの金庫きんこにあずけるのも、危険きけんです。それをはこぶ途中とちゅうがあぶないですからね。まあ、せいぜい用心ようじんしてください。だが、いくら用心ようじんしても、だめですよ。ぼくは、魔法まほうつかいですからね。」

「わかった。きみは予告よこくの盗賊とうぞくというわけだね。だが、いったいきみはだれだ。予告よこくするほどの勇気ゆうきがあるなら、名なまえをいってもいいだろう。だいいち、名なもなのらないというのは、礼儀れいぎではなかろう。」

「ぼくの名なが聞ききたいのですか。」

「うん、聞ききたい。」

「聞きかなければよかったと、こうかいするかもしれませんよ。」

「なにをばかなことをいっているのだ。さあ、名なのりたまえ。」

「じゃあ。名なのりましょう。びっくりしないように気きをおちつけて聞きいてください。ぼくはね、カイジン、シジュウメンソウです。

ハハハハ……、そうらごらんなさい。あなたは、びっくりして、口くちもきけないじゃありませんか。……では、あすの晩ばんの十じゅう時じですよ。さようなら。」

そして、電話でんわはぷっつり切きれてしまいました。

残念ざんねんながら淡谷あわやさんが、びっくりして口くちもきけなかったのは、ほんとうです。ああ、なんということでしょう。あの恐おそろしい怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうから、電話でんわがかかってきたのです。

四十よんじゅう面相めんそうのもとの名なは、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうでした。予告よこくをしたら、かならずそのとおりにやってのける、魔法まほうの賊ぞくです。この怪物かいぶつとたたかってひけをとらない人物じんぶつは、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうただひとりでした。

淡谷あわやさんは、まえに、明智あけち探偵たんていに事件じけんをたのんだことがあるので、明智あけちとはしりあいです。すぐに明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの電話でんわ番号ばんごうをしらべて、ダイヤルを回まわしました。

むこうの電話でんわ口くちに出でたのは、小林こばやし少年しょうねんでした。

「ぼく、助手じょしゅの小林こばやしです。明智あけち先生せんせいは、神戸こうべに事件じけんがあって、旅行りょこう中ちゅうです。五いつ日かほど東京とうきょうへは帰かえりません。どんなご用ようでしょうか。なんでしたら、ぼくがおうかがいしてもいいのですが……。」

それを聞きくと、淡谷あわやさんはがっかりしましたが、小林こばやしという少年しょうねんも、なかなかうでききだと聞きいていましたので、ともかく小林こばやし君くんに来きてもらうことにしました。

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