← Library‹ 塔上の奇術師 6・5・4

あくる朝あさ、ヨシ子こちゃんは、おとうさんやおかあさんに夕ゆうべのことを話はなしましたが、やっぱり夢ゆめを見みたんだろうといって、とりあってくださいませんでした。しかし、ヨシ子こちゃんは、あれが夢ゆめだとは、どうしても思おもえないのです。

「九きゅう月がつ二十はつ日か。」というささやき声ごえが、耳みみについてはなれません。

その日ひの夕ゆうがた、ヨシ子こちゃんは、おふろにはいりました。おふろの前まえの脱衣だつい室しつで、服ふくをぬごうとして、ひょいと鏡かがみを見みますと、そこに、恐おそろしいものがあったのです。

脱衣だつい室しつの壁かべに、大おおきな鏡かがみがはめこみになっていました。その鏡かがみに、はくぼくで、大おおきな6という数字すうじが書かいてあったではありませんか。

だれかがいたずら書がきしたと思おもえば、なんでもないのですが、ヨシ子こちゃんは、その6という数字すうじを見みたとたんに、パッと、恐おそろしい意味いみを感かんじたのです。

夕ゆうべの白しろい幽霊ゆうれいは、「九きゅう月がつ二十はつ日かは、こんやから七なな日かだよ。」といいました。そのあくる日ひのきょうからは、あと六むい日かしかありません。6という数字すうじは「もうあと六むい日かだよ。」といういみでしょうか。

きっと、あの幽霊ゆうれいが書かいていったのです。うちには、鏡かがみにいたずら書がきする人ひとなんかいるはずがないからです。

そのつぎの日ひにも、また数字すうじがあらわれました。

ヨシ子こちゃんが庭にわであそんでいますと、よく晴はれた空そらから、まっ赤かなゴム風船ふうせんが、ふわふわと落おちてきました。

どこかで、風船ふうせんの糸いとがきれて、空そらへ飛とびあがったのが、だんだんガスがぬけて、落おちてきたのでしょう。

やがて、その風船ふうせんは、十じゅうメートルほどむこうの草くさの中なかへ落おちて、ふわふわとただよっています。

ヨシ子こちゃんは、そこへいって、風船ふうせんを手てにとりましたが、なぜかそのまま、パッとはなしてしまいました。

そして、まるでお化ばけでも見みたような、まっ青さおな顔かおになって、おうちの中なかへかけこむのでした。

ヨシ子こちゃんは、なぜ、そんなにおどろいたのでしょう。それは、その赤あかい風船ふうせんに、白しろい絵えの具ぐで、5という数字すうじが、大おおきく書かいてあったからです。

むろん、「もうあと五いつ日かしかないぞ。」といういみです。

またそのつぎの日ひには、ヨシ子こちゃんが、西洋せいよう館かんの入口いりぐちのポーチにいますと、かい犬いぬのエスが、なにかを口くちにくわえて、ヨシ子こちゃんの前まえにやってきました。

口くちにくわえているのは、四角しかくいボール紙しでした。なにをひろってきたのかと、そのボール紙しをとって見みますと、そこにまた、4という数字すうじが、すみで黒くろぐろと書かいてあるではありませんか。

ヨシ子こちゃんは、「アッ。」と叫さけんだまま、ボール紙しをすてて、おうちの中なかにかけこみました。そして、おとうさんに、このことを知しらせました。

「あと四よん日かっていう意味いみよ。おとといは6で、きのうは5で、きょうは4でしょう。あの白しろい幽霊ゆうれいが、のこりの日ひをしらせてくるんだわ。あたし、どうしましょう。こわいわ。」

こんなにふしぎなできごとがつづいては、おとうさんも考かんがえなおさないわけにはいきませんでした。

そこで、おかあさんや丈たけ吉きち君くんをよんで、相談そうだんしましたが、やっぱり明智あけち探偵たんていにたのむことに、話はなしがきまりました。

そこで明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへ電話でんわをかけますと、明智あけちは仙台せんだいに事件じけんがあって、きょう出でかけたところだというので、先生せんせいにかわって、小林こばやし少年しょうねんがやってくることになりました。

園田そのださんも、丈たけ吉きち君くんも、ヨシ子こちゃんも、有名ゆうめいな少年しょうねん探偵たんてい小林こばやし君くんの顔かおを見みるのは、はじめてでした。応接おうせつ間かんにとおして、みんなであいましたが、かわいらしい顔かおをした少年しょうねん探偵たんていは、事件じけんのこととなると、まるでおとなのように、てきぱきと口くちをきくのでした。

「ヨシ子こちゃんの見みた白しろい幽霊ゆうれいというのは、ほんとうだったかもしれませんね。しかし、それは幽霊ゆうれいではありませんよ。人間にんげんが白しろいものをかぶって、幽霊ゆうれいに見みせかけたのにちがいありません。」

小林こばやし少年しょうねんが、自分じぶんの考かんがえをのべました。

「しかし、だれがそんないたずらをするのでしょう。ヨシ子しは人ひとに、にくまれるような子こじゃないのですがね。」

園田そのださんが、ふしぎそうにいいます。

「いや、ヨシ子こちゃんがにくまれているのじゃなくて、もっとほかのわけがあるのでしょう。このあいだ丈たけ吉きち君くんをひどいめにあわせた道化どうけ師しは、四十よんじゅう面相めんそうだったというじゃありませんか。こんどの白しろい幽霊ゆうれいも、四十よんじゅう面相めんそうが化ばけているのかもしれませんね。」

小林こばやし君くんのことばに、園田そのださんもうなずいて、

「わたしも、そうではないかと思おもう。だが、なぜヨシ子こをおどかすのか、九きゅう月がつ二十はつ日かがどういう日ひなのか、それがすこしもわからない。小林こばやし君くんは、これをどう考かんがえますか。」

「それはぼくにもわかりません。しかし、園田そのださんのおうちには、なにか、四十よんじゅう面相めんそうのほしがるような美術びじゅつ品ひんがあるのじゃありませんか。あいつは美術びじゅつ品ひんばかりねらっているのですし、それをぬすみ出だす日ひを予告よこくするくせがありますからね。」

「いや、わたしのうちには、四十よんじゅう面相めんそうにねらわれるような、たいした美術びじゅつ品ひんはありません。だからふしぎでしょうがないのですよ。」

「そうですか。すると、もっとべつのわけがあるのですね。ぼくはそれをしらべたいと思おもいます。それから、ヨシ子こちゃんも、まもらなければなりませんしね。……園田そのださん、ぼくを九きゅう月がつ二十はつ日かまで、おうちへおいてくださいませんか。じゅうぶん、見みはり役やくをつとめますよ。

そして、いざというときには、警視けいし庁ちょうの中村なかむら警部けいぶに連絡れんらくすればいいのですし、そのほか、少年しょうねん探偵たんてい団だんやチンピラ隊たいを、うごかすこともできますから、この事件じけんは、明智あけち先生せんせいが帰かえられるまで、ぼくに、おまかせくださってはいかがでしょうか。」

じつにしっかりした申もうし出でです。園田そのださんも感心かんしんして、小林こばやし少年しょうねんに、いっさいをまかせることにしました。

それから、小林こばやし少年しょうねんは、古城こじょうのような園田そのださんの西洋せいよう館かんと時計とけい塔とうを、すみからすみまでしらべましたが、これという発見はっけんもありませんでした。

夜よるになると、丈たけ吉きち君くんの寝室しんしつへ、ヨシ子こちゃんのベッドもはこびいれて、ふたりをその部屋へやに寝ねかせ、小林こばやし君くんは、ヨシ子こちゃんの寝室しんしつへ、べつのベッドを入いれてやすむことにしました。となりあった部屋へやですから、なにかあやしいことがおこれば、すぐにかけつけられるわけです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%