← Library‹ 塔上の奇術師 3・2・1

小林こばやし少年しょうねんが園田そのだ家かにとまりこんだ、あくる朝あさ七しち時じごろのことです。

小林こばやし君くんが目めをさまして、ベッドの中なかでぼんやりしていますと、となりの部屋へやから、「キャアッ。」という、ひめいが聞きこえてきました。たしかに、ヨシ子こちゃんの声こえです。

小林こばやし君くんは、ベッドをとびおりて、パジャマのまま、となりの部屋へやへかけこみました。

ヨシ子こちゃんがひどいめにあっているのではないかと、心配しんぱいしましたが、そんなようすはありません。

ヨシ子こちゃんも、丈たけ吉きち君くんも、ベッドの上うえにおきなおって、まっ青さおな顔かおになって、なにか話はなしあっているのです。

「どうしたんです。いま、さけんだのは、ヨシ子こちゃんでしょう。」

小林こばやし君くんが声こえをかけますと、丈たけ吉きち君くんがこちらをむいて、

「また、へんなことがおこったのですよ。ヨシ子この手てのひらに、3という数字すうじが筆ふでで書かいてあるのです。ぼくらが、寝ねているあいだに、なにものかがしのびこんで、書かいていったのにちがいありません。」

そういって、ヨシ子こちゃんに左ひだりのてのひらを出ださせて、小林こばやし君くんに見みせるのでした。

ふたりの寝室しんしつのドアには、かぎはかかっていませんから、だれかが、しのびこもうと思おもえばしのびこめるのですが、そんないたずらをする人間にんげんが、園田そのださんのうちにいるはずはありませんから、くせものは、外そとからしのびこんだと考かんがえるほかはないのです。

ところが、夜よるはすっかり戸とじまりがしてありますから、それをやぶらなければ外そとからははいれません。あとで、よくしらべてみましたが、戸とじまりの、ふじゅうぶんなところや、外そとからやぶられたところなど、ひとつもないことがわかりました。

いったい、くせものは、どこからはいって、どこから出でていったのでしょうか。

園田そのださんは、いよいよ心配しんぱいになってきましたので、つぎのばんから、ヨシ子こちゃんと丈たけ吉きち君くんを、一いち階かいの園田そのださんの寝室しんしつへ、いっしょに寝ねさせることにしました。そして、その両りょうがわの部屋へやを、小林こばやし少年しょうねんと書生しょせいの寝室しんしつにして、いざというときの用心ようじんをしました。

そのばん八はち時じごろのことです。小林こばやし少年しょうねんは、寝ねるまえに、たてものの外そとをひとまわりしておこうと、まっ暗くらな庭にわを、しずかに歩あるいていました。

ぐるっと回まわって、時計とけい塔とうのよこに出でました。五ご階かいだての時計とけい塔とうは、やみの空そらに、黒くろい巨人きょじんのようにそびえています。小林こばやし君くんは、じっと、それを見みあげました。

そのとき、じつに、ふしぎなことがおこったのです。

時計とけい塔とうの四よん階かいの壁かべが、ボウッと明あかるくなりました。どこかから、光ひかりがさしているのでしょう。さしわたし五ごメートルほどのまるい光ひかりが、幻灯げんとうのように、浮うきあがっています。

そして、その光ひかりの中なかにくっきりと、巨大きょだいな数字すうじが……2という数字すうじがうつっているではありませんか。

「あと二ふた日かしかないぞ。」

という、あの恐おそろしいしらせです。

小林こばやし君くんは、この巨大きょだいな幻灯げんとうのもとは、どこだろうと、あたりを見みまわしました。

どうも、この幻灯げんとう機械きかいは、塀へいの外そとの林はやしの中なかにすえつけてあるとしか、考かんがえられません。それをたしかめるために、小林こばやし君くんは、門もんを回まわって、塀へいの外そとへ出でようかと思おもいました。

ところが、そうして歩あるきかけた小林こばやし君くんの足あしを、くぎづけにするような、へんてこなことがおこったのです。

ごらんなさい。時計とけい塔とうのてっぺんの、避雷ひらい針はりの上うえで、白しろいものが、くるくる回まわっているではありませんか。

幻灯げんとうのまるい光ひかりが、そこを照てらしました。夜空よぞらにひらめくまっ白しろなもの。人間にんげんほどの大おおきさの、ふわふわした白しろいものが、風車かざぐるまのように、くるくる、くるくる、回まわっているのです。

小林こばやし君くんは、ふと、ヨシ子こちゃんの見みたという白しろい幽霊ゆうれいを思おもい出だしました。

「あいつは、あの幽霊ゆうれいじゃないだろうか。幽霊ゆうれいが、避雷ひらい針はりの上うえで、ぐるぐる回まわっているのじゃないだろうか。

いつかは、あの避雷ひらい針はりの上うえで、道化どうけ師しがぐるぐる回まわったことがある。あいつは回まわるのがすきだ。そして、そのあとでは、きっと、恐おそろしい事件じけんがおこるのだ。」

そんなことを考かんがえて、ふしぎな風車かざぐるまを見みあげていますと、白しろいものの回転かいてんが、だんだんゆるくなり、やがて、ぴったりとまりました。そして、その白しろい幽霊ゆうれいが、スウッと、こちらへ、とびついてきたではありませんか。

小林こばやし君くんは、ひじで顔かおをかばって、思おもわず、そこにしゃがみました。

目めも口くちもない、のっぺらぼうの白しろい幽霊ゆうれいは、しばいの幽霊ゆうれいとおなじ、長ながいしっぽをひいて、小林こばやし君くんのあたまの上うえを、おそろしいはやさで、塀へいの外そとへとびさっていきました。

小林こばやし君くんは、大おおいそぎで門もんを回まわって塀へいの外そとに出で、林はやしの中なかにはいっていって、あちこちとさがしましたが、白しろい幽霊ゆうれいも、幻灯げんとう機械きかいも、とうとう発見はっけんすることができませんでした。

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