← Library‹ 塔上の奇術師 時計塔の秘密

小林こばやし君くんは、その夜よるは園田そのだ家かにとまることになりましたが、一いち晩ばんじゅうまんじりともせず、考かんがえにふけっていました。

このあいだから、うちの中なかのほうぼうに数字すうじがあらわれたのですが、戸とじまりが厳重げんじゅうですから、外そとからはいってきていたずらをしたとは、どうしても考かんがえられません。ヨシ子こちゃんのにいさんの丈たけ吉きち君くんが、時計とけい塔とうでひどいめにあったときでも、あの道化どうけ師しは、ぜったいに、外そとへ逃にげることはできなかったのです。それでいて、時計とけい塔とうの中なかから、煙けむりのように消きえてしまいました。

いくら二十にじゅう面相めんそうが魔法まほうつかいでも、人間にんげんが煙けむりのように消きえられるはずはありません。これには、なにか秘密ひみつがあるのです。恐おそろしい秘密ひみつがあるのです。

小林こばやし君くんは、ヨシ子こちゃんたちのとなりの部屋へやのふとんの中なかで、天井てんじょうをにらみながら、いっしょうけんめいに考かんがえました。手品てじなの種たねはどこにかくされているのかと、そればかりを、二に時間じかんも三さん時間じかんも、頭あたまのいたくなるほど考かんがえつめるのでした。

(アッ、そうだ、壁かべのあつさだ。壁かべのあつさをわすれていた。夜よるがあけたら、すぐに、それをしらべてみよう。きっと、そうだ。きっと、そこに秘密ひみつがあるんだ。)

小林こばやし君くんは、思おもわずそんなひとりごとをつぶやきました。そして、やっと肩かたの重荷おもにをおろしたように眠ねむりにつくのでした。

そのあくる朝あさは早はやくおきて、顔かおをあらうと、ごはんのまえに、丈たけ吉きち君くんをよびだし、おとうさんから長ながいまき尺じゃく(長ながさをはかるテープ)をかりて、ふたりで、時計とけい塔とうの機械きかい室しつにのぼりました。

「丈たけ吉きち君くん、まず、この機械きかい室しつの内うちがわをはかってみよう。きみはこのまき尺さしのはしを持もって、壁かべのすみへあてていてくれたまえ。ぼくは、まき尺さしをズウッとのばして、こっちのすみまでの長ながさをはかるからね。」

そして、四方しほうの壁かべの長ながさをはかって、手帳てちょうに書かきとめると、つぎには、四よん階かいの壁かべをはかり、三さん階かい、二に階かい、一いち階かいと、時計とけい塔とうのぜんぶの部屋へやの壁かべの長ながさをはかりました。

「この時計とけい塔とうは、上うえのほうほど、せまくなっていないのだね。五ご階かいから一いち階かいまで、内うちがわのかべの長ながさは、おんなじだよ。さあ、こんどは塔とうの外そとがわだ。外そとがわも、上うえまでずっとまっすぐだから、一いち階かいの外そとをはかれば、五ご階かいまでおなじわけだよ。」

そこで、ふたりは塔とうの外そとに出でて、四方しほうの壁かべの長ながさをはかりました。それも手帳てちょうに書かきとめて、塔とうの内うちがわと、外そとがわの壁かべの長ながさをくらべてみますと、つぎのようになりました。

小林こばやし少年しょうねんは、丈たけ吉きち君くんにこの数字すうじをしめしながら、

「ほら、よくごらん。まず左ひだりのはじの『外そとがわ』のらんを見みると、東ひがし、西にし、南みなみ、北きたとも、みんな五ごメートル六ろく〇れいセンチで、塔とうの外そとがわは、まっ四角しかくだということがわかる。

ところが、内うちがわは、東ひがしと西にしが、四よんメートル三さん〇れいセンチで、南みなみと北きたが五ごメートルだから、七なな〇れいセンチもちがいがある。これを図ずにかくと、こんなふうになるよ。

いいかい、東ひがしと西にしと南みなみには、どの階きざはしにも、小ちいさな窓まどがついている。五ご階かいには窓まどはなくて、時計とけいの文字もじばんがついている。そして、北きたがわだけは、どの階きざはしにも窓まどがない。文字もじばんも、北きたがわにはついていない。ぜんぶ、壁かべなのだ。

窓まどのある東ひがし、西にし、南みなみの壁かべのあつさは、見みればわかるとおり、どれも三さん〇れいセンチぐらいだ。だから図ずにかくと、こんなふうになって、北きたがわの壁かべが、うんとあつくないと、計算けいさんがあわなくなる。いいかい、この図ずで、外そとがわの五ご・六ろくメートルから内うちがわの四よん・三さんメートルをひくと、一いち・三さんメートルのこる。ところが、そのうちの南みなみがわの壁かべのあつさは、三さん〇れいセンチなんだから、それをひいたのこりの一いちメートルが、北きたがわの壁かべのあつさということになる。」

「うん、そうだね。北きたがわの壁かべだけが、一いちメートルもあついんだね。へんだなあ。どうして、そんなにあつくしたんだろう?」

丈たけ吉きち君くんは、ふしぎそうに首くびをかしげるのでした。

「むかし、西洋せいようのお城しろなんかには、よく、こういうたてかたがあったのだよ。そのあつい壁かべの中なかには、秘密ひみつのぬけ穴あながあって、いざというときには、そこから逃にげだすしかけなんだよ。この時計とけいやしきも、西洋せいようのお城しろをまねて作つくったんだから、ぬけ穴あなまで、まねてあるのかもしれないよ。この西洋せいよう館かんをたてた丸伝まるでんという時計とけい屋やは、たいへんなかわりものだったというからね。」

小林こばやし君くんが説明せつめいしますと、丈たけ吉きち君くんもうなずいて、

「アッ、そうだ。そのぬけ穴あなを、四十よんじゅう面相めんそうのやつが使つかっているんだね。だから、時計とけい塔とうの中なかで消きえうせたように見みえたんだ。ヨシ子この手てのひらに数字すうじを書かいたのも、そのぬけ穴あなからしのびこんで、ぼくらの寝室しんしつへやってきたのだね。」

「そうだよ。いつかの晩ばん、ヨシ子こちゃんが見みた白しろい幽霊ゆうれいね、あれも四十よんじゅう面相めんそうが、大おおきな白しろいきれを頭あたまからかぶって、ぬけ穴あなからはいってきたのだよ。

それから、ぼくが庭にわで見みた白しろい幽霊ゆうれいも、おなじ四十よんじゅう面相めんそうで、そいつが塔とうの上うえから、スウッとおりてきて、塀へいの外そとへ消きえたのは、あの晩ばん、塔とうのてっぺんから塀へいの外そとまで黒くろい綱つながはってあって、四十よんじゅう面相めんそうはその綱つなをつたって、塀へいの外そとへ消きえてみせたのにちがいないよ。」

「ああ、そうだね。きっと、そうだよ。だが、そのぬけ穴あなの出入でいり口くちは、いったい、どこにあるんだろうね。」

丈たけ吉きち君くんがそこへ気きづいて、ふしぎそうにたずねるのでした。

「うん、それはね、ちょっと見みたのではわからないような、かくし戸とがあるにちがいないよ。それが、ひじょうにうまくできているので、ぼくたちには、まだ、さがしだせないだけさ。それでね、いまから、きみとぼくとで、そっと見みはりをすることにしよう。6から2までの数字すうじがあらわれたきりで、1という数字すうじはまだなんだから、あいつは、それをどこかへ書かくために、きょうじゅうに、きっと、しのびこんでくるよ。昼間ひるまか、夜よるか、わからないけれどね。だから、ぼくらは、いつまでもがまんして、見みはりをつづけるんだよ。

それは、ひとりではできない。ごはんをたべにいったり、便所べんじょへいったりするあいだ、もうひとりが、のこっていなければならないからね。それにはどうしても、ふたりいないとだめなんだよ。」

「うん、そうだね。じゃあ、どこで見みはりをしようか。」

「むろん、時計とけい塔とうの五ご階かいの機械きかい室しつだよ。あそこが、いちばんあやしい。さあ、すぐに機械きかい室しつへいって、ぼくたちのかくれ場所ばしょをさがそう。」

そして、ふたりは、時計とけい塔とうの五ご階かいへのぼっていきました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%