← Library‹ 透明怪人 怪老人

くらやみと言いっても、ドアのすきまからローソクの光ひかりがもれているので、物もののかたちが見みわけられないほどではありません。目めをこらすと、そこにヌーッと立たっていたのは、ひとりの老人ろうじんでした。

白しろいフサフサしたかみの毛け、胸むねまでたれた白しろひげ、コウモリのようなそでのある、みょうな黒くろい外がいとうをきています。ギロッと光ひかっているのは、四角しかくなガラスの、ふちなしメガネです。くらくて、よくはわからないけれど、そのメガネの中なかで、ほそい目めが、ニヤニヤ笑わらっているようでした。

この怪かい老人ろうじんと大友おおとも少年しょうねんとは、しばらくにらみあっていましたが、いつのまにか、老人ろうじんの手てが大友おおとも君くんの片手かたてを、グッと、にぎっていました。

「きみと、ちょっと話はなしがある。こちらへ来きたまえ。何なんも、こわいことはないよ。」

老人ろうじんは、あんがい、やさしい声こえで、言いいました。

「いやです。ぼく、もう帰かえります。はなしてください。」

大友おおとも君くんは、勇気ゆうきをふるって、やっと、それだけ言いいました。そして、いきなり、逃にげだそうとしましたが、老人ろうじんに手てをにぎられているので、どうすることもできません。ひどく力ちからのつよい老人ろうじんです。

「ハハハハハハ、けっして、逃にがさないよ。ここのひみつを見みたものは、二に度どとしゃばへは出でられないのだ。まあ、あきらめて、こちらへくるがいい、きみに見みせるものがある。話はなすことがある。」

老人ろうじんは、そう言いって、大友おおとも君くんの手てをにぎったまま、グングンおくのほうへ、あるいていきます。いくら、ふみこたえようとしても、老人ろうじんのほうが力ちからがつよいので、ズルズルと、ひっぱられるばかりです。

ギーッと音おとがして、板いたのドアがひらかれ、パッと赤あかい光ひかりがさしてきました。そこにもローソクが立たっていたのです。テーブルとイスが二ふたつ、そのほかには、なんのかざりもない小こ部屋へやです。かべはコンクリートで、できています。

「ここではない。まだおくに、ひみつの部屋へやがあるのだよ。」

老人ろうじんは大友おおとも君くんの手てをにぎったまま、一方いっぽうの手てをのばして、かべのどこかを、おしました。すると、そこに、ひみつのおしボタンでもあったのか、一方いっぽうのコンクリートのかべが、音おともたてないで、スーッと動うごきだし、そこに、人ひとの通とうれるほどの、すきまができました。かべのように見みえていたのが、じつは、厚あついコンクリートのドアだったのです。

老人ろうじんに手てをひかれて、そのすきまを、はいると、コンクリートのかべは、もとのとおりに、しまっていました。そこは、まっくらなトンネルのようなところです。そのトンネルを十じゅうメートルほど、すすむと、老人ろうじんはまた、かべのボタンをおしたらしく、正面しょうめんのドアがスーッとひらいて、そのむこうから、明あかるい光ひかりがさしてきました。

「さあ、ここがわしの研究けんきゅう室しつだ。ここでゆっくり話はなしをしよう。」

大友おおとも君くんはその部屋へやに、はいると、びっくりして、キョロキョロと、あたりを見みまわしました。防空ぼうくうごうのおくに、こんなりっぱな研究けんきゅう室しつができているなんて、夢ゆめにも考かんがえていなかったからです。

その部屋へやは十じゅう五ご畳じょうぐらいの広ひろさで、ゆかも、天井てんじょうも、まわりのかべも、コンクリートで、かためられ、いろいろな、ふしぎな道具どうぐが、部屋へやいっぱいに、ならべてあります。まず目めにつくのは、一方いっぽうのすみにある、外科げかの手術しゅじゅつ台だいのような、白しろくぬった金属きんぞくの台だいです。そのそばに、やはり白しろくぬった大おおきなガラス戸とだながあって、いくだんにもなったガラスのたなの上うえに、ピカピカ光ひかったナイフだとか、ハサミだとか、きみの悪わるい外科げか手術しゅじゅつの道具どうぐのようなものが、かぞえきれぬほど、ならんでいます。

また、一方いっぽうには、大おおきな台だいがあって、その上うえに、化学かがく実験じっけんにつかう、きみょうな形かたちをしたガラスビンのるいが、大おおきいのや小ちいさいのが、ゴタゴタとならんでいます。台だいの上うえにはアセチレン・ガスが、青あおいほのおをたてて、もえている上うえに、大おおきなまるいガラスビンがのせてあり、その中なかに、むらさき色いろの液体えきたいが、ブツブツとあわをたてて、わきたっています。

化学かがく実験じっけん台だいのわきには、大おおきな薬品やくひん戸とだながたち、色いろさまざまの薬くすりビンが、ズラッと、ならんでいます。そのほか、わけのわからぬ器械きかいが、部屋へやいっぱいに、おいてあって、なんだか、おそろしくなるほどでした。化学かがく実験じっけん台だいの上うえに、三さん本ほんだての西洋せいようしょくだいがおかれ、三さん本ほんの大おおきなローソクが、あかあかともえています。

「おどろいたかい。ハハハ……、まさか、地ちの底そこに、こんな研究けんきゅう室しつがあるとは、思おもわなかっただろう。しかし、この地下ちか室しつは、わしがつくったのではない。これは戦争せんそうのときに、陸軍りくぐんがつくった防空ぼうくうごうでね、こういうりっぱな秘密ひみつ室しつが、ちゃんとできていたのだ。この部屋へやは、司令しれい部ぶになるはずだった。そういうひみつを、だれも知しらないで、そのままになっていたのを、わしが、むだんで拝借はいしゃくしているというわけさ……。まあ、そのイスに、かけなさい。」

怪かい老人ろうじんは、そう言いって、自分じぶんも一方いっぽうのイスに腰こしをおろしました。明あかるい光ひかりで見みると、老人ろうじんの顔かおは、いよいよぶきみです。まっ白しろな頭あたま、まっ白しろな長ながいひげ、ワシのような高たかい鼻はな、四角しかくなふちなしメガネのおくに、ギロリと光ひかる、するどい目め、なんだか妖怪ようかい博士はかせとでも言いうような感かんじです。

「きみは、少年しょうねん探偵たんてい団だんの副ふく団長だんちょうの大友おおとも君くんだね。わしはちゃんと知しっているよ。自動じどう車しゃの屋根やねにのって、尾行びこうするとは、なかなか勇敢ゆうかんな少年しょうねんだ。その勇敢ゆうかんなところをみこんで、きみをわしの弟子でしにしてやろうと思おもうのだよ。ハハハ……、どうだ、うれしいかね。」

「おじさんは、だれですか。ぼくは、知しらない人ひとの弟子でしになることはできません。」

大友おおとも少年しょうねんは、もうすっかり、どきょうを、さだめていました。

「ハハハ……、わしかね。わしは世界せかい一いちの大だい科学かがく者しゃだ。わしは原子げんし爆弾ばくだんよりも、もっとどえらい発明はつめいをした。しかし、わしの発明はつめいは、まだ、だれも知しらない。もし知しったら、世界せかいじゅうが、わきかえるだろう。いや、あまりおそろしい発明はつめいなので、わしは殺ころされてしまうかもしれない。」

怪かい老人ろうじんは、とほうもないことを、言いいだしました。大友おおとも君くんは、この老人ろうじん、気きでもちがったのではないかと、きみが悪わるくなってきました。老人ろうじんは、いったい、どんな大だい発明はつめいをしたというのでしょう。

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