← Library‹ 透明怪人 透明怪人第四号

老人ろうじんのおそろしい話はなしが、つづきます。

「いま、せけんをさわがせている、あの透明とうめい怪人かいじんは、いったいなんだろう。あんな、ふしぎな人間にんげんが、しぜんに生うまれてきたと思おもうかね。むろん、生うまれたのではない。星ほしの世界せかいから飛とんできたのでもない。あれは、つくられたものだ。そして、あれを、つくったのは、このわしなのだ。」

大友おおとも少年しょうねんは、怪かい老人ろうじんのキラキラ光ひかる角かくメガネと、もの言いうたびに、ユラユラする白しろひげを、あっけにとられて、ながめていました。

「つくると言いっても、人間にんげんそのものを、つくるのではない。きみたちと同おなじ目めに見みえる人間にんげんのからだに、ある化学かがく的てき変化へんかをあたえると、からだぜんたいが、すきとおって、見みえなくなってしまうのだ。わしは三十さんじゅう年ねんのあいだ、苦心くしんに苦心くしんをかさねて、そういう変化へんかをあたえる薬品やくひんを発明はつめいしたのだよ。そして、さいしょの試作しさく品ひんとして、つくったのが、今いま、世間せけんをさわがせている透明とうめい怪人かいじん第だい一いち号ごうだ。

きみがのぞいた、あのパジャマをきたやつだ。島田しまだ君くんのうちから真珠しんじゅ塔とうをぬすみだしたやつだ。

わしは第だい三さん号ごうまで、つくった。つまり、三さん人にんの透明とうめい人間にんげんが、できているのだ。しかし、せけんにだしたのは第だい一いち号ごうだけで、第だい二に号ごうと第だい三さん号ごうは、まだ、わしの手てもとにおいてある。もうすこし、訓練くんれんをしなければならないのでね。そのふたりの透明とうめい怪人かいじんは、今いまもこの部屋へやにいる。どこにいるか、つくったわしにも見みえないが、この部屋へやにいることは、まちがいない。おい、二に号ごうはいるか、いたら返事へんじをしなさい。」

すると、部屋へやのむこうのほうから、「ハイ。」という返事へんじがしました。

「三さん号ごうはいるか。」

それにたいして、また、べつの方角ほうがくから、ちがった声こえが「ハイ。」とこたえました。

「どうだ、大友おおとも君くん、たしかにふたりいるだろう。しかし、すがたは、まったく見みえない。これではまだ、信用しんようできないかね。よし、それじゃあ、しょうこを見みせよう。二に号ごう、実験じっけん台だいの右みぎのはしにあるガラスビンを、薬品やくひんだなの上うえにのせなさい。」

老人ろうじんのことばが、おわるかおわらないうちに、その実験じっけん台だいの上うえのガラスビンが、スーッと宙ちゅうに浮うきあがりました。そして、グングン高たかく、あがっていって、そのビンは、薬品やくひんだなのいちばん上うえに、チョコンとのって、そのまま動うごかなくなりました。

たしかに、この部屋へやには目めに見みえない人間にんげんがいるのです。いったい、そんなことができるのでしょうか。薬くすりの力ちからで人間にんげんを、自由じゆう自在じざいに、すきとおらせ、見みえなくしてしまうなんて、そんなことができるものでしょうか。しかし、目めのまえに、しょうこを見みせられては、信しんじないわけにはいきません。大友おおとも君くんは、夢ゆめに夢ゆめみるここちでした。

「どうだね、わしの言いうことが、うそでないと、わかったかね。いままでに、つくったのは、たった三さん人にんだ。しかし、三さん人にんでおしまいではない。あいてさえしょうちすれば、百ひゃく人にんでも千せん人にんでも、いや、何なん万まん、何十なんじゅう万まんでも、透明とうめい人間にんげんができるのだよ。わかるかね、これが、どんなにおそろしいことだか、わかるかね。

十じゅう万まん人にんの透明とうめい人間にんげんがあれば、世界せかいじゅうを敵てきにまわしてでもまけやしない。こちらは目めに見みえない人間にんげんだから、どんなところへでも、はいれる。どんなひみつでも、さぐりだせる。ところが、あいてのほうでは、透明とうめい人間にんげんを攻せめようとしたって、攻せめることができない。とらえようとしても、とらえることができない。それがひとりでなくて、十じゅう万まん人にんとなれば、世界せかいの何なん億おく人にんにも対抗たいこうできる。人類じんるいにとって、こんなおそろしいことがあるだろうか。

原子げんし爆弾ばくだんいじょうの大だい発明はつめいというのは、このことだよ。わしの発明はつめいによって、世界せかいが一変いっぺんするのだ。戦争せんそうができなくなってしまうのだ。そればかりではない。地球ちきゅうの上うえに、目めに見みえる人間にんげんは、ひとりもいなくなるようにさえできるんだ。世界せかいじゅうの人ひとを、透明とうめい人間にんげんという、べつの人種じんしゅにかえてしまうことができるのだ。」

怪かい老人ろうじんの四角しかくなメガネのおくに、二ふたつの目めがランランとかがやいていました。金色きんいろに光ひかっているようにさえ、感かんじられました。老人ろうじんはこの大だい発明はつめいに、もう、うちょうてんになっているのです。大友おおとも少年しょうねんも、聞きけば聞きくほど、この発明はつめいの、あまりのおそろしさに、ブルブルと、からだがふるえてくるのを、どうすることもできませんでした。

老人ろうじんは、しばらくだまって、大友おおとも少年しょうねんの顔かおを見みつめていましたが、やがて、ニヤニヤと、みょうな笑わらいを浮うかべながら、こんなことを言いいました。

「どうだね、大友おおとも君くん、わしの弟子でしになりたくはないかね。そして、この大だい発明はつめいをたすける気きにはならないかね。」

「それには、どうすればいいんですか。」

大友おおとも君くんは、おそるおそるたずねました。

「きみが、透明とうめい人間にんげん第だい四よん号ごうになってくれればいいんだよ。」

老人ろうじんは、やっぱりニコニコしながら、ギョッとするような、おそろしいことを言いうのです。

「いやです。ぼく、いやです。透明とうめい人間にんげんにされるなんて、いやです。」

大友おおとも君くんは、まっさおになって、さけびました。

「ハハハ……、きみはこわがっているね。なあに、ちっとも、こわいことなんか、ありゃしないよ。そこの手術しゅじゅつ台だいで、ひと晩ばんねむればいいんだよ。はじめに、ねむり薬やくを注射ちゅうしゃするから、何なんも知しらないで、グッスリ、ねむってしまうよ。そうして、目めがさめると、きみはもう、透明とうめい人間にんげんになっているのだ。だれにも見みられないで、どんなことだって、できるのだ。きみは、童話どうわの魔法まほう使つかいになったと同おなじなんだ。え、どうだね。夢ゆめのような話はなしじゃないか。こんなおもしろいことが、ほかにあると思おもうかね。」

「いやです。ぼくの顔かおやからだが、なくなってしまうなんて、いやです。おとうさんや、おかあさんは、ぼくにあえなくなるし、友ともだちとも、わかれなければなりません。そんなことは、いやです。ぼく、魔法まほう使つかいなんかに、なりたくありません。」

大友おおとも君くんは、ひっしになって、ふしょうちを、となえましたが、老人ろうじんが、それに耳みみをかたむけるはずはありません。

「そんなに、いやかね。だが、いくらいやだと言いっても、きみは、わしのとりこなんだ。逃にげようとしても、この部屋へやには出口でぐちがない。ひみつ戸とをあけるやりかたさえ、きみは知しらないのだ。わしの命令めいれいにしたがうほかはないのだよ。さあ、いい子こだから、おじいさんの言いうことをきいて、じっとしているんだよ。」

怪かい老人ろうじんは、そう言いいながら、いきなりイスから立たちあがると、パッとコウモリのはねのように、外がいとうのそでをひろげて、大友おおとも少年しょうねんに飛とびかかってきました。そして、アッというまに、こわきにかかえて、手術しゅじゅつ台だいのそばに行いき、その上うえにねかせてしまいました。もう、いくらジタバタしてもだめです。怪かい老人ろうじんの鉄てつのような腕うでにしめつけられて、身みうごきさえできないのです。大友おおとも君くんは、とうとうかんねんの目めをとじました。

左ひだりの腕うでが、まくりあげられたのを知しっていました。しかし、もう目めをひらきません。もがいてみたって、どうにもならないのです。やがて、腕うでにチクリと、虫むしのさすようないたみを感かんじました。注射ちゅうしゃ針はりがささったのです。

「さあ、これでいい。きみはすぐ、ねむくなるよ。」

大友おおとも君くんはもう何なんも考かんがえないで、じっとしていました。しばらくすると、からだじゅうが、だるくなってきました。なんだかいい気持きもちです。ウツラウツラとねむくなってきました。どこからか、なつかしい子守こもりうたが、きこえるような気きがしました。そして、いつともなく、ふかいねむりにおちてゆくのでした。

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