← Library‹ 透明怪人 第三の尾行者

夕方ゆうがたの町まちには、ふしぎに人通ひとどおりがありません。シーンとしずまりかえっています。そして、町まちぜんたいにもやがかかったようで、うっかりしていると、ろう人形にんぎょうの怪かい紳士しんしは、そのもやの中なかへ、スーッと消きえてゆきそうでした。島田しまだ君くんは、ふと、ぼくはいま夢ゆめを見みているんじゃないかしらと、思おもったほどです。

怪かい紳士しんしは町まちかどをいくつもまがりました。そのたびに、少年しょうねんたちは、ますます見みおぼえのない町まちへ、はいってゆくのです。

いつのまにか、屋敷やしき町まちになって、両りょうがわに長ながいコンクリート塀べいが、つづいていました。少年しょうねんたちは、からだをかくすものが何なんもありません。塀へいにピッタリ身みをつけて、カニのように、横よこばいをするほかはないのです。

怪かい紳士しんしは、三十さんじゅうメートルばかりむこうのもやの中なかを、おなじ調子ちょうしで、コットリ、コットリ、あるいています。あるくたびに竹たけのステッキが、キュッ、キュッと、しなうのです。

いまにも、こちらをふりむくのじゃないか。そして、あの空洞くうどうの目めで、ぼくたちを見みつけて、おっかけてくるのじゃないかと、ふたりはもうびくびくものでしたが、さいわい、怪かい紳士しんしは一いち度ども、あとを見みないで、まるで、首くびをまわすことのできない、機械きかい人形にんぎょうのように、まっすぐに、あるいてゆきます。

コンクリート塀へいが、つきると、こんどはいけがきばかりの町まちになりました。いけがきは身みをかくすのに、つごうがよいけれども、さびしさは、ますばかりです。

ところが、そのころになって、もう一ひとつ、ふしぎなことがおこりました。尾行びこう者しゃがひとりふえたのです。ふたりの少年しょうねんは少すこしも気きづきませんでしたが、少年しょうねんたちの二十にじゅうメートルほどうしろから、ひとりの紳士しんしが、やっぱり、あとをつけていたのです。

紳士しんしといっても、それはろう人形にんぎょうではありません。ろう人形にんぎょうがふたりになったのではありません。三十さんじゅう五ご―六ろく歳さいの、新聞しんぶん記者きしゃとでもいったような服装ふくそうの、すばしっこそうな紳士しんしです。

この人ひとはふたりの少年しょうねんのあとをつけているのか、それとも、もっと先さきのほうをあるいている、ろう人形にんぎょうを尾行びこうしているのか、よくはわかりませんが、少年しょうねんたちのようにビクビクしていないことだけは、たしかでした。その証拠しょうこに、この紳士しんしは、さっきから、ニヤニヤ笑わらいながら、あるいているのです。へんな笑わらいかたです。なんだか、うすきみの悪わるい笑わらいかたです。

やがて、いけがきもつきて、いよいよさびしい原はらっぱになりました。そのへんに、いちめんに石いしがころがっていたり、れんがのこわれたのが、つみかさねてあったり、ごみが山やまのようにつんであったり、おそろしいほど、あれはてた場所ばしょです。

ろう人形にんぎょうの怪かい紳士しんしは、その原はらっぱの中なかを、つっきって、まっすぐにあるいてゆきます。あたりは、ますます、うすぐらくなってきました。あまり用心ようじんぶかくしていると、怪かい紳士しんしを見みうしないそうなので、少年しょうねんたちは、思おもいきって、あいての十じゅうメートルほどうしろまで、ちかよりました。そして、まるで、地面じめんをはうようにして、進すすんでゆきます。新聞しんぶん記者きしゃふうの紳士しんしは、やっぱりニヤニヤ笑わらいながら、これも少年しょうねんたちとのあいだを、グッとちぢめて、尾行びこうをつづけています。

石いしやれんがのゴロゴロした原はらっぱを通とおりすぎると、そのむこうに、何なんかギザギザのかたちの、大おおきなものが、黒くろくそびえていました。二に階かいか三さん階かいだてのれんがの建物たてものが、メチャメチャにこわされて、そのかべがギザギザの、のこぎりの山やまのようになって、のこっているのです。

ろう人形にんぎょうの怪かい紳士しんしは、そのこわれたれんがだてのほうへ、コットリ、コットリ、あるいてゆきます。そこが怪かい紳士しんしのすみかなのかもしれません。

れんがのかべが三さん方ほうだけのこって、一方いっぽうが入いり口ぐちのように、こわれています。もとは大おおきな部屋へやだったのでしょう。怪かい紳士しんしは、そのこわれた入いり口ぐちのところから、スーッと消きえるように、れんがのかべの中なかへ、はいってゆきました。

それを見みると、少年しょうねんたちは、ふるえだすほど、こわくなってきました。ふたりとも、今いまにも逃にげだしそうなようすでしたが、木下きのした君くんはグッと、ふみとどまって、島田しまだ君くんのうでを、つかみました。そして、かすかなささやき声ごえで、

「行いってみよう。」

と言いいました。そう言いわれると、島田しまだ君くんも逃にげだすわけにはゆきません。勇気ゆうきをふりしぼって、

「行いってみよう。」と答こたえました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%