← Library‹ 透明怪人 秘密室

明智あけちは電話でんわをきると、しばらく考かんがえていましたが、やがて、デスクの上うえのベルのボタンをおして、お手伝てつだいさんを呼よびました。そして、

「文代ふみよに、ちょっとここへくるように。」

と、言いいつけました。文代ふみよというのは、明智あけち探偵たんていのわかい美うつくしいおくさんの名なです。

文代ふみよさんは、もと名めい探偵たんていの助手じょしゅをつとめていたのですが、『吸血きゅうけつ鬼き』という事件じけんで、いろいろ、てがらをたて、その事件じけんが解決かいけつされたときに明智あけちと結婚けっこんしたのです。『虎とらの牙きば』の事件じけんでも、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうと知恵ちえくらべをして、まけなかったほどの、しっかりした人ひとです。

「ご用ようですの?」

その文代ふみよさんがドアをあけてはいってきて、明智あけちのそばに近ちかづきました。空色そらいろの洋装ようそうがよくにあって、まゆがこく、目めの大おおきい、美うつくしい人ひとです。

「いよいよ、透明とうめい怪人かいじんの事件じけんを、てがけることにしたよ。で、これから、ぼくは警視けいし庁ちょうの中村なかむら君くんのところへいくのだが、出でようとしていると、透明とうめい怪人かいじんの首領しゅりょうから、電話でんわがかかってきた。小林こばやし君くんが言いっていた、れいの四角しかくなメガネをかけた怪かい老人ろうじんだよ。」

「まあ、それで、なんて言いいますの。」

「手てをひけ。でないと、いのちがあぶないぞ……。きまり文句もんくさ。」

文代ふみよさんは、名めい探偵たんていのおくさんですから、そういう、こわい話はなしをきいても、びっくりするようなことはありません。

「でも、あいてには、目めに見みえない手下てしたが、ついているんですから、ようじんなさらないと。」

「ウン、ぼくも今いまそれを考かんがえていたのさ。こんどのやつは、よほど手てごわいらしいからね。げんに、こうして話はなしているあいだにも、透明とうめい人間にんげんが、この部屋へやにしのびこんで、立たち聞ぎきをしているかもしれない。目めに見みえないやつだから、すこしもゆだんができないのだよ。だから、きみとの話はなしも、ふつうの声こえでは、いけない。耳みみをおかし。」

文代ふみよさんは、明智あけちの口くちのそばへ、顔かおを近ちかづけました。明智あけちはその耳みみに、何なんかボソボソと、ささやきます。

文代ふみよさんは、うなずきながら、その、ないしょばなしを、聞きいているうちに、だんだん、まじめな顔かおになってきました。何なんか、ひじょうに、たいせつな、そうだんらしいのです。

話はなしおわると、明智あけちはさきにたって、部屋へやを出でました。文代ふみよさんも、そのあとにしたがいます。階段かいだんをおりて、奥おくまった一ひとつの部屋へやに、はいりますと、明智あけちはその一方いっぽうのかべに、ピッタリとせなかをつけて、立たちました。

「いいかい、ぼくのあとから、はいってくるんだよ。そうすれば、いくら透明とうめい人間にんげんだって、ついてくることはできやしない。」

明智あけち探偵たんていはかべのまえに立たったまま、右手みぎてをのばして、横よこにある柱はしらの、あるばしょを、グッとおしました。

すると、たちまち、ふしぎなことが、おこったのです。なにかヒラヒラとひらめくような感かんじがしたかと思おもうと、アッというまに、明智あけちのすがたが、かきけすように、見みえなくなってしまいました。

しかし、文代ふみよさんは、それを見みても、すこしもおどろきません。自分じぶんも同おなじように、かべにせなかをつけて、立たつと、また柱はしらのどこかを、グッとおしました。すると、ヒラヒラとして、文代ふみよさんのすがたも、見みえなくなってしまったのです。

明智あけち探偵たんていは、怪かい老人ろうじんにまけないで、人間にんげんのからだを、透明とうめいにすることを、発明はつめいしたのでしょうか、いや、そうではありません。そこのかべが、「がんどうがえし」になっていたのです。柱はしらのかくしボタンをおしますと、電気でんきじかけで、クルッと、うらがえしになって、そのかべに、くっついていた人間にんげんも、いっしょに、むこうがわへ、かくれてしまうのです。そして、その中なかに、だれもしらない、秘密ひみつ室しつがあったのです。

明智あけち探偵たんていと文代ふみよさんは、その秘密ひみつ室しつにはいって、何なんをしたのか、わかりません。それは、ずっとあとまで、読者どくしゃ諸君しょくんにもひみつにしておきます。

何なんをしたのかわかりませんが、二十にじゅう分ふんほどすると、ふたりはまた、かべの中なかから、すがたを、あらわしました。かべが、二に度ど、クルクルとまわって、明智あけちと文代ふみよさんが、出でてきたのです。

「では、警視けいし庁ちょうへ行いってくるからね。」

明智あけち探偵たんていは、そう言いって、部屋へやを、出でてゆきます。文代ふみよさんはそれを玄関げんかんまでおくりました。

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