← Library‹ 透明怪人 透明怪人第五号

目めかくしをされてしまったので、それからあとのことは、ただ、からだで感かんじるだけでしたが、自動じどう車しゃは、ふたたび動うごきだし、二十にじゅう分ふんも走はしって、どこともしれず、とまりました。そして明智あけち探偵たんていのからだは、ふたりの透明とうめい怪人かいじんによって、自動じどう車しゃから、かつぎだされ、広ひろいたてものの中なかに、つれこまれ、長ながい廊下ろうかを通とおって、とある部屋へやの、大おおきな安楽あんらくイスの中なかへ、ほうりだされました。

ふたりの透明とうめい怪人かいじんは、そのまま、部屋へやを出でていったらしく、しばらくシーンと、しずまりかえっていましたが、やがて、何者なにものかが、近ちかづくけはいがしたかと思おもうと、目めかくしの黒布くろめが、パッと、とりのけられました。

「ウフフフ……、明智あけち君くん、とんだめにあったねえ。わしは、一いち度ど、きみにあいたいと思おもっていた。だが、こんなに早はやく、あえるとは、ちょっと意外いがいだったよ。」

それは、れいの怪かい老人ろうじんでした。まっ白しろなあたま、胸むねまでたれた白しろひげ、ワシのように高たかい鼻はな、するどい目め、その目めには話はなしにきいた四角しかくなふちなしメガネが、キラキラと光ひかっています。身みにはころものようにダブダブした黒くろいガウンをまとい、両手りょうてをうしろにまわして、すこし前まえこごみに立たっているすがたはいかにも、おくそこのしれない、老ろう魔術まじゅつ師しという感かんじでした。

部屋へやは広ひろい洋室ようしつで、むかしはりっぱだったのでしょうが、いまは見みるかげもなく、あれはてて、まるで空家あきやのような、うすきみの悪わるい部屋へやです。テーブルとイスのほかには、なんの道具どうぐもなく、一方いっぽうのかべに、むかしふうの大おおきな暖炉だんろがついているのが、ただ一ひとつのかざりでした。

怪かい老人ろうじんは、明智あけちのたおれこんでいる、安楽あんらくイスの前まえを、いったりきたりしながら、なおもしゃべりつづけます。

「わしはうそは言いわん。電話でんわでちゃんと警告けいこくしておいた。きみはそれをバカにして、警視けいし庁ちょうへいこうとしたので、たちまち、こんなめにあったのだ。いまこそ、わしの力ちからがわかったじゃろう。え、明智あけち先生せんせい、なんとか言いったらどうだね。」

明智あけちはだまって、老人ろうじんをにらみつけていました。手ても足あしも、グルグルまきに、しばられているので、ざんねんながら、どうすることもできないのです。なにを言いわれても、がまんしているほかはありません。

「明智あけち君くん、きみはわしの大望たいもうを知しっているじゃろう。それは人間にんげんをひとりずつ透明とうめいにしてゆくことだ。百ひゃく人にん、千せん人にん、万まん人にん、透明とうめい人間にんげんの大だい集団しゅうだんをつくろうというのだ。まあ考かんがえてみたまえ。まったく目めに見みえない人間にんげんの大だい集団しゅうだんが、日本にっぽんじゅうを、いや、世界せかいじゅうをあらしまわるのだ。天下てんか無敵むてきの透明とうめい軍ぐんだ。ああ、それを考かんがえただけでも、わしはゾクゾクするほど、うれしくなる。」

怪かい老人ろうじんは熱ねつにうかされたように、とほうもないことを、しゃべりながら、明智あけちの前まえを、あるきまわるのです。

「だが、いそがねばならぬ、うっかりしていると、きみのような、じゃまものが、あらわれるからね。まだわしは、四よん人にんの透明とうめい人間にんげんを、つくったばかりだ。第だい一いち号ごう、第だい二に号ごう、第だい三さん号ごう、第だい四よん号ごう、この第だい四よん号ごうは、きみも知しっているとおり、子こどもだ。大友おおともという、なまいきな子こどもを、透明とうめいにしてやった。

ところで、そのつぎの第だい五ご号ごうはだれだと思おもうね。ウフフフ……、明智あけち君くん、わかるかね、それは、ほかでもない、きみじゃよ。名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうが、透明とうめい人間にんげん第だい五ご号ごうになるのだ。すきとおった名めい探偵たんていどのが、できあがるのだ。そして、きみは、このわしの手下てしたになりさがるのだ。わかったかね。いや、きみばかりではない。透明とうめい人間にんげん第だい六ろく号ごうはだれだと思おもうね。第だい七なな号ごうはだれだと思おもうね。中村なかむら係かかり長ちょうも、黒川くろかわ記者きしゃも、きみのかわいがっている、小林こばやし少年しょうねんも、わしに手てむかうやつは、かたっぱしから、透明とうめいにしてやるのだ。

ワハハハ……、ゆかい、ゆかい。わしの発明はつめいが、こんなゆかいなものだとは、今いまのいままで、気きがつかなかったよ。オイ、明智あけち先生せんせい、こわくはないかね。きみはもうすぐに、すがたがなくなってしまうのだよ。空気くうきのように透明とうめいになってしまうのだよ。空気くうき探偵たんてい、透明とうめい探偵たんてい、ワハハハ……、明智あけち大だい先生せんせいも、こうなっては、かたなしだねえ、ワハハ……。」

怪かい老人ろうじんは、おかしくて、たまらないと言いうように、きちがいめいた笑わらいを笑わらいつづけるのでした。

ああ、われらの名めい探偵たんていは、ほんとうに怪かい老人ろうじんに、まけたのでしょうか。老人ろうじんの魔手ましゅにかかって、透明とうめいにされてしまう運命うんめいなのでしょうか。明智あけちは、老人ろうじんにいくら笑わらわれても、へいぜんとして沈黙ちんもくをまもっています。なんだか平気へいきすぎるようではありませんか。いざというときになって、老人ろうじんをうちまかす自信じしんがあるとでも言いうのでしょうか。

われらの明智あけち小五郎こごろうは、おくそこのしれない知恵ちえをもっているはずです。わたしたちの、まったく気きづかない、どえらい計略けいりゃくがあるのかもしれません。アッと言いうような、最後さいごの切きり札ふだを用意よういしているのかもしれません。

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