← Library‹ 透明怪人 空家の怪

警察けいさつ署しょから、警視けいし庁ちょうに電話でんわでといあわせますと、透明とうめい怪人かいじん事件じけんのかかりの中村なかむら係かかり長ちょうが、明智あけち事務じむ所しょにとまっていることが、わかりましたので、また、そこへ電話でんわをかけ、中村なかむら係かかり長ちょうはすぐに、かけつけてくることになりました。

まもなく、警察けいさつ署しょ長ちょうと明智あけち探偵たんていとが、まっているところへ、中村なかむら係かかり長ちょうはふたりの刑事けいじをつれて、自動じどう車しゃでやってきました。

「おお、明智あけち君くん、ぶじだったか。よかった。よかった。で、あいつは、その焼やけビルの中なかにいるんだね。」

中村なかむら係かかり長ちょうは名めい探偵たんていの手てをにぎって、よろこびのことばをのべました。

「ぼくが逃にげだしたことを、気きづいたとすれば、おそらくもう手ておくれだろう。しかし、すぐにあのビルを包囲ほういしてくれたまえ。むろん、ぼくが案内あんないするよ。」

明智あけちも係かかり長ちょうの手てをにぎりかえして、答こたえました。

「よし、出でかけよう。だが、きみはその焼やけビルの中なかで、おくさんにあわなかっただろうね。」

「え、おくさんって、文代ふみよのことかい。」

明智あけちがびっくりしたように、係かかり長ちょうを見みつめます。

「うん、じつに申もうしわけないことをしたんだ。文代ふみよさんをさらわれてしまった。くわしいことは、あとで話はなすが、ぼくと黒川くろかわ君くんと小林こばやし少年しょうねんと、三さん人にんで文代ふみよさんをまもっていたんだが、何者なにものかが、ぼくにねむりぐすりのはいったコーヒーをのませた。それでグッスリねこんでいるあいだに、文代ふみよさんのすがたが、見みえなくなってしまった。そればかりじゃない。黒川くろかわ君くんも小林こばやし少年しょうねんも、すがたが見みえない。ひょっとしたら、ふたりは文代ふみよさんのあとを追おっているのかもしれないが、ぼくがでかけるまでにはかえってこなかった。ちょうどそのとき、見みはりの刑事けいじたちは、へんな道化どうけ師しにさそいだされて、きみのうちの裏口うらぐちをはなれていた。そのすきに文代ふみよさんをさらっていったのだ。」

中村なかむら係かかり長ちょうは、にせものの中村なかむら係かかり長ちょうと黒川くろかわ記者きしゃが、文代ふみよさんを自動じどう車しゃでつれだしたことも、小林こばやし少年しょうねんが、その自動じどう車しゃの下したへ、ブリキカンをとりつけたことも、まだ知しらないのです。

「ぼくはすこしも知しらなかった。しかし、ぼくにあわせないように、あのビルのどこかへ、とじこめたのかもしれない。いそいでくれたまえ。文代ふみよをたすけださなければならない。」

明智あけちは、さきに立たって、警察けいさつ署しょの玄関げんかんへ、かけだしていきました。

それから十じゅう分ふんとたたないうちに、署長しょちょうと中村なかむら係かかり長ちょうにひきいられた警官けいかん隊たいが、焼やけビルの中なかへ、ふみこんでいました。明智あけち探偵たんていは案内あんない役やくとして、まっさきにすすんでいます。

警官けいかんたちが、手てに手てにふり照てらす懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりが、小ちいさな探照灯たんしょうとうのように、まっくらな洋館ようかんのすみずみを、あかるくしました。しかし、人ひとかげはもちろん、道具どうぐらしいものもない。空屋あきやのような部屋へやばかりです。

一いち階かいから二に階かい、三さん階かいと、くまなくさがしまわりましたが、何なんもありません。だれもいません。三さん階かい建だての大おおきなビルの中なかは、まったくからっぽになっていました。すばやい怪かい老人ろうじんとそのなかまは、このすみかをすてて、どこともしれず、すがたをくらましてしまったのです。

もうさがすところもないので、警官けいかん隊たいは一いち階かいにおりてきました。明智あけちはやはり、そのせんとうに立たって、まっくらな廊下ろうかを、あるいていましたが、とつぜん、ふっと立たちどまって、まえのくらやみを、じっとみつめたかと思おもうと、やにわに、そのほうにむかって、かけだしました。

廊下ろうかのかどを一ひとつまがると、そこはもう、しんのやみです。そのやみの中なかに、何なんか黒くろいものが、ヒラヒラと動うごいているのが、感かんじられます。明智あけちはそれにむかって、とびついていきました。

「ワッ。」というような声こえがひびき、バタンとおそろしい音おとがしました。

明智あけちをおって、かけつけた警官けいかんたちの懐中かいちゅう電灯でんとうが、いくすじも、パッと、そこを照てらしました。明智あけちが上うえになって、何なんか黒くろいものを、おさえつけています。黒くろいダブダブの外がいとうのようなものをきた人間にんげんです。そいつが、明智あけちをはねかえそうとして、グッと顔かおをあげました。おお、四角しかくなメガネ、白しろいあごひげ、怪かい老人ろうじんです。悪魔あくまの首領しゅりょうです。明智あけちはみごとに、この大敵たいてきを、とっておさえたのです。

こちらには、おおぜいの警官けいかんがいます。もう逃にげようとて、逃にげられるものではありません。怪かい老人ろうじんは、たちまち手てじょうをはめられ、そのまま、ひったてられてしまいました。

怪かい老人ろうじんはどうして、こんなへまをやったのでしょう。いくらも、逃にげだすひまがあったのに、なぜビルの中なかにぐずぐずしていたのでしょう。そして、あいてが、いかに名めい探偵たんていとはいえ、こんなに、やすやすと、つかまってしまったのは、なんだかへんではありませんか。

しかし、透明とうめい怪人かいじんの首領しゅりょうをとらえたうれしまぎれに、だれも、そこまでは気きがつきません。すぐさま、中村なかむら係かかり長ちょうのさしずで怪かい老人ろうじんは自動じどう車しゃにのせられ、警視けいし庁ちょうにごそうされました。さてこれから、いよいよ、なんとも形容けいようのできない、ふしぎなことが、やつぎばやにおこるのです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%