← Library‹ 透明怪人 つむじ風

しばらくすると、店員てんいんのひとりが、三さん人にんの背広せびろすがたの刑事けいじさんをつれて帰かえってきました。ちょうどそのとき、デパートの見みまわりに来きていた刑事けいじさんたちです。

三さん人にんの刑事けいじは、店員てんいんたちをかきわけるようにして、入いり口ぐちのドアに近ちかづきました。そして、げんじゅうな身みがまえをして、パッとドアをひらきました。

すると、そのとき、部屋へやの中なかには、じつにおそろしいことがおこっていたのです。

倉庫そうこといっても、品物しなものがぜんぶ持もちだされたあとで、まるで、あき部屋へやのように、ガランとしていました。すみのほうに、大おおきな木きの荷箱にばこが二ふたつ三みつころがっているばかりで、ほかには何なんもありません。ネズミ色いろのコンクリートのかべ。ネズミ色いろのコンクリートのゆか。光ひかりは高たかい小ちいさい鉄てつごうしの窓まどから、さしこむだけですから、広ひろいからっぽの部屋へやは、夕方ゆうがたのように、うすぐらいのです。

さいしょ、刑事けいじの目めにうつったものは、宙ちゅうを飛とぶ人間にんげんの首くびでした。人間にんげんの首くびだけが、投なげつけられたように、ヒューッとゆかにおちて、ユラユラとゆれていたのです。

ふいをうたれた刑事けいじは、ギョッとしましたが、よく見みると、それはろう人形にんぎょうの首くびでした。そのそばには、燕尾えんび服ふくやシャツやズボンやクツなどが、メチャクチャに投なげすててあります。そして、怪物かいぶつのすがたはどこにも見みえません。身みにつけているものを、いっさいぬいでしまって、透明とうめいになっていたからです。いちばんあとで、かぶっていたろう仮面かめんをとって、今いま、投なげすてたところなのです。

三さん人にんの刑事けいじは、とっさに、それをさとると、いきなり部屋へやの中なかへ、ふみこんでゆきました。目めには見みえないけれども、手てさぐりで怪物かいぶつをとらえるつもりなのです。三さん人にんは、右みぎ、左ひだり、まん中なかと、三さん方ほうにわかれて、大手おおでをひろげてすすんでゆきました。そして、部屋へやじゅうを、のこるところなく、さぐりまわったのですが、何なんも手てにさわるものはありません。あいてには、こちらがよく見みえるのですから、この鬼おにごっこは勝負しょうぶになりません。怪物かいぶつにうまくすりぬけられてしまったのです。

すると、そのとき、ドアのそとで「ワッ。」という、さけび声ごえがしました。びっくりしてふりむくと、ひとりの若わかい店員てんいんが、廊下ろうかにしりもちをついていました。

「あいつだっ、あいつにつきとばされたんだ。」

しりもちをついたまま、まっさおな顔かおをして、うしろの階段かいだんのほうを指ゆびさしています。怪物かいぶつが自分じぶんをつきとばして、階段かいだんのほうへ逃にげたといういみです。

人々ひとびとは、いきなり、そのほうへかけだそうとしましたが、すると、またしても、「ワーッ。」と言いう、さけび声ごえがして、うすぐらい階段かいだんから、ひとりの男おとこが、ころがりおちてきました。目めに見みえぬ怪人かいじんと、階段かいだんですれちがったとき、つきとばされたのです。その男おとこは問屋とんやから荷物にもつを運はこんできた人夫にんぷでした。

「まるで、つむじ風かぜのようなものだったよ。階段かいだんをおりていると、下したのほうからヒューッと、風かぜが舞まいあがってきて、まともに、おれの胸むねにぶっつかった。ひどい力ちからだった。おれは思おもわず足あしをふみはずして、下したまでころがりおちてしまった。」

人夫にんぷは、あとで、そんなふうに説明せつめいしました。

そして、透明とうめい怪人かいじんは、どこともしれず、逃にげさってしまったのです。階段かいだんの上うえに出でて、人ひとごみにまぎれこんでは、もうどうすることもできません。広ひろいデパートの中なかです。すがたのある人間にんげんだって、なかなかさがしだせないのに、まして、目めに見みえぬ怪物かいぶつを、さがすなんて、思おもいもよらないことです。

あとでしらべてみますと、デパートの宝石ほうせき売場うりばなどでも、べつにぬすまれているものはないことがわかりました。むろん、怪物かいぶつは人形にんぎょうに化ばけて、ぬすみをはたらくつもりだったのでしょうが、その目的もくてきをたっしないまえに、木下きのした少年しょうねんのために、見みつけられてしまったのです。

さて、デパートのさわぎは、べつだんのこともなく、おわりましたが、透明とうめい怪人かいじんは、まだ東京とうきょうのどこかにかくれているのです。そして、つぎのえものを、ねらっているのです。そのつぎのえものというのは、いったいなんだったのでしょうか。それは、ふしぎなことに、怪人かいじんのさいしょの発見はっけん者しゃである、島田しまだ少年しょうねんのおうちの中なかにある、ある品物しなものだったのです。怪人かいじんはそれをねらって、島田しまだ君くんの身みぺんにあらわれることになります。お話はなしはいよいよほんすじにはいるのです。

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